002

 ミズナは10日かかると言っていたけど、結局5日もかからずにレベル10になる事ができた。

 最後の方は数体倒すだけでレベルが上がっていたし、高レベルのボーナスの凄さを体感できる1日だった。


「経験値倍化も取り終わったし、僕も戦えるようになるために筋力倍化を取りたいと思うんだけどどうかな?」


「精霊術師として強くなるなら先に魔力量倍化を取ったほうが良いんだけど。

 そもそもクルトって近接系の戦闘職で強くなりたいの?登録の時に転職しなかったから、てっきり精霊術師とかの魔法系の職業で強くなりたいんだと思ってたんだけど」


 確かに僕は剣は持っているし剣を使う英雄に憧れているけど、剣術を習っていたわけでもないし、戦士になりたいのか?と聞かれると困ってしまう。

 かといってジョブを精霊術師のままにしたのはミズナと話せなくなるのが嫌だっただけで、魔法使いになりたいわけでもない。

 話に聞いた色んな英雄の様になりたかっただけで、この人みたいになりたい!という強い憧れは僕にはない気がする。


「近接系のよりはどちらかと言うと時の賢者様みたいになりたいかなぁ」


 時の賢者様はエルフから生まれた英雄で、寿命の違いによる悲しみと思考の早さによる暮らし辛さで最後は人里を離れて精霊と暮らすことを選んだちょっと悲しいお話なんだけど。

 長命種だから様々なお話に出て来ては助言や手助けをして英雄を導く有名な英雄の1人なんだ。反応倍化は諸刃の剣だっていう彼の忠告が今でも冒険者ギルドに張られてたりするよ。


「それならよかった!素振りもサボりがちなのに急に近接職になりたい!って言われたらどうしようかと思ったよ。まぁボクなら完璧な手助けが出来るけどね?いつかは精霊術師のジョブを外さないといけないしそれまでに教えきれるかなって心配がさ。エルフは体格的に近接職に向いてないし、スケルトンとの戦いを見るにクルトに剣の才能は無さそうだから困っちゃったよ!

 時の賢者を目指すなら計画の変更はいらないし、彼の失敗を活かして完璧な大賢者にしてあげようじゃないか!」


 あ、僕剣の才能無かったんだ…まぁ筋力倍化を取るとはいえ子供でも木剣で倒せるんだもんね、片腕壊してもらったりもしないし…

 せっかく両親に買ってもらったけど今日限りで諦めようかな、たまに素振りはするよもったいないし。


「うん、剣で戦うのは諦めるよ。次は魔力量倍化を取るんだっけ?」


「そうだよ、といっても何十匹か倒すとレベル20になれるから安心してよ。

 職業が1個だと簡単にレベル99になれるんだよね、まぁ経験値倍化が無いと千倍大変なんだけど!

 でもそれだとクルトも暇なんだよね?だからその次は第2職業のボーナスをとって魔法使いになってもらおうと思うんだ。自分で倒せればクルトも楽しめるでしょ?

 ボクだって考えたんだよ。職業が2個になるとレベルアップの速度が半分になっちゃうけど、どうせ後で上げるんだし問題ないよね」


 魔法で敵を倒すのか、確かに剣で苦労してスケルトンを倒すより魔法でドカンと一発で倒す方が格好良いよね、数十匹なら明日にでもなれるだろうし、とても楽しみになってきた。

 走ってスケルトンに近付いてミズナが倒したら岩塩の欠片を拾う。レベルが上がって魔力量倍化を取るおかげで魔力の回復を待つ必要も無くなったしどんどんレベルが上がっていく。

