第9話 今日は地獄みたいな空気感になりそうだ
学校に到着し、教室にいる今、
教室内はいつもと変わらず騒がしい。
高校二年生になってからも、斗真の交友関係はそこまで広がらなかった。
基本的に一人で過ごす事が多い。
友達は欲しいとは思うが、大人数の人と関わって騒ぐのは好きな方ではなかった。
どちらかといえば、静かに過ごしたい派なのである。
友達といえば、後輩の
彼女は図書委員会でもある事から、昼休みの時間も結構業務が忙しかったりするのだ。
同じ学校に通っているものの、椿とは学校での過ごし方が異なり、学校の外で出会う割合の方が多かった。
椿は一人で本を読んだりすることが好きで、小説に限らず、漫画やビジネス書など。歴史関係の本を読むことがあるらしい。
ただ、好きな話になると早口になったり、時たま笑顔を見せてくれる事もあって、斗真の視線から見ても後輩らしくて好きだった。
好きといっても、恋愛とは少し違う。
先輩後輩との間柄として、関わっていて楽しいという事だ。
椿とは中学時代からの友達ではあるが、まさか彼女も斗真と同じ高校にやってくるとは想定はしていなかった。
椿は斗真にとって数少ない友達の一人であり、また同じ環境で一緒に過ごせると思うと安心するものだ。
元々椿と出会ったのは中学の頃だが、実際に直接会話したのは街中の本屋だった。
彼女と初めて関わった日の事を思い出す。休日に訪れた本屋で漫画を立ち読みしていた彼女と出会い、その当時好きだった漫画が同じだったという事もあり、親しくなれた感じである。
それが理由で、中学の頃は学校でも良く会話したりする事もあった。
椿は口数が少ない方だが、一緒にいると心が安らぐ。
同じ価値観を持っているからこそ、話さなくても安心できるのだろう。
斗真は自身の席に座ったまま、スマホを弄っている。
斗真は学校に到着した際に、明日の事について妹にメールを送っていたのだ。
その返答が返って来たかを、今確認していた。
スマホのメールフォルダを見てみると、妹の
恵美はまだ、涼葉の事を知らない。
涼葉の方も、恵美と直接会った事はないのだ。
家に帰ったら、妹に対して、涼葉とどういう間柄なのかをちゃんと伝えておこうと思った。
後は、どこの服屋に行くのかも確認しておかないとな。
斗真はスマホを片手に、再びメールを送る。
が、一分ほど待っても既読すらつかない。
恵美の方は中学に通っていて、すぐには返答が返って来ないのだと思われる。
妹が通っている中学では、スマホの持ち込みは可能なのだが、朝のHRの時点で電源を切るように言われ、担任の教師によって放課後まで回収されてしまうらしい。
基本、どこの中学校もスマホの持ち込みは禁止なのだが、恵美が通っている学校は結構ルールが緩く、一応持ち込みは可能なのだ。
恵美が通っている中学校は、斗真の高校よりも早くに朝のHRが始まる為、もしかしたら、今送ったメールは読まれていない可能性もある。
それから三分後待ってみるが、やはり、返答はなかった。
さすがに、恵美の方は朝のHRが始まってるよな。
スマホ画面に表示された時刻を見やると、八時二十五分になっている。
この時刻になっても返事がないという事は、そういう事なのだろう。
妹には家に帰ってから確認しようと考え、斗真はスマホを制服のポケットにしまった。
斗真が教室内にて一人で過ごしていると、校舎のスピーカーから朝の五分間だけのラジオ放送が流れ始める。
クラスメイトの
涼葉は放送委員会なのである。放送委員には定期的にお便り的なのが届くようで、彼女は今流行りのBGMをバックに、それを毎日読んだり、それについて回答したりしているのだ。
「――という事で、今日の放送は終わります。今日も一日頑張りましょう」
涼葉はいつも通りの明るい声で放送を終えると、音声を切っていた。
放送が終わった直後から、次第に教室内が騒がしくなっていく。
その間に、斜め前の席の
教室にいる沙織からは、チラッと視線を向けられる程度であり、話しかけられる事はなかったのだ。
いつも通り、沙織とは距離感のある関係性で過ごす一日が始まりそうな予感がする。
沙織とは寄りを戻さないとな。
昔のように幼馴染とは楽しく過ごしたい。
急に殺伐とした間柄になってしまったものの、こんな距離感のある間柄ではなく普通に会話したいのだ。
普通に会話をするにしても、どんな風に距離感を詰めていけば良いのだろうか。
斗真の中で、そんな想いに駆られていたのである。
そんな中、一人で考え込んでいると、その間に涼葉が教室に入ってきて、斗真に簡単な挨拶をした後に自身の席へと向かっていた。
斗真の中で結論が出る前に、駆け足で教室に担任教師がやってくる。
「では、今から朝のHRを始めますね」
女性の担任教師の号令と共にクラス委員長が先頭を切って立ち上がる。
委員長の挨拶に続くように、斗真を含めたクラスメイトも挨拶をするのだった。
「では、今日はいつも通りの授業になると思うから。後は……特にないかな。まあ、以上ですね。それから、今日の日直を決めないと」
朝のHRの終わりには、恒例の日直決めがある。
担任の教師が普段から持っているクジを使い、クジの箱から出た出席番号同士が、その日の日直になるのだ。
クジは三週間に一回リセットする。
このクラスには丁度三〇人がいて、ペアになると一五組になる。
三週間の平日だけカウントすると、大体十五日。
奇跡的にピッタリなのだ。
クジで選ばれたペアの内、片方が欠席の場合のみ、クラス委員長が協力する決まりになっている。
ただ、二人とも欠席の場合は、その時の先生の気分次第で日直が決まるのだ。
「今日は……鈴木さんと、亜寿佐さんね。二人とも今日はよろしくね」
え?
意外な事に、斗真は今日、沙織と日直を行う事になったのである。
斗真は現状を目の当たりにするなり、席に座ったまま硬直していた。
先生は、沙織の机に日直日誌を置いていたのだ。
それから今日の一日が本格的に始まるのだった――
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