第8話 明日一緒に遊ぼうよ!

 確かに、身だしなみは大切である。

 内面が良かったとしても、優しかったとしても、外見に違和感があれば評価は下がるものだ。

 高校生になったらなおさら重要だと思う。


 幼馴染の沙織さおりに振られた要因が、そこにあるのならば改善していこうと考えていた。


 せめて、沙織とは幼馴染としての関係性を取り戻したい。


 現状、沙織からは拒絶されており、関係の修復には消極的ではあったが、妹の恵美の為にも修復に努めていきたいと思う。


 斗真も身だしなみの重要性についてはしっかりと理解しているつもりだが、服選びが得意ではない斗真からしたら、一番の悩みどころであった。


 一先ず、今週の休みは街中の服屋に行くとして――


 翌日の朝。

 自宅を後にした鈴木斗真すずき/とうまは、妹の恵美えみと先ほどの交差点で別れた後、制服のポケットから取り出したスマホのスケジュール画面を確認していたのだ。

 今、斗真は学校に繋がっている通学路を歩いていた。


 昨日、妹から言われて気づいたのである。

 身だしなみも大切なのだという事に――


 客観的には気づき辛いものだが、他人からの視点があると、わからない部分が可視化されるものだ。


 斗真はスケジュールを確認した後、スマホのネット検索で夏服について調べていた。


 今はこんな服が流行ってるのか……。


 斗真はあまり服を買わないのだ。

 買うとしても、立ち寄った店屋にある服を試着室で着用し、良い感じだったら購入する程度である。

 どんな服が自分に似合っているのか、そこまで深く考えながら決めているわけではなかった。


 へえぇ、色々あるんだな。


 スマホ画面に映し出されているHPを見ていると、服にも種類があり、メーカーごとにデザインなども大きく違う。


 斗真は、今のところTシャツを購入しようと考えている。

 夏と言えば、カジュアル寄りの服装が妥当だろう。




「斗真、おはよう!」


 通学路を一人で歩いていると、神谷涼葉かみや/すずはから話しかけられる。

 彼女は元気よく、笑顔で挨拶してきたのだ。


 斗真はスマホから視線を離し、彼女の方を向いて挨拶をした。


「ねえ、何を見ていたの?」


 涼葉は歩み寄ってくるなり、斗真のスマホ画面を見てきたのだ。


「これなんだけど」

「それって、服屋のHP?」

「そうなんだ」

「何か買いたい服とかがある感じ?」

「まあね、身だしなみには気を付けようと思ってさ」

「身だしなみかぁ……そういえば、斗真って、普段はどんな服を着ているの?」

「よくわからない英文がついたTシャツとか。中学生の時からのズボンとか」

「それはちょっとね。高校生らしい爽やかな感じな方がいいかも」


 涼葉は、斗真の私服姿を見たことはないものの、彼女もちょっとばかし引いていた。

 斗真は、手にしていたスマホを制服のポケットにしまい、涼葉と共に学校に繋がっている道を歩き始める。


「じゃあ、私も服屋にお供してもいい? 斗真とは今後も付き合って行くわけだし。斗真が着る服を選んであげたいし。どうかな?」


 涼葉の方から提案してきた。


「別にいいと思うけど。服屋に行く場合は、一人で行くわけじゃないよ」

「誰かと一緒なの?」

「念の為に言っておくけど、俺には妹がいて、その子と一緒になるってこと」

「妹さんがいるのね。それでも私は気にしないよ」


 涼葉はむしろ、斗真の妹と一緒に買い物に行きたいといった感じだった。


「それで、服屋にはいつ行く感じ?」

「今週中の土曜日かな」

「だとしたら、明日ってことね」

「そういう事だね。時間的にも大丈夫そう?」

「私は問題ないかも。じゃあ、そういう約束でってことで」


 涼葉との休日の約束は、意外とすぐに決まった。


「そう言えば、妹さんはどこの学校に通ってるの? 私たちと同じ学校とか?」

「いや、違うよ。俺よりも二つ下で。まだ中学生なんだ」

「へえ、中学生ね。というか、中学生の妹さんにまで身だしなみについて言われるなんて、何か面白いね。妹さんって、斗真の事をよく見てるんじゃない?」

「そうかもな。おせっかいなところもあるんだけどさ。悪い子ではないし。妹の方からいつも話題をふって来てくれるから話しやすいんだよね。退屈もしないし」

「へえ、話をするのが好きって感じなのかな?」


 涼葉は顎に右手を当てて、妹の事を想像しながら問いかけてきたのだ。


「大体そんな感じ。料理とか掃除とかも好きで、色々とやってくれるんだよね」

「気が利く子じゃない。中学生でそんなに自立してるなんて。大切にした方がいいよ、斗真」

「俺もそう思ってるよ。あそこまで気にかけてくれる人はいないからね」


 斗真の交友関係は狭い方であり、妹が元気な感じの子で良かったと思っている。

 妹の恵美がいなかったら、気軽に相談できる人がいない事になるから、物凄く助かっているのだ。


「それで、斗真はどこの服屋に行くか決めてる感じ?」


 隣にいる涼葉から質問された。


「それに関しては妹の方が決めてるみたい。妹も行きたい服屋があるんだってさ」

「そうなのね。一応、街中の服屋なのよね?」

「多分、そうだとは思うけど」

「だとしたら、デパートの中にある場所? それとも、服を専門的に扱っている場所かな?」

「どうだろ。でも、妹の事だし、デパートの中にある服屋かも。妹って、母親と一緒に買い物に行く時もデパートの服屋だし」


 いつも通りと考えれば、デパートである。

 そうではない可能性もあると思う。


「へえ、そうなんだ。デパートの服屋ね。でも、私も買いたい服があるから、斗真と妹さんの服の買い物が終わったら、私が行きたい服屋にも来てくれるかな?」

「別にいいよ」


 斗真と涼葉の間で、話が順調に進んで行ったのだ。


 どの服屋に行くかについては、妹に聞いておこうと思った。




 明日の予定が決まった頃合い。

 学校内の昇降口に辿り着いていた。


「取り合えず明日ね。時間はいつ頃にする? 午前から? それとも午後?」

「それに関しては妹にも聞いてみないとわからないし。後で連絡するよ。涼葉さんとは連絡先を交換してるわけだし」

「わかったわ。決まったらお願いね」


 昇降口で中履きに履き終わった涼葉。

 彼女は用事があると言って教室には向かわず、別の場所へ向かって行く素振りを見せていた。


「どこに行くの?」

「放送室だけど。今日は私の担当で、あと一〇分したら朝の放送があるからちょっと急ぐね」


 そう言って、涼葉は立ち去って行ったのである。


 斗真は中履きに履き替えた後、教室へと向かって行く。


 廊下を歩いている際、斗真は再び制服のポケットからスマホを取り出し、片手で持ったまま、明日の事について妹の恵美にメールをしておくのだった。

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