第2話 学校
授業中、交差点の彼女の事ばかり考えていた。現れてはそしてなにより、彼女と会話していたあの時、周りの人から変なものを見る目で見られていた。目立ちたくないし、変な評判になるのは御免なんだが。
「なぁ徃明、『赤信号の天使』って知ってるか」
昼休みになって、いつも机を突合せて弁当を食べている友人がおもむろに言った。
「…いきなりなんだよ辰樹、なんだって?」
何となく心当たりはあるが、とりあえず知らないフリをした。
「最近図書室で見つけた本に書いてあったんだ。どうやらその天使に魅入られると、自分が自分じゃなくなっちまうらしい。朦朧とした意識のまま赤信号に引きずり込まれて―ドーン、だ」
気味の悪い話だ、と心に不安が陰った。なにせ、そう呼ばれていそうなヤツと、今朝話してきたばっかりなのだから。あの幽霊は、そんなやつなのだろうか。もしそうだったら、自分があの時赤信号でも迷わず飛び出したのは、そういう理由なのだろうか。しかし、彼女は『骨はみえていないみたいね』と、些か人並みならざる観点からではあるものの、僕のことを心配をしてくれた。
「んで、徃明みたいな何でも知ってるやつなら、何か知ってるかなーと思って。まぁまぁ、うちの新聞部の部長がよく言ってる、トシデンセツってやつだよ…って、おーい、大丈夫?」
「ぁ、あぁ、悪いちょっと考え事。悪いが辰樹、その話には力になれそうにないな、聞いたこともないぞ」
「そっかぁ〜」
辰樹は残念そうに机に突っ伏した。
六限終わりのチャイムが鳴って、帰宅準備をする頃、辰樹はもう一度話しかけてきた。
「そういえばお前、朝から気になってたけど、そのデコと鼻とほっぺたのデカいバンソーコーはどーしたのさ。珍しく学校にも遅れてくるし。なんかあったのか?」
「…ちょっと、階段からずり落ちてね。心配しないでいいから大丈夫だよ」
「そっか。気をつけろよ?打ちどころが悪ければ、短い階段だって致命傷になるんだからなー」
バンバンと背中を叩かれながら、良い友達を持ったな、と思った。
ホームルームの後先生に呼び出されて、朝のことを色々聞かれた。予想通り学校にも連絡はいっていたらしい。さっさと帰ろうと思って適当に答えていたら、帰り際にこんなことを言われた。
「あの…悩みがあるなら、ちゃんと先生や親御さんに相談してね。大人はいつでも、あなたの味方だから」
「…なんのことですか?」
「いえ、ただ…この件を通報してくれた人が、『まるで引き込まれるようにトラックへ駆けていったように見えた』と言っていてね、それで…あっ、ごめんなさい、失礼よね」
「いえ、大丈夫ですよ。じゃあ先生、さようなら」
先生がなんて言おうとしていたかは、大方予想がついていた。あの人もまた、いい人だなと思った。
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