004

 家に帰った僕は持って来たアイテムを使って、父さんに装備を作ってくれるように頼んだ。

 数は少ないけど失敗しなければ一式は出来上がる計算だ。


「ついに息子の取ってきた素材で装備を作る日が来たんだねぇ。なんだか感慨深いよ。

 安心してくれていい、父さんは失敗しない凄腕の錬金職人だからね。」


 失敗しないは言い過ぎだと思うけど、錬金職人用のボーナスを取って成功率は上げているんだろう。父さんの詳しいステータスは知らないけど本人は自信満々だ。


「それじゃあ鋼鉄の杖と硬皮の防具一式をお願い。」


「このくらいの装備なら本当に失敗はしないから大成功を祈ってくれればいい。」


 そう言って素材を分けてから父が手をかざすと、素材が溶け合って黒い渦が空中に出来上がる。

 父が不気味な渦に躊躇ちゅうちょも無く手を突っ込むと中から金属の棒を引っ張り出した。


「残念、大成功にはならなかったな。」


 受け取った杖は少し生温なまあたたかく、頑丈そうな金属の杖は見た目通りかなり重い。


「おお!大成功したぞ」


 僕が杖を見ている間に先に進めていたらしい父の目の前には金色の渦があって、中から手甲を取り出していた。


「どうする、売るか?売るなら店に並べるが、結構いい値段になるぞ?」


「売らないよ。僕だってカードを手に入れるかも知れないんだからスロットはあったほうがいいでしょ」


「まぁそれはそうだが、あればかりは運だからなぁ」


 カードというのは魔物がたまに落とす金属の板だ。大きさは冒険者ギルドのタグと一回りくらいしか変わらないんだけど、薄いからカードと呼ばれるようになったらしい。

 装備に使うとボーナスのように装備者を強くしてくれるアイテムで、月に1つどころか半年に1つしか出ないくらい落とす確率の低いアイテムでもある。運の無い人だと1年くらい出ない事もあるそうだ。


 スロットというのは錬金術で装備を作った時に大成功すると現れる、カードを装備する事の出来る枠だ。

 この枠が無いとカードが使えないし、使った場合取り外すことが出来ない。強い装備だとこの枠がいくつもあってカードを何枚も使えるんだ。

 まぁ安くても金貨1枚はするから全身を埋めているような冒険者は滅多にいない、それこそ一流と呼ばれる人達くらいだろう。


「さぁ出来たぞ。大成功は1つだけだったな」


「ありがとう父さん。これで次の魔物の領域に安心して行けるよ」


「もうそんなにレベルが上がったのか?いや、最初はそんなものだったか?」


「もうちょっとレベル上げも素材集めもしたかったけど内側の方は人が多すぎて…」


「人族は人口が多いからなぁ、エルフの里は人が少ないから狩り放題だったんだ。その分買取額が安すぎてお金が貯まらないから父さん達は旅に出たんだけど」


 買取額は半額なのにカードの値段は人族の街と変わらないなんてあのボッタクリ商人め!と父が悪態をつく。


「そういえば前に使っていた装備も中古で売ってあげるから出しておきなさい。どうせ剣も防具もろくに使ってないだろう?」


 確かに最初の頃にゾンビやスケルトンと戦って汚れたくらいで、後は魔法を遠くから撃っていただけなので傷もほとんど付いていない。

 剣は欠けてはいるけどスケルトンを少し倒しただけだからまだまだ使えるだろう。


「せっかく買ってもらったのにごめんね。ちゃんと役にはたったから…」


「なに、エルフ族の最初なんてそんなものだ。武器や防具を持って冒険者を始めるやつの方が少ないからな。

 父さんも母さんも鞄だけ持って精霊に任せっぱなしだったぞ?」


 どうやらもらった装備は人目を誤魔化すためのものだったらしい、孤児でもなければ装備を買い与えるのが人族の習慣なのでそれに合わせたんだそうだ。

 むしろ剣を欠けさせたので売値が下がるとため息をつかれた。多少の傷なら錬金術の素材にしたら直るらしいけど、素材は残っていないので新しく取ってくる必要がある。素材が手に入った時に売れてなかったら使ってもらうことにしよう。



