第6話


 馬車が城についた。騒ぎを聞きつけ、守備隊が集まっている。

「ラファエル。一つ貴方に言っておきます」

 王妃が静かな声で言った。

「何故【シビュラの塔】に厳重な警備を敷かないのか、と貴方は言いましたね?」

 小さくラファエルは頷く。

「かつて、そうしようとしたことがあります。

 特別な守備隊を作り、神域を警護させていたのです。

 規模は、王宮の守備隊に引けを取らないほどでした。

 ある夜、警備に当たらせていた守備隊が全滅したのです」

「全滅した……?」

 ラファエルはさすがに怪訝な顔をした。 

「みな、殺されていました。

 あの島に上陸していた部隊は一人残らずです。

 森の守備隊は無事だったのですが」

「何者の仕業ですか?」

 王妃は首を振った。

「――人ではありません。遺体を確認した者は、みな、『獣に食い荒らされたような酷さだった』と声を揃えました」

「……獣……?」

「それ以来、島には警備を置いていません。あの地が、天然の要塞のように外界からの侵入者を拒むことは、貴方も知っていますね。しかし今日のように、稀に侵入して来る者も、長い歴史の中ではいたのかもしれません。いても、死んでいるだけなのかも」

 王妃はラファエルを見た。

「ラファエル・イーシャ。

 今宵の貴方の働きに、私は深く感謝し、信頼をします。

 貴方はヴェネト王妃を救って下さり、我が国の神域を、脅かすものから遠ざけて下さった。陛下も同じように、貴方に感謝するでしょう。今宵はこれで休みますが。……貴方にはいずれ、話の続きを聞かせましょう」

 数秒見つめ合い、ラファエルは騎士の所作で一礼をすると、馬車の扉を開き先に降りた。

 恭しく王妃の手を取り、馬車を下りるのを助ける。

 王妃は歩き出し、ラファエルはその場に残った。

 ロシェル・グヴェンが守備隊と共に出迎え、何か少し王妃と話したが、そのまま二人で城の中に入って行った。

 ラファエルは全ての人々が王妃に傅いていなくなると、馬車の壁に寄り掛かって、空を見上げた。

 夜空が醒めて、紫がかって来ている。

 西の空を見ると、霧の中に白い【シビュラの塔】の影が見えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る