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本日2話投稿(2/2)

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 翌朝、まだ依頼を受ける冒険者達で混雑しているパーティ募集の掲示板の前で、青白い顔をした女の子が具合の悪そうに立っていた。

 あまり調子が良くないのか獣人特有の頭の上の耳がくたりと倒れ、髪の毛と判別が難しいくらいには溶け込んでいた。

 鑑定をしてみると「テミル 15 精霊術師」と表示されて、近くには地の精霊が飛んでいる事に気が付いた。


「あの、もしかしてパーティ募集されていたテミルさんですか?」


 僕が話しかけるとこちらに顔を向けて笑顔になって返事をしてくれた。


「そうです!そちらは、クルトさんで合っていますか?」


 少し血色の良くなった彼女が不安そうに聞き返してくる。


「そうです。時間があるならあちらで話しませんか?」


 そう言って僕は冒険者が良くパーティでの相談や待ち合わせに使うスペースを指し示す。

 喜んで頷いてくれた彼女と共に移動し、彼女のまともな様子に首を傾げる。あまりおかしなことをしそうには見えないのだけど、ミズナの言う通り精霊に騙されているのだろうか?


「こちらとしては長くパーティを組んでくれるのなら、テミルさんの育成を手伝うのは構わないと思っているます。ですけどそもそもなんであんなボーナスの取り方をしているんです?」


 聞きたいことは色々とあるけど、一番気になっていた疑問をぶつけてみて彼女の出方をうかがうことにした。


「それに関してはワシが説明しよう。あまり長く喋れるほど強い子ではないのでな」


「デ、デボボ!私が説明するから。それくらいは出来るよ!」


 近くに浮いていた地の精霊が話に割って入ってきたけど、慌てて彼女が主導権を取り戻した。


「む、そうか?では黙っているとしよう」


「ありがとうデボボ。突然大声を出してすみませんクルトさん」


 人前では大人しくしている精霊が、突然話しかけてきて声を上げてしまうのは僕にも経験がある。


「大丈夫ですよ。それで、体が弱いという風に聞こえましたけど?」


「あ、はい。私は昔からよく病気にかかっていて大病にかかった時に見かねた両親がパーティを組んでレベルを上げてくれたんです。

 ボーナスを取ったおかげで病気は何とかなって、両親も私が10歳になったらまたレベル上げを手伝ってくれる事になっていたんです。

 でも…ある日依頼に出た両親が大怪我をしてし帰ってきたんです。私の病気のせいで蓄えもあまりなかったので怪我も治せず、そのまま冒険者を引退してしまいました。

 私もなんとか1人でゾンビを倒してレベルを上げようとしてるんですが、今の生命力倍化のレベルでは体の不調を完治させるには足りないみたいで、行き詰まってしまい、わらにもすがる思いで募集を出しました」


「ふーん、なるほどね。元々の生命力が低すぎて倍化させてもあまり効果がないのかな?でも戦いなんて精霊に任せて座っていれば良いじゃない」


「それがなぁ、この子は獣人族にしても魔力が低い方で、従来の不調に魔力切れの不調も合わさって気絶してしまいおったんじゃ。ゾンビには襲われぬとはいえ襲って来るのは魔物だけではなかろう?魔法は止めて殴って倒してもらうことにしたんじゃ」


 レベルを上げていたはずの両親が5年以上前の怪我で未だに復帰できていないということは手足を失うような怪我でもしたんだろう。

 確かレベル6に上げるにはゾンビが千匹くらいだったかな?僕なら半月もかからず倒せるけど、立っているだけでふらつき始めた彼女では、毎日魔物の領域に行くことすら難しいのではないか?


「ということはまず生命力倍化を取り終わってから経験値倍化を?元々育成するつもりだったので構いませんけど、道のりは長そうですね。とりあえず椅子に座って下さい倒れそうで怖いです」


「すみません、ありがとうございます」


 ふらふらと揺れている彼女を椅子に座らせて、精霊達と話し合いを進める。


「生命力倍化に全部注ぎ込んでいたら治っていたかも知れないのになんで体力や頑丈なんて関係ないものを取らせたんだい?君が止めなきゃ駄目じゃないか」


「ワシが彼女を見つけたのは3年ほど前でな、その時にはもうこの状態だったんじゃよ。それに体力と頑丈はおそらく両親の愛じゃろう、子供に元気で丈夫でいて欲しいとでも思ったんじゃろうな」


「そうです!デボボは悪くありません!元々は風の精霊が寝たきりの私の所にたまに話しをしに来てくれていたんです。でも、両親とレベルを上げてボーナスを取ってからは何処かに行ってしまって…」


 地の精霊をかばおうとした姿とは打って変わって、彼女は肩を落として縮こまってしまった。


「風かぁ…なら仕方ないね、君が思い通りにならなかったから興味を失ったんだろう。説明不足なのも納得だよ」


 あいつら遠距離攻撃好きだし…とミズナが呟いたけど、精霊によって好みなんてあるんだね。ミズナが話してくれる英雄譚は偏りなんてなかったから気が付かなかったよ。いや、魔法が使える英雄が多かったかな?


