魔剣物語
Nikolai Hyland
第1話
おいおい、どこを見てるんだ。
ここだよここ、お前の手の中。
そうそう、俺は魔剣だ。
あん?
そりゃ魔剣って言ったら魔剣だよ。
代償はあるけど、持ち主に力を授けるっつー素敵な剣だよ。
ちょっとばかり精神がイカれてくるけど、俺を持つだけで剣術の達人になれるし、何でもかんでも斬れるし、すげー力を発揮するんだぜ、お得だろ?
この前はなんだったかな、腐敗した貴族に恋人や家族を殺されたっつーガキが持ち主でよ、そんなガキでも俺を持てばあら不思議、途端に立派な剣士様ってなもんだ。
最初の内はとりあえず冒険者にでもなって金稼げよってんで、冒険者に登録させたわけよ。
は?
そりゃ冒険者ぐらい知ってらあな。
何年生きてきたと思ってんだ。
こちとらお前えの人生の何倍も魔剣やってんだからよ。
まあいいや、それでとにかく冒険者にでもなって生活の基盤を整えろって言ったわけよ。
とにかく今すぐ復讐に行きたいってグズるガキをなだめすかしてよ。
いくら俺がすげー力を持った魔剣だっつってもよ、まともに剣を持ったのが初めてなんつうガキが、いきなり貴族のとこに突っ込んで生きてられるかっつったら、そりゃ無理ってもんだろ。
多勢に無勢だしよ、何より俺のことをちゃんと使いこなせなきゃ、勝てるもんも勝てねーよってな。
まあとにかくそういうわけだからってんで、冒険者にならせたわけだ。
最初はとにかく俺をしっかり振れ、当たれば何でも斬ってやるって教え込んでよ、いくら達人級の剣術が身につくって言っても、それを使う心構えってもんがなけりゃ、宝の持ち腐れだろ?
そうやって、やればできる、俺を持ったお前の力はこんなもんだぞってのを身体に染み込ませていったわけ。
そうしてっと、冒険者ランクなんつーもんは自然と上がるんだわ。
どんな魔物でもスパッと斬るだけで終わりなんだから当然だわな。
まあ、それだけなら簡単だったんだけどな。
魔物より弱くても、ずる賢い人間を相手にすると危ない場面もあったりしたんだぜ?
どこぞの街道を狩り場にしてる盗賊団がいてなあ。
移動も兼ねた商人の護衛の仕事をしてたんだが、案の定その盗賊団に襲われたんだわ。
それなりに冒険者ランクも上がって、有名になってきたとはいえ、見た目はただのガキだからな。
前線に出てきた賊は膾切りにしてやったけどよ、遠くから弓で射られたり、追いかけてもさっさと逃げたりでなんともうまくいかねえもんだ。
それでガキも頭に血が上っちまってよ。
他の護衛にここで商人を守れって言って、自分は一気に近づいて殺すっつーわけだな。
俺は散々、それこそ普段から耳にタコができるくらいには『落ち着け』『無理をするな』って言ってんだよ。
でもガキだからか、もう既に精神がイカれてきてたのか、まったく聞きゃしねえ。
そうして突っ込んでって、目に入る賊は全部斬り殺して戻ったわけよ。
そうしたらどうなったと思う?
ああ、そのとおりだ。
馬車は荒らし尽くされ、商人も他の護衛もみーんなぶっ殺されちまってた。
道中でちょっとばかり仲良くなってた連中だったし、そん中でも同年代の女のガキが居なくなってた。
ま、お察しってやつだわな。
そんでブチギレたガキが、賊のねぐらを探すっつってひとりで山狩りを始めたんだわ。
まともに飯も食わねえ、まともに寝もしねえでやるもんだから参っちまったぜ。
こんなとこで野垂れ死にされたら、俺はどうしろってんだってなあ?
まあなんとか連中のヤサあ見つけて、皆殺しにして帰ってこれたけどよ。
女のガキはもうぶっ壊されちまってたな。
俺には感情なんてもんはないからわかんねえけど、そいつに『お前のせいだ』って責められたなら、逆に良かったんじゃねえかな、知らねーけどよ。
でもそいつは結局、殺してくれとしか言わなかったな。
俺としちゃあ関係者全員まとめて血を吸えて、ごちそうさんってところよ。
あ?
ああ、悪りい悪りい。
自己紹介がまだだったな、俺は血を吸って成長する魔剣。
人は俺を『ブラッドスレイブ』なんて呼ぶこともあるぜ。
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本作は2025/1/1 21:00に第一話投稿後、30分間隔で続きが投稿されます。
7話完結で24:00まで、本編8,000字弱です。
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ご無沙汰しておりますニックです。
本作は『カクヨムコン10』の短編部門に応募しております。
なにとぞ、応援のほどよろしくお願いします。
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