第4話

 目の前に美人なお姉さんが現れた。なんて美人だ……しかし彼女の頭上には黒色で風の王と書かれている。しかもファンタジーな見た目、この女の人が風の王、ウィングか!


「思ったより貧弱そうじゃのう。ほれいくぞ」


 !?


「『風牙雷天』」


 !!?!これは台風!?いやそれよりも凄い威力だ!地面が割れるほど力強い!これが風の王!

 立っていられるのがやっとというほどの力……俺とは格が違うのか!?


「ほほう……立ってられるとは………訂正するぞ思ったよりやるなお主」


 くっそ!めちゃくちゃ余裕そうじゃないか!あんな綺麗な顔立ちしてるのになんて不気味な笑みなんだよ!とりあえずこの台風から脱出しないと!何かスキルは…………


「何ボーッとしとる?」


「なに!?」


「上じゃ」


 反射的に空を見上げる。…………まさかこれは雷!?しかもその雷が台風と絡もうとして………まずい!!!


「『神速』」


 圧倒的速さで強行突破だ!!あの雷食らったら絶対痛いし!


 しかしウィングはさらに笑みを深める。


「この風の王と速さ勝負だと?笑わせるてくれるよう」

「『風圧』」


 神速のスピードが簡単に見破られた!?そこを捉えて風の圧で俺を抑え込んだだって!?こんなん誰も思いつかんって!戦闘経験の差が凄すぎる!


「ぐはあぁぁあ!!」


 雷が台風と絡んだ。とんでもない痛みが体を絡めつけるように襲った。骨が全て砕け散りそうだ!!実際に何本か折れた。俺はその場に倒れ込み、動けなくなってしまう。こいつに勝てる未来が見えない!こんなとこで死んでしまうのかよ!?あの俺を2年間地獄に落とし込めたあいつらに復讐することも叶わずに!?そんなの絶対に許せない!!


「ほう?」


 なんじゃこいつ………急に雰囲気が変わったじゃと?目つきがまるで別人じゃ。


【称号たったひとりの英雄の真価が発動される条件を満たしました】


【スキル唯我独尊、背水の陣、一騎当千、その他スキル27種を取得しました】【スキル効果で能力が爆発的に上昇します】


「なんじゃ貴様………!?私が後ずらさりじゃと…?」


 …………体がみしみしと回復していく感覚が分かる。膨大なエネルギーが俺に力を与えてくれてる気がする。俺は平然と立ち上がった。不思議な感覚だ……だけど今ならなんでもできる気がする。あんだけ強そうに見えたこいつも今じゃ何の圧も感じない。


「!?」


 脚に力を溜めて風の力をも上回る速度で彼女の目の前に移動した。彼女はまだ目で捉えられていない。


「喰らえ」


 膨大なエネルギーが纏った強力なパンチをお見舞いする。スキルも何も使っていない単純な攻撃だ。しかし威力は桁違いに強い。風の王はその一撃で気を失い、その場に倒れ込んだ。おそらく彼女からは何が起きたか分からず、ただ気を失っただけだろう。それほどまでの力を俺は身につけてしまった。

 ……ん?どうやらこいつは殺せないようだ。不殺とだけ書かれて謎の赤色の柵に包まれて倒れ込んでいる。この世界の住人じゃないから……保護するということか。


 ただ今なら確信できる。風の王を瞬殺できるほどの力を身につけた今、暴虐の王の元へ単身で乗り込んでも余裕であいつらを倒せるだろう。行くぞ北へ!



「ん?」


 どこからかパチパチと手拍子が聞こえる。誰だ………?気配にも気づけないだと?


「すげぇじゃんあの風の王をやっちゃうなんてなあ??」


 まさか………?


「あのカスだったお前でもそこまでできるなんてなあ!この世界も変わっちまったよな」


「……宗久くん、?皆さん…?」


 そう、そこから姿を現したのは宗久達だった。ちゃんと生きていたのだ。ニマニマとあの苦手な笑みで俺の元へと近付いてくる。まさか俺から探す手間が省けたとは!!しかしなんだ………何故俺は後ずさりしている!?


「そうビビんなよ風の王も倒したんだからよお」


「ほんとねやっぱり情けない男だわ」


 ………!?この後ずさりの正体は恐怖だ!!俺がこいつらへ長年持ち続けてきた苦手意識が産んだ恐怖………じゃない。違う、どっちかというと相手の実力に押しつぶされている感覚だ。


 そう思い俺は静かに頭上へと目線を移した。そこで衝撃が走る。


「あーまあ俺らが黒色だから無理ねえかハハハ!」


 黒色だって!?

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