第2話



そん次はなんだったかな。

なかなかの悪党が持ち主だったな。

あん、前のガキか?

あー、たしか貴族のところに突っ込んで、取り囲まれて殺されたんだったか……?

余計なことするからよお、まったく。

もう十分強くなったぞ、さっさと復讐にいかなくて良いのかって散々聞いてやったのに、あっちこっちでその貴族の悪行を正すって譲らなくてよ。

そんなんしてるから貴族側もしっかり準備万端整ってたし、頭のイカれ具合も進んじまって、結局はおじゃんだぜ。

本当ならあの貴族も兵隊どもも、斬れたはずだったのによ。


そうこうしてたら別の持ち主ってわけだ。

俺はよう、持ち主の手を離れちまったら何もわかんねえし、時間の流れもあんまよくわかんねーからよ、気付いたら別の持ち主に握られてるっつーわけよ。

それに持ち主の頭ん中を覗けるわけでもないから、経緯なんてもんはさっぱりわかんねえんだわ。

とにかくさっきもちょっと言ったけど、その次のやつは大層な悪人でなあ。

考えつく限りの悪行ってのを片っ端からやったんじゃねえか?

人間ってのはすげえなあ、俺にゃあ思いつきもしねえことを次から次にするんだからよ。

まあ俺には関係ないってんで、なるべく人を殺せよって言ったらよ、殺すのは最後の手段だとか言いやがって。

なるべく殺さないで、うまく活用するのが良いんだとかなんとか。


は?

いや、知らねーよ。

善だとか悪だとか、剣に言ってどうすんだよ。

そういうのは持ち主に言ってくれ。

剣には善悪も何もねーんだからよ。

そんなもんは使う人間次第だろ?

街中で使やあ殺人鬼で、戦場で使やあ英雄だ。

それが良いとか悪りいとかは、剣が考えるこっちゃねーだろ。

持ち主が悪だってんなら、それは人間が持ち主をどうこうしてくれりゃあ良いだけの話だろ?

俺は剣として持ち主に力を与える、それだけだ。

あん?

そーだろそーだろ。

俺はしっかり魔剣だぜ。


そんでその持ち主はうまくやってたみたいで、結構長く使ってくれたんだけどなあ。

どっかでトチったみたいで兵隊どもに追われてなあ。

まあそのおかげで最後にたらふく食えたから、こっちとしてはありがたかったけど。

百か二百は殺した末に大往生だ、もしかしたら有名になったんじゃねえの?

おお、やっぱり有名になってんのか。

戦場の英雄ならともかく、悪党の最期にしちゃあ上出来だろ?

あいつもなあ、もうちょっと俺をうまく使ってくれたら、あんくらいさっさと皆殺しにして逃げおおせただろうに。

もったいねえな。

は?

それくらいできるに決まってらあな。

こちとら今までどんだけの戦場を渡り歩いて来たと思ってんだ。

もうほとんど覚えちゃいねーが、一騎当千の英雄なんて呼ばれる持ち主だって居たんだぜ?

あの頃は良かったなあ。

戦場に出て俺を一振りすりゃあ百は当たり前、時には千も食うことができたんだからよ。

俺はあんまり好きでもなかったけど、他の死体にぶっ刺せばカラッカラのミイラにもしてやれたし、自分で言うのもなんだがありがたがられてたんだぜ?


いや、名前を言われてもわかんねーよ。

俺は剣だぜ?

どこぞの聖剣とやらは持ち主を選ぶらしいが、俺は血をくれるなら誰でもいい魔剣だからな。

持ち主も、斬る相手も選ばないのに、個人を識別する力なんて要らねーだろ?


まあ、俺の来歴はそんなもんだな。

今度はお前えのことを教えてくれよ。


なあ、新しい持ち主さんよ。

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