 まぁ僕の体力が持たなくて結局歩く時間が多いんだけど、魔法を使える様になる楽しみが勝ってまったく苦じゃなかった。

 鞄が一杯になってギルドに売りに行った後、家に帰って次の日は早々にレベル21になる事ができた。


「第2職業のボーナス習得と第2職業を魔法使いにする事を願ってね」


「どう?魔法使いになってるかな?」


「うん、ちゃんと第2職業に出来てるよ。間違えて第1職業が変わってると面倒な事になったから安心したよ」


 精霊術師のジョブじゃなくなると、ミズナの声が聞こえなくなるから間違えを伝える事も出来ないもんね、流石に気が付くだろうけど手間が増えるのは確かだ。


「それじゃあ魔法を使ってみようか、地水火風の属性なら何でもいいけど使えるのはランスだけだよ」


 こちらへ歩いて来るスケルトンへ手をかざし、物語の魔法使いの様にスキル名を叫ぶ。


「ウォーターランス!」


 何となくミズナと同じ水属性を選択し、飛んで行った水の槍がスケルトンを粉々に吹き飛ばす。


「良い感じだね、でも威力が高すぎるからもっと内側の魔物を倒しに行こうか」


 自分の手の平から出て行った魔法で魔物を倒した事に感動していたら、ミズナはさっさと次の魔物に向けて動き出していた。

 もうちょっと感動に浸らせて欲しかったけど、新しい魔物を倒すのも楽しみなので走ってミズナの後を追う。


「蝋と薬草とガラス玉は店で使うから集めたいんだよね?なら1日づつ魔物を変えていこうか。

 そうだ!アイテムボックスも取らないと。今のレベルならそこそこ入るから街に帰る回数を減らせるよ」


 アイテムボックスは第1職業のレベル分の重量を不思議な箱の中に入れられる様になるボーナスだ。

 今なら21kgくらい入るから僕の鞄より持てるのでそこそこどころじゃない。


「次の魔物がいたから魔法で倒してみてよ。属性は水ね、弱点だからさ」


 そう言ってミズナが指をさした方を見ると青い炎に包まれた頭蓋骨が空を飛んでいた。

 近付いてもこちらを無視して手が届くか届かないかの高さをふよふよと飛んでいるので、ゆっくりと狙いをつけてウォーターランスで撃ち落とす。


「もっと離れた位置から撃たないと練習にならないよ?」


「じょ、徐々に離れるんだよ。まだ慣れてないから飛び方が分からないだろ?」


 ふよふよと上下に揺れているから狙いにくくて、かなり近付いてから撃ったらミズナに呆れられてしまった。


「撃った後もある程度動かせるから、遠くから撃って練習した方がいいと思うよ?」


「え?そうなの」


 試しに撃ってみると直角に曲げる事は出来なかったけど、多少の上下くらいなら後から対応できることが分かった。

 さすが精霊だ魔法に詳しいなと感心して、次の魔物に遠くから水の槍を撃ったらタイミングが合わなくて避けられてしまった。


「最初はそんなもんだよ、魔力はたくさんあるんだからどんどん撃って慣れていこう!」


「分かった、ウォーターランス!」


 結局、やっとのことで数体倒した時の命中率は惨憺さんたんたる結果で、僕は肩を落としてスカルヘッドが落とした蝋を拾い上げた。

 ろうそくや口紅、天幕の防水処理に瓶詰めの封印など需要がそこそこある商品だ。買い取りは安いけど治療薬の封にも使うので家でもよく取り扱っている。


「うーん、反応倍化を取れば当てやすくはなると思うけど、それだと時の賢者の二の舞になるかも知れないから先に他の魔物を倒して魔法に慣れようか」


 ミズナも呆れたのか他の方法を提案してくれ、僕はその提案に乗ることにした。

 次の魔物が現れる範囲はとても分かりやすい。雑草の数が増えて景色が変わっているのと、突然叫び声が聞こえて来るせいだ。


「あ、これこれ。この葉っぱがスクリームキャロットの葉っぱだから覚えてね。

 本当は引っこ抜いてから剣で刺して倒すんだけど、それじゃあ練習にならないから埋まってるまま魔法で倒してね。

 薬草が魔物がいた穴の中にドロップしちゃうから水じゃなくて風魔法が良いかも」


 雑草の中に混ざるニンジンの葉っぱ探して、見つけたらウインドランスで倒す。

 あまり遠くから見つけられないから練習になっていない気がするけど、的は小さいから良いのだろうか?

 あちこちに穴が空いているせいで、たまに遠くから倒すとどの穴に薬草が入っているか分からなくなる。

 しかも魔物の領域は内側に行くほどドロップ率が下がるから、落としていない事もあって余計に混乱する。

 それでもスクリームキャロットの絶叫を聞かなくていいのでマシな方だ。草原には毎回叫ばれながら倒している冒険者が何人もいるんだから。

 絶叫で顔をしかめている冒険者を尻目に、鞄を一杯にした僕はホクホク顔で家へと戦利品を持ち帰った。

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