第3話 魔法
「え、それはストーカーでは?」
「ちょっ、いきなり犯罪者呼ばわり⁉︎」
冒頭からいきなり体裁の悪いことを言うこの女は同期入社の
「だってレジのそのウルフカットの子目当てでコンビニ通ってるんでしょ?」
「それはまぁ……はい……」
「はい、死刑」
「刑が重すぎる⁉︎」
「えー、だって知らん人間がわざわざ自分に会いに来てるとか、ちょっとキモくない?」
「いやっ、でもちょっとお話もしてるし知らない人では――待って、私キモい?」
「弁明の途中で自信なくなるじゃん」
「今急に客観視して自分のことが怖くなった……!」
確かに店員さんとはちょっとお話したけれど、コンビニ店員がお客と言葉を交わすのは仕事の範疇では?
本当は迷惑に思っていたとしても話しかけられたら無視するわけにもいかないし……それを私は勝手に顔見知りになれた! って思い込んでいたのでは……? 認知バイアス……?
「もしかしてあの子、内心では私のことめちゃくちゃキモい客だと思ってるのかも……?」
「急に情緒不安定になるじゃん」
情緒乱高下の同僚を哀れに思ったのか、早季の口調が少しだけ優しくなる。
「まぁ話聞く限り、そんなに嫌われてはいないんじゃない? 嫌いな相手の好きなもの食べようなんて思わないでしょ」
昨日のスープの件を例に挙げて安心させようとする早季に、私も弱々しく頷いた。
「だ、だよね……! ――あぁでも待って! この後コンビニ行くの怖くなってきた! 早季、ついてきてくれないっ⁉︎」
「やだよ、バカ」
同期入社の絆なんてこんなもんである。人間関係なんて儚い。
*
昨日はルンルンで入店したコンビニの前でウロウロ、不審な動きで店内を窺う。……あっ、今日もいた! と一瞬で舞い上がるけれどこれで向こうにも「あっ、今日も来た……」って思われたらヤだな……と一瞬で盛り下がる。
んんん……今日はやめとくべき……? でもでもここまで来たのに入らないのもそれはそれで変に意識しすぎてるというか、別に私だって今のところは普通の客だし特に構えずに入ればいいのでは? ――って、さっきから脳内で言い訳すごいな? というか外から店内を覗き込んでウロウロ不審な動きをしている今がまさにストーカーちっくなのでは?
……ヤバい、通報される前に帰ろう、と踵を返しかけた瞬間、ガラス越しにぱちっ、と彼女と目が合った。
「…………」
気まずい数秒が流れ、それから、
「…………っ!」
癖なのか、くい、と少し首を傾げるような仕草と共に、彼女は、ひら、と胸の前で小さく手を振った。可愛い仕草とは裏腹にすごい真顔、いやでもそれが可愛い――というか、え、私に振ってる? ……はっ後ろ――誰もいない! 私だ! わ、わあぁぁぁ!
ピロリンピロリン。
気づいたら入店してた。え、魔法?
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