 翌日はいつもと違う門から街を出て少し遠い魔物の領域へと向かう。


「今日はレベルが上がったら筋力と体力を上げないとダメそうだね。クルト体力無さ過ぎだよもっと鍛えないと」


「この装備が重すぎなんだよ。ふぅ、杖はアイテムボックスに入れておこうこんなの持って歩いてられないよ」


 装備を更新した結果、重量が大幅に増えた。前の鎧は木の板に皮を貼り付けただけの装備だったから軽かったんだけど。

 新しい鎧は硬皮と身体の間に皮を張ってクッションにして、薄い鉄板を間に入れて補強していたり。ベルト留め具が鉄になっていたりと重量が上がっている。

 さらに数kgだった鉄の剣が10kgを超える鋼鉄の棒に変わったせいでただ歩いているだけで息が上がってきた。レベルが上がっていても魔法職では筋力や体力はろくに上がらないらしい。


 ようやく辿り着いた魔物の領域にはふらふらと火の玉が辺りを飛んでいる。ウィルオウィスプという名前のこの魔物は中心にある核を壊せば倒せるんだけど、ゴーストと同じで魔力による攻撃じゃないと意外と硬くて、怒ると火を飛ばしてくるので冒険者には人気が無い。

 そのうえ落とすのが木炭という錬金術にも使えないただの炭なので買取価格はそれなりだ。ただし、木の枝よりは高いくて重量も軽いので数を集めれば結構お金にはなるらしい。  


「さぁどんどん倒していこう!第2深度の魔物の領域は魔物の数も多いから、通ってきた場所でも油断しないで警戒するんだよ。ここは外周の魔物でも向こうから襲って来るからね」


 ゾンビは遅すぎて分からなかったけど、スケルトンは目の前で武器を構えでもしなければ襲っては来なかった。

 逆にウィルオウィスプは立っているだけで寄ってくるし、魔法を外すと一瞬大きくなって火を飛ばしてくる。


「そういえばせっかく作ってもらったんだから杖を使いなよ。魔法の威力も上がるし、魔法も当てやすくなるらしいよ?」


「忘れてた、レベルも上がったし筋力倍化と体力倍化も取っちゃおう」


「あーあ、装備くらい鍛えて持てるようになりなよ、そんなんだからスケルトンにも負けるんだよ?」


 負けてはいない、ちょっと助けてもらっただけだ。

 杖を腰だめに構えて魔法を使うと一回り大きくなった水の槍が勢い良く杖の先から飛んで行った。


「速さも上がってるかも、これなら素早い魔物でも当てられるんじゃないかな。ねぇミズナもっと内側に行ってみようよ!」


「余裕はあるから賛成するけど、あんまり調子に乗ると危ないよ?ちょっと余裕があるくらいが丁度いいんだから」


 ミズナから落ち着くように注意されたけど、空中に止まってる魔物じゃ当てやすくなったのか体感できないのだから仕方がない。

 でも期待とは裏腹に次に出てくるのはレイスという魔物でゴーストを強化した魔物だ、空をふよふよと飛んでいて動きも早くなっているけど、一回り大きくなって当てやすくなっている。

 落とす物もゴーストと同じガラス玉と魅力も無い。


「ああっ!」


 突然叫びだした事にびっくりしてミズナの方を見ると、地面を指差して口を開けっ放しにしている。

 指が指し示している地面の上を見ると、四角い銅板の様な物が地面に落ちていた。


「もしかしてカード?」


「そうだよ!こんなに早く出るなんて、やっぱりクルトは英雄の器だね!」


 どうやら後ろから近付いて来たレイスを、ミズナが倒した時に落ちたらしい。

 地面から拾い上げてよく見てみるけどカードの表面には装飾の柄が彫られているだけで文字は書かれていない。


「魔力量+10%のカードみたいだね。人気のあるカードだから売れば結構な金額になるんじゃないかな?」


「初めて手に入れたカードだし、すぐに手放したくはないなぁ。」


 レイスから出したのはミズナだし、僕が手に入れた物じゃないからミズナの言い分を汲んであげたいけど、良いカードならいずれは自分で使うこともあるんじゃないだろうか?


「取っておいてもっといい装備に代えたら使ったほうが良いんじゃない?」


「何言ってるのさ、売って良い装備を買えばより強い魔物が倒しに行けるだろ?そうしたらお金なんていくらでも手に入るんだから後で買い戻せばいいじゃないか、腐らせておくなんてもったいないよ!」


 結局、手甲ならすぐに買い替える必要もないし、死蔵させていつ使うか分からないのよりは今使って少しでも多く魔法を撃てたほうが効率的だというミズナの意見で話し合いは解決した。

 僕としても始めて大成功した装備に始めてのカードを使えるので不満は無い。長く使うことは出来ないけど思い出にはなるだろう。

 有用な物を落としてくれたとはいえ、このままレイスを倒し続けるつもりはない。申し訳ないけどこのまま通り過ぎさせてもらおう……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る