第4話 おばちゃん、リアル「思わず顔がぼっと赤くなる!」を目撃する!

柿の種は週6日働いてて、4日働いているおばちゃんとは常に一緒だ。自然と親しくなってくる。というか、もう、完全「タメ口」のお友達ポジションだ。


けれど、17歳男の子から見た「おばちゃん」と定義される年代は、自分の母親から上だろう。母親ですら疎ましいと思う年代だ。


まるっと「おばちゃん世代」に対しては「塩対応」しているようだが、スクーター事件以降、おばちゃんにだけは「砂糖対応」だ。


ある日おばちゃんは、出入り口へと走っていく柿の種の姿を見た。このコンビニは自動ドアでないので、手で開けなければならない。彼の姿を追っていると、両開きのドアを全開にし、おじいちゃんが乗った車いすを押して入ってきた。


おじいちゃんが礼を言うが、17歳は結構恥ずかしがり屋だ。「お愛想」を言うスキルはない。柿の種は、黙ってレジに戻ってきた。その人が買い物を終えると、柿の種はまた車いすを押して店から出ていった。


その姿に感動したおばちゃんは、戻ってきた柿の種に声を掛けてしまった。


「柿の種って、ほんと思いやりがあって、困っている人に手を差し伸べることがちゃんとできる、優しい子だね。女の子にもてるでしょう?」


(やばい! 最後の一言はセクハラ発言だ!)


おばちゃんは内心冷や汗をかいている。が、柿の種は恥ずかしそうに俯き、身体を揺らしながら、


「僕……。女の子、苦手だから……」


小さな声で呟く。


(セクハラ、セーフ! てか、なに、この可愛い生き物!)


猫背で俯いている柿の種は、やばいほど純粋だ。


(今時、これほど素直で優しくて純情な17歳の男の子っているの?)


おばちゃんの頭の中にいる17歳は、ベッドの下にエロ本の一冊くらい隠してるイメージだったが、柿の種はそれに当てはまらない。


などと感心していると、突然柿の種がレジに背を向けて、3歩そこから逃げ出した。


「???」


おばちゃんは柿の種の背中を見た。避難を終えた柿の種が振り向いた。


その顔は……、


まさに小説でしか書かれない「恥ずかしさのあまり、ぼっと顔が赤くなった」そのまんま。


「おっどろいたぁ~」


と呟くおばちゃん。黒いマスクと前髪を眼を隠してはいるのだが、そのわずかな隙間から見えている頬が、真っ赤っかで、明らかにうろたえている。


「同級生……」


息も絶え絶えにボソッと呟く柿の種。


レジを見ると、高校生の女の子と母親がいた。なるほど、まさかアルバイト先で同級生の女の子と鉢合わせするとは思わなかったんだろう。


「柿の種! お前真っ赤だぞ?」


リアル「ぼっと顔が赤くなる」を目撃したおばちゃんは、笑いが止まらない。んで、セクハラ発言をぶっこいている。


「ツボったぁ~。彼、真っ赤かですよ~」


おばちゃんはレジを打ちながら、17歳2人に茶々を入れる。柿の種は、隠れていて出てこない。


「やだぁ~。可愛すぎるぅ~。恥ずかしがってますよぉ~」


また、セクハラ発言。


女の子も、どうリアクションしていいかわからないようで、ほんの少し見えている柿の種を、言葉なく恥ずかしそうに見ている。


「2人とも、可愛すぎるぅ~。だめ、ツボったぁ~」


おばちゃんはバンバンセクハラ発言を繰り出しているが、本人たちはそれどころじゃない。


会計を済ませると、またおばちゃんはセクハラ発言だ。


「柿の種。彼女帰るよ~」


こういう時、女の子の方が積極的だ。


彼女は、すっと手を挙げて、恥ずかしそうに「ばいばい」と手を振った。が、柿の種は酢だこになったままだ。


おばちゃんは眼で、「ほら! なんかリアクションしろ!」と圧をかける。


柿の種は、何とかウエスト辺りまで右手を挙げて小さく手を振ったが、恥ずかしさが臨界点を振り切ったらしい。そのままバックエリアに逃げ込んでしまった。


いやはや、おばちゃん、小説の中にしか存在しないと思っていた、「羞恥で思わず顔が真っ赤になる」と表現できる男の子にリアルで会えるとは思わなかった。


しかし……。


完全にセクハラ発言をしてしまったおばちゃん。柿の種が店長に訴えるか? それはなさそうだ。17歳の「セクハラ触角」が、カタツムリの眼程度の長さで助かった。


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