「とりあえず理由は納得しましたし、問題は無さそうなのでこのままパーティを組んで欲しいのですけど。どうです、テミルさん?」


「よろしくお願いしますクルトさん!」


 病弱ではあるけれどそれはレベルを上げれば何とかなる事なので大した事ではないし、性格も今のところ問題はない様に見える。精霊が見えるどころか精霊術師なので求めていた人材と言えるだろう。


「無事に決まった所でちーっとばかしお願いがあるのだがの?」


 パーティを組むことが決まって改めて挨拶をしていたら地の精霊ことデボボが頼み事をして来た。


「お願いがあるってどうせ何のボーナスを取るか口を挟みたいとかでしょ?ちゃんと僕が育成も最善のボーナスの取り方も教えてあげるから安心しなよ。君は次の英雄の卵でも探しに行けば良いんじゃないかな?」


「嫌じゃ嫌じゃ!魔法狂いの水共ならいくらでも候補が見つかるじゃろうけどな!精霊術師で防御ガチガチの壁役になってくれそうな子など滅多におらんのじゃぞ!?この子を諦めたら次は何百年後になるか分からんのに諦めとうない!」


 老人の姿をした地の精霊が突然空中で地団駄じだんだを踏み始め、ミズナも僕も呆気にとられる。


「あの、精霊術師で居たいのはデボボと一緒に居たいからなので追い出されては困ります…」


「そこまで言うなら提案くらいは聞いてあげるけど、こんな病弱な子をよく壁役に育てようなんて考えるよね」


 ボクなら魔法使い2人で手数で勝負するよ。とミズナが言い出したけどそれではパーティメンバーを探し始めた時と何も変わらない。

 確かに病弱な子を壁にするのは酷いかも知れないけど、レベルを上げた今ならボーナスさえ取れば何とか出来るという信頼がある。


「そうか?まぁワシも伊達に3年間この子をどう育てるか考えてきたわけではないのだよ。

 その中でもお主達との出会いは最高と言って良い、これならばこの子を最高の壁役に育て上げることが出来ると確信したわ!

 聞きたいか?聞きたいじゃろう?ならば聞かせてやろう!

 まず取るのは生命力倍化じゃこれは譲れん、病弱なままでは魔物の領域を歩く事すらままならんからな。

 だが次に取るのは経験値倍化…ではなく!必要経験値減少じゃ!壁役が魔物を倒す事は少ない…そこで倒すのはお主らに完全に任せてしまえば効率よくレベルを上げられるという寸法よ!」


 突然大声で演説をぶち上げ始めたのでテミルさんが申し訳なさそうに頭を下げ始めたけど、精霊の声は周りに聞こえていないから大丈夫だと思うよ。


「完全に寄生する気って事じゃないか…壁役に育てるのはいいけど、それだけだと足りないよね?先を話しなよ」


「その後はじゃな、頑丈と筋力倍化をちょちょいと取って、第3職業まで増やしたら戦士と聖職者に転職して自分を回復出来るようにした後、モンスター誘引を取って一応の完成じゃな。そこから先は有用な耐性を取りに行くか魔力量を上げるかは状況次第じゃ」


「ふーん、それだとレベル50近くまでかかっちゃうか、攻撃しないなら筋力を半分後回しにして先に転職させたらレベル40で完成出来るかな。

 うん、良いんじゃない?彼女の体調次第だけど遅くても2日はかからないと思うよ。」


「2日…私の苦労は……」


 テミルさんが小声で何か言っていたけど、それくらいの日数なら確かに大したことはない。

 パーティメンバーが2人になって効率が半分になるから時間がかかるかな?と思っていたけど、必要経験値減少はレベル10で1/100まで下げてくれたはず。

 途中からはまた数匹でレベルアップなんて事になるんじゃないだろうか。


「そういえばテミルさん、今日はこの後大丈夫?出来れば魔物の領域に行こうと思うんだけど」


 細かい話は精霊達に任せて、僕はこの後の事を話し合っておこうと思ってテミルさんに話しかける。


「はい、今日は体調がいいので魔物の領域に行くつもりでしたから大丈夫です。

 それより呼び捨てでいいですよ、クルトさんがパーティのリーダーなんですし」


 いつの間にかリーダーにされていたけど、確かに育成されている側がリーダーではやり難いだろう。


「分かった、慣れるように頑張るよ。

 さぁ2人とも、続きは後にして魔物の領域へ向かうよ。まずは受付に行ってパーティ登録をしようか」


「あ、ついでに掲示板の募集を下げてもらいますね。」


 今だに話し合いが続いている2匹を止めるとテミル…が掲示板を剥がして持って来る。

 受付でミニ神殿の魔導具使わせてもらい、パーティメンバーが見つかったので募集を取り下げることを伝えて紙を差し出す。


「無事に見つかって良かったですね」


「はい!ありがとうございました」


 笑顔で微笑み合っている2人を見ながら受付嬢に僕もお礼を言い、冒険者ギルドを後にした。

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