第6話 そこはマジで平安時代っぽかった! By扶久子

 そのイケメン公達きんだちのお兄さんは私のちょっと怪訝そうになった表情に気づいたのか、慌てた様に自己紹介?をしてきた。

 別に不審がっていた訳ではないのだけれど…。


「姫君、わたしは関白右大臣かんぱくうだいじんが嫡男で藤原義鷹ふじわらのよしたかと申します。本日はこの神社に母の病平癒祈願に参っていたのですが…その姫君はどちらの姫君でしょうか?供の者は?」


「え?は?姫って…?か…関白右大臣?一体何を…?」

 一瞬、何言ってんのこの人?私はキャストじゃないよ?どっかでカメラ回ってんの?ときょろきょろと周りを見渡すがカメラも機材も見当たらない。


 私はたらりと冷や汗をながした。

 いや、まさかそんな?

 そんな漫画みたいな事ある訳が…でもしかし…が頭の中を占める。

 や、ドラマじゃあるまいし?と思いつつ再度確認のつもりでそっと周りを見渡す。

 周りにはあたら生々しい生活感のあるらしき装束の人々の姿である。


 『ま・じ・か・ぁ・ぁ・ぁ!』と私は心の中で叫んだ。


 まさかと思うけど!あり得ないとか思うけど!!


 でもでも!撮影用のカメラも機材も見当たらない現実と周りの生々しいまでの現実味…!


 『タイムスリップだ!』と私は確信した。

(後に『似て非なる世界』だと気づくのだがこの時は本気でそう思っていた)


 やっべ~マジか!そりゃ、そんな風なのになったら楽しいかもとか妄想した事は山ほどあるさ!けどさ!そんな事になるならでなりたかったよ!と頭の中で雄叫びをあげた。


 とりあえずは、今を乗りきらなきゃである。

 とりあえず現代に戻れるまで何とか生き延びないとけない!っつ~か戻れるのか?私ってば!マジ、ヤバい?


「えっと…あの…と…(亜里沙達)とは先ほどの落雷ではぐれてしまって…あ、私は大多おおた扶久子ふくこと申します」


「扶久子殿と申されるか…はて?大多おおた家?宮中ではその名はあまりお聞きした事がございませんが、もしや遠方からもうでに参られたのでしょうか?」


「え?あ、ああそうですね。讃岐さぬきからです」

 私はあえて四国の香川県…とは言わず昔々の呼び名讃岐さぬきと答えた。


「なんと!讃岐さぬきと言えば遠い海の向こうと聞き及びます。そのような遠くから!それなのにこんな天災に見舞われるとはおいたわしい!の者ともはぐれたとなればさぞかしお困りでしょう?」


「え、ええ。そうですね。本当にどうしましょう。一緒にいたも見つかりませんし…今宵の宿すら私にはわからず」


「そうでしょうね。世話をするの者がおらずでは姫君お一人では何かと心もとないでしょう…。姫君、よろしければ供の者が見つかるまで我が右大臣家の屋敷に参られませぬか?」


 何やら私の言う『友』と違うニュアンスの『供』という言葉に若干、引っかかるもそこはスルーして言葉を続けた。


「えっ?宜しいのですか?」


 (やった!これぞ不幸中の幸い?)と私は心の中で万歳したが、取りあえずそこは隠しつつお姫さまブリッコをしつつ受け応える。

 とっさに思ったのだ。

 本当はだなんて事がバレたら保護してもらえないかもしれない!

 学生服じゃなくて良かったと心から思いつつ両手を組みつつうるっと涙をにじませ藤原のお兄さん…義鷹よしたか様を見ましたさ!


 すると「うっ!」と何故か義鷹よしたか様が頬を赤らめあとずさった。

 そして「お、お気になさらず!」とだけ言って顔をそむけた。


 あれっ?ヤバい!ブスの上目遣いなんて気持ち悪かったかしら?う~ん…亜里沙だったら一発KOでハートをぶち抜いちゃう仕草なんだけどなぁ~と軽く凹みつつも、何とか今日の宿は何とかなりそうなことにほっとし、お礼を言った。


「私のような見ず知らずの者にそのようにお声をかけていただきありがとうございます。正直どうしてよいやら分からず途方に暮れておりました」と、とりあえず大河ドラマとか時代劇でみたような口調で丁寧にお姫さまっぽくを心がけて言ってみましたさ!はい。


 そしてしばらく義鷹よしたか様は境内の中や神社の周りなども一緒に亜里沙達(義鷹よしたか様は供の者だと思っている)を探してくれたけど二人は見つからなかった。

 きっと落雷の影響で?私だけがタイムスリップしてしまったのだろうと私は肩を落とした。

 こんな状況でも亜里沙と一緒だったら楽しめたと思うのに…と泣きたくなった。


「姫君、ご心配召さるな。家の者に申し付けて姫君の供の者らは捜査を続けます故、ご実家の方にも日にちはかかっても文は送らせましょう程に…」と義鷹よしたか様は私を気遣うように言ってくれた。


 うぉぉ~何この人!イケメンなのに、むっちゃ良い人なんですけど!と私は感動した!

 流石に撮影用の『なんちゃって十二単』とは言え、この恰好では義鷹よしたか様が乗ってきたという馬に一緒に乗ることもままならず義鷹よしたか様は取りあえず、お供の人に屋敷に先に戻り私の事を伝えて牛車の迎えをよこし部屋の用意もするようにと命じた。

 着物の裾が土につかないように前でまとめて持ち上げるがこれがなかなか重い。

 本物の十二単だったなら私は迎えに来てくれた牛車にすらとても乗り込むことが出来なかっただろうと思う。


 しかし、右大臣家って、なんか相当身分高くない?

 確か左大臣、右大臣ているよね?あとなんだっけ?帝の次位に身分高くなかったか?あれっ?でもそういや藤原家ってあの藤原…だよね?


 いや、でも藤原家って代々、左大臣家じゃなかったっけ???左大臣の方が確か偉かったんだよね?あれ?どっちも藤原なのかな?源氏物語でも藤原のなんちゃらってでてきたよね?やっぱりこれはタイムスリップ?と思うもののちゃんと史実をおぼえている訳でもなく自分の知識の薄さに不安は募るばかりだった。


 う~ん光源氏の世界には憧れてたものの実際の歴史とか亜里沙の方が超絶詳しかったんだよね。


 亜里沙がいたら本当に心強かったのに…と、またまた寂しくなった。


 心に浮かぶのは、お父さんお母さん…よりも頼りになる親友の亜里沙の顔ばかりだった。

 ごめんよ!父母ちちはは…修学旅行から帰ってこなかったらきっと心配するよね…。

 そんな事を考えると涙が溢れそうになった。


 そして私は案内されるがままに義鷹よしたか様について行き右大臣家のお屋敷にやってきたのだった。

 義鷹様に手伝ってもらいながらもなんとか牛車から降り立つ。

 そして私はまた驚いた!

 (家、でっけぇ~! 寺かと思ったよ!)

 それはもうどこぞの神社仏閣かと思われるほどの広くて大きな立派なお屋敷だった。庭には松の木や大きな池があり、色とりどりの立派な鯉がゆうゆうと泳いでいる。


 そして意外にも、何故なぜ何処どこの馬の骨とも分からない私を右大臣家では、それはそれは大歓迎してくれたのだった。

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