003
家に薬草を持ち帰ると両親は喜んでくれたけど、同時にお金を貯めろと説教された。
「クルト、気持ちは嬉しいがお前がこれから冒険者としてやっていくなら装備を買うお金や、街を移動したら宿代や食事代なんかが必要になるんだ。
父さん達みたいにいつ冒険者を辞めることになるか分からないんだから、冒険者としてやっていくならお金にがめついくらいじゃないといけないよ」
「そうよお父さんなんて急に錬金職人になりたがったものだから大変だったんだから。クルトも何があってもいいように、家くらいはいつでも買えるようにしておくのよ?」
「だからこの素材もちゃんと相場で買い取ってやろう。ギルドの買取価格でだけどな!」
「いや、そこは高く買ってくれるところでしょう!?」
ちなみに両親が冒険者をやめた理由は、怪我をしたとか限界を感じたとかではなく、父が錬金職人になりたがって精霊と
エルフの里から2人と精霊2匹でここまで旅してきたらしいけど、あっという間にバラバラになり、父の精霊は何処かへ去ってしまったらしい。
母は未だに精霊術師だけど精霊はたまにしか帰って来ない。英雄になれそうな人間を探して飛び回っているらしい。
精霊の助言で経験値倍化などは取っていたから方向転換は問題なかったらしく、今ではこの街でも有数の錬金術師(自称)になったと言っていた。
ついでに素材の価格は冒険者ギルドの素材販売価格、収集依頼価格、店舗での直接買取価格、冒険者ギルドの常設買取価格の順に安くなっていく。つまり一番安く買い叩かれたってことだ。
収集依頼がなければギルドの常設買い取りに売るので損はしていないんだけど、店舗買取の価格ですらないのは、がめつく生きる手本なのだろうか…
次の日はさらに内側を目指すことにした。薬草を取ってこなくて良くなったし、魔法の威力にはまだ余裕があるみたい。
それに次の層に出てくるゴーストという魔物は人気が無い。落とすのは小さいガラス玉で窓ガラスや瓶なんかに使われて治療薬の入れ物もこれを使って作るから需要はあるんだけど。大きさが小さいし、落とすゴーストが魔法や身体強化なんかの魔力での攻撃じゃないと倒せないから、魔法の使える冒険者しか倒していない。
他の人は属性玉という使い捨ての攻撃アイテムを使って通り過ぎているらしい。
僕の場合は魔力倍化のボーナスを取り始めていて、ゴーストも1発で倒せるから人もいなくて美味しい狩り場なんだけど、いかんせんガラス玉はそれほどお金にならないのでさらに先へと進むことにした。
ゴーストを倒しながら進んで、次の層へ行くと冒険者の数が突然増える。この街で稼ぐ冒険者のほとんどがこの階層から先で戦っているために混雑しているんだ。
この層はまだ大丈夫だけど中心付近は魔物よりも冒険者の方が多いのが普通だって聞いている。
「レベルを上げるのならゴーストを倒してた方が良さそうだね。次の魔物の領域へ行くのを考えた方がいいかも」
ミズナも魔物を探しながら進んで行くけどその大変さに気が付いたんだろう。
この辺りの冒険者は僕もそうだけど、皮のズボンに皮の鎧、兜、手甲、脚甲と全部皮でできた装備をしているせいで、遠目には茶色い人型にしか見えない。
そしてここに出る魔物も、茶色い包帯を全身に巻いた乾いた動く死体のミイラなので遠目には似たような茶色い人型に見える。
ドロップするのは皮だけど、ミイラの物じゃなくて他の生き物の
ただし、かさ張るのでアイテムボックスを持っていないとすぐに帰る事になってしまうため、それなりのレベルが必要になってくる。
歩いてある程度倒してみたものの、探しずらさとドロップ率の低さが嫌になり、さらに内側へと進む事にした。
ミズナと話し合って、今日はもうレベル上げは諦めて新しい魔物を体験する事にしたんだ。
ミイラの次に出て来たのはスカルドッグという骨だけになった犬の魔物だ。この魔物の領域では鉄を落とすので、こいつも冒険者に人気がある。
ただ、動きが速くて近付かれる前に魔法を当てることができず、ミズナに助けてもらう事が多くなった。
「こういう速いやつは空中にいる時を狙うんだ、飛んでいる時は方向転換は出来ないからね」
と、ミズナに言われたけど大きく飛ぶ時なんて噛み付く時くらいだけど、ミズナが言っているのはいつの事だろう?
