第3話

「お嬢様、今日はお庭でマッサージ……というのはいかがでしょうか? せっかくのいいお天気ですから」

「そうね、たまには悪くないわね」


 空が青々と晴れ渡るある日。私はお嬢様に提案して、中庭で施術をすることにした。日除けのパラソルやら椅子やらを用意して、青空店舗の支度をする。


「それにしても、素敵なお庭ですね。色んなお花が咲いていて」

「まぁね。でも、手入れは庭師の仕事だから、私は全く関与していないけれど」


 くるくると毛先をいじりながら、どうでも良さそうに草花を見るお嬢様。この庭には何の植物がどう植えてあるだとか、全然関心がないと言う。

 少し勿体無いなと思った私は、試しに近くに咲いているハーブを紹介してあげることにした。


「お嬢様、これはパチュリという名前の植物です。少し自然味の強い香りですが、心を落ち着けるのにぴったりですよ」


 一口にハーブと言っても、色々な種類がある。フットマッサージ師として働くうちに、こういうことにも興味を持つようになった。


「あ、カモミールも咲いてますね。『あなたを癒す』という花言葉の通り、癒し効果の高いお花です。冷え性緩和にも効きますので、お嬢様にぴったりですよ」

「あら、そう。ちょっと見せてごらんなさい」


 お嬢様が腰を屈めて、私に覆い被さる。ふわっと香る、フレグランスの香り。


「あっ……」


 カモミールの茎を持つ私の左手と、お嬢様のきめ細やかな右手が、ほんの一瞬だけ触れ合った。


「そう言えば、カモミールティーって言うのを飲んだことがあったわ。昔、中々寝付けなかった時に、ユーリが作ってくれたの。ミルクと蜂蜜がたっぷり入ってて……」


 ……お嬢様が何か言っていたけど、私はそれどころじゃなかった。心臓の鼓動が速くなって、頬が熱くなるのを止められない。

 薄々分かってた。お嬢様と居ると、こうなってしまう自分がいること。


「ねぇ、エリカ」

「ひゃい!?」


 思わず、変な声が出る。青く澄んだ瞳が、私のことをじっと見ていた。


「せっかくだから、今日はこのカモミールを使ってくれない?」

「あっ、はい! かしこまりました……!」


 小さく汗を拭って、私は立ち上がった。心の中で、少し気持ちを整えながら。

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