第5話 おばちゃんついに一線を越え、「この野郎!」発言する!

タメ口に慣れちゃったおばちゃんと17歳。特に柿の種とはえらく仲良くなった。

コンビニ業務には、たばこの補充がある。


ところがおばちゃん、タバコを吸わないので、銘柄がさっぱりわからない。よく聞く「ハイライト」「セブンスター」「ピース」程度ならわかるのだが、「メビウス」なんだそりゃ? 「フィリップモリス」「ウィンストン」「アメリカンスピリッツ」「ラッキーストライク」?「キャメル」は、聞いたことがある。そこに加えて、「電子タバコ」なるものまであるではないか! その数は250種類以上にも及ぶ。


カートンで棚にしまわれているのだが、探し出す方法は、バーコードの下四桁だ。陳列されているタバコの値札をひっくり返すと、バーコードがある。その下四桁の数字を覚え、しゃがんで棚にしまわれているタバコのカートンに張り付けられているバーコードと同じものを探す。


これがおばちゃん苦手なのだ。じっと見つめて数字4個を覚えるのだが、しゃがんだ瞬間忘れてしまう。買い物かごを1個用意して、探し出したカートンを放り込んでいくが、とにかく時間がかかる。「やっとこ全部探し出したぞ!」とほっとしているおばちゃんに、柿の種が声を掛ける。


「おばちゃん、どこまで探しましたか?」


「一応全部」


「ふ~~ん」


柿の種、おもむろに陳列されたタバコと、おばちゃんが出したカートンが入った籠を見つめる。そして、腰をかがめて、しまわれているタバコを覗き込む。


「柿の種~。これで君がまだ見つけ出したら、おばちゃん泣くよ~」


その言葉を柿の種は無視する。そう、17歳男の子なんてそんなもんだ。


柿の種は、もう1個籠を用意して、その中へどんどんとカートンを放り込んでいく。奴はバーコードなんか見ていない。ちらっとタバコを見ただけで、同じタバコのカートンをどんどんと引っ張り出す。


「この技はなんだ?」


おばちゃんはあっけにとられている。


「数字(ニコチンの量の表示)と。文字の色・箱の色で見つかりますよ。例えば、1って数字と、文字の色が赤くって、箱が緑色ならこれです」


すっと、正解のタバコを手に取り、籠に投げ込む。


「17歳だと、こういう見つけ方ができるんだぁ~」


おばちゃんは言葉を失う。でも、真似をしてみる価値はある。おばちゃんは、6という数字と「ウインストン」と書かれた白いパッケージ、大きさを比較して選び出し、柿の種に見せた。


「あってる?」


自信はあった。が……。


「違います。パッケージが柔らかい。硬い箱が正解です」


(がぁ―――――ん! 箱に軟らかいだ硬いだって違いもあんの?)


おばちゃんは心の中で喫煙者を非難する。


(同じウインストンの6ミリで、箱が堅い軟らかいで、吸った時になんか違いがあんの? 作る方も、そんなもんで差別化図るなよぉぉぉぉ―――!)


おばちゃんは思わず柿の種の左肩に左手を置き、右手はたばこの陳列棚に添えて俯いた。


「この野郎! おばちゃん泣くぞ!」


呟いてから気がついた。17歳男の子の肩に触っちゃった! セクハラだ! 


柿の種だって、おばちゃんに触れられたんだ、なんか反応あるか? まさかハエ叩き喰らうとか? 


しかも「この野郎」って言っちゃった! パワハラ発言だよな? 


ビビるおばちゃんに対して、柿の種は無反応。そろぉ~~っと見上げたが、笑ってるだけだ。


(なんか、おかしい気がするが……。何だろう?)


おばちゃんは、柿の種に違和感を持ったが…… わかんない~。


そしてもう一つ、おばちゃんは喫煙者にもセクハラをしちゃった。


(昔はぁ~。男性がメンソール吸うと、あれが役に立たなくなるって言われてたけど、なに、このメンソール系フレーバーの多さと、それを当たり前に買っていく男軍団?)


どうやら今は、メンソールや甘いフルーツ系フレーバーが当たり前らしい。ミントやベリー・バニラもあるぞ? 古すぎるおばちゃんは、味があるタバコが理解できない。


「僕、煙にお金払う気ないけど、ミントガムを吸ってるって思えばいいと思う」


柿の種、いろいろな香りを不思議がってるおばちゃんに、サクッと言ってカートンをポイっと籠の中へ放り込んだ。


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