第2話
「
と山岸は縋るような眼差しを向けて蓮宮に迫った。
「そうね。この学園の問題ですものね。ジャーナリストの私がこのままスルーするわけにはいかないわ。この話を聞いてしまったからにはね。他校の生徒が被害に遭ったのなら、なおさらよ」
と蓮宮はそこで言葉を切り、
「私に依頼したからには、あなたにも最後まで付き合ってもらうわよ」
と口角を上げて言った。
蓮宮と山岸は、
「あら、あら。萌を心配してくれて嬉しいわ。でもねえ……」
と萌の母はその顔に影を落とす。
「具合が悪いのですか?」
蓮宮が聞くと、
「中で話すわ。どうぞ上がって」
と暗い顔で二人を促した。
リビングへ案内されて、
「今、お茶を」
と、萌の母はキッチンへ行き、湯沸かしポットで湯を沸かし、紅茶の支度を始めたが、その表情はどこか虚ろだった。カチャカチャと陶器の当たる小さな音が響き渡るほど、この空間はとても静かだった。紅茶の準備が出来て、それを運んできて、カップへ注ぐと、蓮宮と山岸の前に差し出し、
「お砂糖はここに」
とそっとシュガーポットを置いた。
「ありがとうございます」
二人が礼を言って、砂糖を入れてゆっくりとかき混ぜ、カップに口を付けた。静けさはまだ続くのかと山岸は蓮宮を横目に見た。すると蓮宮は、一つ息を吐いて、
「ご心配でしょう。萌さんに何があったのか」
と口火を切ると、山岸へと視線を向けた。それは、萌の母にも、あの時のことを語るようにと暗に言っている。
「実は……」
山岸が語り終える頃には、萌の母の顔色は血の気が引いていた。
「それは……。つまり、呪われたと?」
声を震わせている。それは怒りなのか、恐怖なのか、どちらにしても、山岸に向けられた感情ではない事は確かだ。それでも、あの時なぜ、彼女らを止められなかったのかと、悔やむ気持ちでいっぱいになり、身体を硬くしていた山岸は、肩に暖かみを感じて目を向けると、蓮宮が肩に手を置いて、こちらを向いて、穏やかに笑みを見せた。それは心配するなと言っているようだった。
「お母さん、萌さんに会わせてもらえませんか?」
蓮宮が言うと、萌の母は、
「ええ」
と小さく答えて、二人を萌の部屋へ案内した。
「萌、お友達が来てくれたわ。開けるわよ」
と声をかけたが、返事はなかった。それでも、萌の母は戸を開けて二人へ、
「どうぞ」
と声をかけて、自分は下へと降りて行った。部屋の窓には遮光カーテンが引いてあり、室内はとても暗かった。
「斎藤さん、山岸です。心配になって会いに来ました」
山岸が声をかけても、まったく反応がなかった。
蓮宮はベッドに横たわる萌に近付いて、その顔を覗き込んだ。
「ああ~」
と一言言って、深くため息をついた。何かが分かったようだった。
「蓮宮さん、何か分かったの?」
と山岸が聞くと、
「憑いてるね」
と答えた。まるで、それが日常の何でもない事のようにさらりと言う。蓮宮にとっては、こんな事、日常に起きている普通の事なのだろうか? 山岸がそう思っていると、
「他の子たちは、大丈夫だった? 藤崎さんと吉川さん。そして、あなた」
蓮宮が聞いた。
「たぶん……。藤崎さんと吉川さんは記憶が消えている他には、いつもと変わらない。私は特に何も」
山岸が答えると、
「何か持って行った? 身を守るアイテム」
と蓮宮が聞く。
「一応、お守りを」
と言って、山岸が制服のポケットからお守りを出して、蓮宮に見せると、
「それは賢明だったわね。他の二人も、似たようなアイテムを持っていたのかもしれない。ただ、斎藤さんはそれを持っていなかった。それで憑かれた。分かったことは、あの廃校舎には居るって事。そして、失踪者が出ると言う噂、本当に失踪していたら警察が動いて、事件として報道されているでしょうね。失踪というのはでっち上げでしょう。こういう事にならないように、あの廃校舎へ近付けさせない為の苦肉の策的な? 大人の策略」
ここで言葉を切って、
「そこで、問題はこれからよ。大人たちでもこれをどうにも出来ずにいた。それを、私たちで解決しようというのは、些か無謀ともいえるわね。さて、どうしたものか? まずは、斎藤さんに憑いているこれを引きはがしましょう。もちろん、私がやるわけじゃないわ。私はジャーナリストであって、霊能力者じゃないの」
と言葉を続けた。蓮宮に出来なくても、手立てはあるのだと、蓮宮の言葉に希望が
見えて、山岸はほっと胸を撫で下ろした。
「霊能力者の知り合いがいるの?」
山岸が聞くと、
「居ないわ。だって、私、高校生よ。これから探すのよ!」
と蓮宮は目を爛々と輝かせて言った。なんだか、楽しんでいるように見える。
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