ミズナの魔法は必ず当たっているからコツは正しいんだろうけど、その空中にいる時間を認識出来ていないので活かせそうにない。
やっぱり反応倍化を取るべきなのだろうか?レベルが上がっていけば自然と何とかなるらしいけど、今出来ていないのは心配になってくる。
さらに内側へ進むとグールという四つん這いで移動する人型の魔物が出て来る。
大きな瞳に白目は無く、口内から覗くギザギザの歯が恐怖を感じさせてくる。
スカルドッグの様な素早い動きをするだけでなく、黒光りする体は硬くて僕のウォーターランスじゃ一発で倒せなくなった。
それだけ強くてもドロップするのが硬皮という皮鎧の次の防具素材ということもあり、冒険者達がパーティを組んで倒す姿をよく見る。
いい素材ではあるけどその分ドロップ率が低くて、僕も何とか5つ集めて次の層へ向かう。
その頃にはレベルが上がりグールも1発で倒せる様になっていたけど、今日は新しい魔物を見るのが目的なので更に内側へと進む。
ミズナ曰くまだまだ余裕らしいけど、多分一人で来るような所じゃない。
目の前には黒い体毛をした大きな犬が、たてがみや尻尾を燃やしながら口から火を吹いてこちらを威嚇して来ている。
ミズナによってあっさりと倒されてしまったけど、多分属性の相性が良くなかっただけだろう。
倒したヘルハウンドからは真っ黒な立方体がドロップしていて、この素材はなぜか鉄の武器と一緒に錬金術を使うと鋼鉄製の武器が出来上がる。
鑑定すると名前は石炭で、炭鉱から取れる石炭と同じ性質を持っているのに、錬金術に使えるのはドロップした石炭だけというよく分からない物質だ。
わざわざ石炭を削って立方体にする様な馬鹿は居ないけど、使い道が錬金術だけなので買取価格は高くない。ドロップ率が低い割には安いってだけだけど。
そしてドロップ率が低くて買取価格が高い代表の様な素材が宝石だ。
魔物の領域の中央に位置する場所は、狭い上に魔物の出現も少ないため複数のパーティが縄張りを主張して場所を取り合っている。
黒い
あっさりと倒している様に聞こえるかも知れないけど、魔物自体はフレッシュゴーレムという肉の塊の巨体で、斬られてもすぐに再生する生命力と腕で殴られれば大柄な大人でも吹き飛ばされる様な力を持つ強い魔物だ。
「アクセサリを作るのに宝石が欲しかったけど、これは諦めたほうがよさそうだね…」
「先に倒す事は出来るけど、絡まれるのは時間の無駄だからゴーストの所まで戻ろうか。この辺じゃ人が多すぎてレベル上げにならないし。」
ミズナと相談して来た道を戻る事になり、ゴーストを倒してレベルを上げる。
スカルヘッドの様にふよふよと上下に揺れながら移動しているけど、大きさは人と同じなので当てるのは難しくない。
ただ、落ちたガラス玉が何処にあるか分かりづらくて踏んずけたり、落ちた時に石にぶつかって割れたりする。
壊れても売ることは出来るけど、買取価格は下がるのでこちらの気分も下がる。
やっぱり明日からは違う魔物の領域に行くことにしよう。多少強くはなるけれど、新しく取り始めたスキル強化というボーナスもあるし、僕とミズナの魔法を受けて倒せない魔物はしばらくは居ないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます