第13話 俺は妹の笑顔を大切にしたいと思っている

「恵美は着たい服は決まったのか?」

「うん! 神谷さんと一緒に決めたんだよね」


 鈴木斗真すずき/とうまは、妹の恵美えみと同じベンチに隣同士で座り、自販機で購入したジュースを飲みながら話していた。


「よかったな」

「お兄ちゃんも、ここで買おうよ」

「俺は別のところで買うよ」

「でも」

「後さ、ちょっと話は変わるけど、昼は別のところで食べないか?」

「え、デパ地下じゃなくて?」

「そうだな」

「どうして?」


 妹は首を傾げていた。


「どうしても。ちょっと気分を変えたくなってさ」

「私、デパ地下で食べたかったんだけどなぁ」


 妹は残念そうな顔を浮かべていた。


 斗真は沙織さおりに話しかけようと心では思っていたのだが、実際に関わろうとすると、やはり、気まずくて行動に移せなかったのだ。

 先ほども、エスカレーターで移動していた沙織の姿を見て、身を隠してしまったくらいだった。


 斗真は妹を少々困らせてしまったと思いながらも、複雑な気持ちでジュースを飲んでいたのだ。


「……デパ地下で食べるのは、また今度な。その代わり、今日は俺が全額奢ってあげるからさ」

「それならいいんだけど……約束だからね、お兄ちゃん」

「わかってる。約束は守るよ」


 斗真は恵美の目をしっかりと見て、兄としての約束を交わすのだった。

 これ以上、妹を悲しませたくなかったからだ。




「お待たせ。私も買いたい服があって。少し時間がかかってごめんね」

「別にいいよ。あと、これね」

「オレンジジュース? ありがと。買ってきてくれたんだね」


 買い物袋を持っている神谷涼葉かみや/すずはに、斗真がジュース缶を渡す。


「それと、今から別の場所に行くから。デパートの外で昼食を取るってことで」

「アレ? デパ地下じゃなかったの?」

「それは今度ね」


 斗真はあっさりとした口調で涼葉に言った後、ベンチから立ち上がる。


「じゃあさ、別の場所で食事するなら、私がおススメのお店があるんだけど。そこでもいいかな?」


 そんな時、涼葉が提案してきたのだ。


「そこのお店って、ちょっとお高めな場所なんだけど。かなり品質がいい料理を提供してくれるお店で。一応、ハンバーガー系のお店ではあるんだけど。チェーン展開しているようなハンバーガーとは違って、ボリュームが凄いの。アメリカン風の大きさだから一個でも食べるだけでもお腹が膨れると思うし」

「そういう店もあるのか。それはいいかもな」


 斗真もそこに行ってみたいと感じていた。


「そのお店って、この近くありますよね?」


 ベンチに座ってジュースを飲んでいた恵美も話に加わって来た。


「恵美ちゃんは知ってる?」

「知ってます! 学校帰りに友達と一回だけ立ち寄ったことがあって。私もそこに行きたいです!」


 表情を曇らせていた妹も、パアァと明るくなり、行きたいといった顔つきになっていた。


「じゃあ、決まりね」


 斗真と恵美は、涼葉がイチオシしてくれたハンバーガー専門店へと向かう事にしたのである。




「いらっしゃいませ」


 涼葉が言っていた専門店はデパートから数分ほどで到着する場所にあった。

 入店するなり、店内から店員らの活気のある声が響いて聞こえてくる。


 お昼時という事もあってか、店内には数人ほど待っている人がいるのだ。


 斗真らも、入り口近くのベンチに座って待っている事にした。


 番号札を持ち、五分ほど待機していると、店の奥の方から駆け足で女性店員がやって来て、空いた席へと案内してくれるのだ。


「ご注文がお決まりになりましたら、お声かけ頂ければよろしいので」


 店内は混んでいた。

 女性店員も事を終えると、すぐに別のテーブルへ向かって行く。


 三人はテーブルを囲うように座っている。

 テーブルはファミレスのような長方形のモノではなく、丸い形状のモノだった。


 三人はテーブルにメニュー表を広げ、何を注文するか話し始めたのだ。


「ここのハンバーガー専門店はね、自分でトッピングを決められるの」

「じゃあ、チェーン店のハンバーガーのように予め決まっている商品はないってこと?」


 斗真はメニュー表に目を向けながら、涼葉に質問する。


「基本的にはそういうことになるわね。まあ、バンズは注文するとして、中身は選ばないといけないの。あとはテーブルまで届いたバンズに、ハンバーグやレタスとかを挟んで食べるって感じ」


 メニュー表には、完成形のハンバーガーの写真は掲載されておらず、ただハンバーガーに使うハンズやトッピング材料だけが載っている。


 トッピングは材料ごとに価格が決まっているようだ。

 バンズも、小さいサイズから特大サイズまで取り揃えられているようで、その大きさによって値段も異なる。


「だとすると、サンドイッチに近いのかな?」

「でも、大きさ的にはハンバーガーサイズなんだけどね。サイズはアメリカンだけど、摂取カロリーは意外と低くて健康的にもいいのよね」

「へえ、珍しいタイプのお店だね」

「そうなの。今はカロリーとかアレルギーを気にする人とか。他にもお肉を食べたくない人もいるじゃない? だから、その人たちの為に、自分の目で食材を選ぶ仕様になってるの。色々と組み合わせを考えないといけないから、そこに関しては大変ではあるんだけどね。一応、別枠で日替わりバーガーメニューもあるから、面倒なら、それにしてもいいかもね」


 涼葉はメニュー表に補足説明として記されている日替わりバーガーのところを指さしていたのだ。


「色々と考えられてるんだな」


 斗真は感心しながらメニュー表に目を通しながら、バンズに挟むトッピング内容を考えるのだった。




「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」


 女性店員が大きなトレーに、三人分のハンバーガー用のバンズと、トッピングとして三人が注文したモノを乗せて持ってきたのである。


「はい、大丈夫です」

「では、ごゆっくりどうぞ」


 涼葉の声に反応するように、店員は軽く頭を下げていた。


 他のテーブルからも声をかけられたようで、店員は今からお伺いしますと元気よく声を出し、駆け足で立ち去って行く。


「それにしても凄いね。店内で自分のハンバーガーを作って食べるって、そうそうないからさ。なんか、新鮮な気がするよ」


 斗真は下のバンズに一枚ずつ切られたレタスやトマト。それから定番のピクルスやハンバーグなどを順々に重ねていく。

 自分でアレンジできる事から、普段から知っているハンバーガーの倍くらいの大きさになっていたのだ。


「お兄ちゃん。大きい場合は、これを使って食べるんだよ」


 恵美が渡してきたのは、ナイフとフォークだった。

 今、完成された特製のハンバーガーは手では持つ事はどう考えても不可能である。


 恵美のいう通りに、ナイフとフォークを使って食べてみた。


 チェーン店のようなハンバーガーとは違った楽しみ方を堪能できていたのだ。


 重量感もあり、一口でも食べた後の満足感もある。


 妹の恵美も、自身で作ったハンバーガーを食べて幸せな顔をしていた。


 今日はデパ地下で食事はできなかった事に関しては申し訳なく思っている。


 今度は、妹の要望通りにデパ地下で一緒に食事をしようと思い、斗真も再びハンバーガーをナイフとフォークで食べ始めるのだった。

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