第3話 おばちゃん「バイク・クイーン」になる
夜8時頃だった。17歳コンビがレジにいない。客もいないから、まぁいいんだけど、どうしたんだ? おばちゃんは、駐車場をきょろきょろ。17歳コンビに加えて、数人の男の子がわらわらしている。17歳の世界には関わらないと決めてるおばちゃん、「まぁ、いいか」と放っておいたら、チロルチョコがやってきた。
「友達のバイクのエンジンがかからなくなっちゃって……」
おばちゃん、これでもバイクの中型免許を持っているから、おばちゃんの知識が役に立つかもと、駐車場へ行く。
見ると50㏄のスクーターだ。チロルチョコが、スクーターを壊しそうな勢いでキックし続けている。
「押しがけするとか」
柿の種が呟く。おばちゃんは即座に答える。
「だ~~め! スクーターはオートマだからね。『押しがけ』はギアを2速か3速に入れて、坂道を駆け降りるってのがまぁ、一般的だな。ギアがないスクーターで、押しがけは不可能なんだよ」
おばちゃんの説明に、誰も理解できていないようだ。まぁ、スクーターに乗ってる子に、バイクの仕組みはわかるまい。14個の眼がおばちゃんを見る。
「おばちゃん、オートバイに乗ってるんですか?」
「うん。若いころに400転がしてた」
おばちゃんの言葉に、驚きの声が次々上がる。
「すっげ―――! なに乗ってたんっすかぁ~?」
「GPz400。今でいうNinjaだな」
Ninyaは、カワサキのスーパースポーツモデルの最高峰だ。17歳にはあこがれの的だろう。
「おばちゃん、カッケ――――!」
(あざ――す!)
心の中で感謝。
そんなこんなしているうちに、またチロルチョコがキックした瞬間、エンジンがかかった。
が……。
グリップを握っていた持ち主の17歳、すぐにアクセルを吹かさなかったから、ぷしゅ―――っと、またエンジンが止まってしまった。
「お前なぁ――――! せっかくエンジンかかったのに、なんでアクセル回さなかった! このドアホ!」
おばちゃんはつい叫んでしまったが、これは完璧な「パワハラ」だ!
(やばい!)
ところが本人、全く気にしていない。
「あっれぇ~~~」と頭を搔く。
(セーフだったか?)
ほっと胸をなでおろすおばちゃん。どうやら17歳の「パワハラ触角」は、まだカタツムリの眼程度の長さらしい。
それか……、
おばちゃん、もしかして17歳に同化しちゃってる?
ちょっと不安だ。
だが、いつまでも店をほったらかして、17歳たちとたむろっている暇はない。おばちゃんは最後の知恵を宣言する。
「いいか? これから2分間、黙とうしろ! 絶対にスクーターには触るなよ」
おばちゃんは17歳たちに命令する。
そして2分後。
「よし! エンジンかけてみな!」
おばちゃんの言葉に、17歳、ソロソロとスターターボタンを押す。
「ぶろぉ~~~ん!」
「かかったぁ――――!」
17歳男の子の群れは、大はしゃぎだ。
おばちゃんは(やっぱりな)と、納得。だが、あれだけキックしてもエンジンがかからなかったスクーターに、2分間の黙とうを捧げただけでかかった理由がわからない17歳の群れは、おばちゃんを不思議そうに見る。
「あれだけキックかけたでしょう。やりすぎると点火プラグがガソリンで濡れて、点火しなくなる場合が結構あんの。だから、ガソリンが
おばちゃんの説明に、17歳の群れは尊敬の眼差しだ。
「おばちゃぁ~~ん。ありがとう~~~」
柿の種とチロルチョコを残して、17歳5人がバイクで去って行く。店に戻ると、2人は「一緒に働くだけの年配のおばちゃん」という衝立を除去していた。
(ぎゃぁぁぁ――! やっちまったかも~。店長からセクハラ禁止命令が出た時、おばちゃん、17歳と接点があるわけない! と鼻で笑ったはずなのに、しっかり関わってるじゃん。しかも『タメ』だぞ? 『タメ!』。やばくない? あのね、おばちゃんと君たちの年齢差考えると、おばちゃんのタメ口って、セクハラ発言になりかねないんだけど?)
ビビるおばちゃんを無視して、客がいないときには、17歳、素で遊んでる。おばちゃんの眼なんかまったく気にしていない。普通、「おばちゃんが店長にチクるかも?」とか思わね?
思ってない!
商品のポケモンカードを買っては、「外れ~。もう一個買う?」と、10パックくらい買って遊んでるのを、「お前ら時給を5分で使い果たしてるぞ?」と言っても、全く平気。
それに、あのバイク連中も
「おばちゃぁ~~ん。来ましたぁ~」と、遊びに来るではないか!
おばちゃん、17歳の男の子たちの、「バイク・クイーン」に祭り上げられてしまった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます