ヘロヘロなやつら!!

シモダケーイチ

1話


 東北地方の三波町。その東端にあるオジイ山を、高校卒業したての二人組が登っていた。二人組のうち、黒髪でワイシャツにカーディガンを着た男は磐城修郎。ボサボサ黒髪でメガネをした男は勝本達太といった。


 今回の登山は、達太側が磐城を誘ったもので、山頂の木々が開けたハゲ頭で遊んだらすぐ帰るつもりだった。それが山のあだ名の由来でもある。


「もう3月も終わりだってのに…もしかしたら熊が出るんじゃねーの?」しばらく歩いてから、磐城が口を開いた。すかさず達太が「だいじょうVだよ、イワキちゃん。山に入る前に大声出しといたからさ!」とヘラヘラ口調で返した。


「タツタ…てめぇ…」「勘違いしてるみたいだなぁ、熊に襲われないためには居場所知らせた方が良いんだよ。」


 磐城は、夜中に山に行くなんで自殺行為みたいだけど、それでこそ肝試しだ。なんて思いながら背後を振り返り、暗闇しかないことを確認した。「そろそろ山頂」と達太の宣告に引っ張られて視線を前に戻すと、大きく開けた山頂が見えた。


 「やっぱスゲー開けてんな!薄毛進行してんだ!」「ここまで来て、景色観たら帰るってマジかよ…」「いいじゃんかイワキちゃぁん、でもなァ〜ァ〜…俺も彼女連れてきたかったな…」

 大学入学までの期間、彼らは高校生以上大学生未満の絶妙で微妙な立ち位置にあった。それは高校生活という1つの青春が終わり、大学生活という新しい青春が始まることでもあった。

 新しい青春に求めることは、2人とも違うものではあったが、同じ大学に進学することだけは合致した。


 その時だった、2人の目の前にある山頂にカゲロウのように歪んだナニカが降りてきた。

 「…」「…なんだ、ありゃあ…」

 そのナニカは、地上に近づくにつれて形をくっきりとさせた。最終的に着陸した時には、球形の不思議なマシンが表れた。磐城と達太は、草むらに隠れることも出来ずにソレを見つめていた。


 「写真撮っとこ…」達太がそうボヤいた時だった。球形の…いわゆるUFOのようなモノから、人に似た黒いシルエットが出てきた。てっきり、2人の男はそれを何かの影かと思っていた。でも…

 それは確かに生物そのもので、全てを飲み込みそうな黒色の全身、その腹と顔面にある真っ白い円が…ヤツらが地球の生き物ではないことを証明していた。


 「…おい、磐城。」「あぁ。」「やることは決まってるよな…」「あぁ。」


 「逃げるぞ」「殴るぞ」


 達太が逃げた瞬間に、磐城は宇宙人の方向に走って行った。「はぁ!何たってお前はそう喧嘩っ早いんだよ!」「地球の危機ってやつ!」


 磐城は理由を伝えると、宇宙人に向けて拳を振りかざした。殴られた宇宙人は球形UFOの中に戻され、それと一緒に磐城は内部に侵入した。


 「スゲー、UFOん中入っちゃったよ。」

 その時、磐城の背後に居た宇宙人が磐城に注射を打ち込んだ。



 【…失礼しました!……争うつもりは無いと……彼の行動が地球の総意とは違………はい………】


 誰かの声が聞こえたような気がして、磐城は目を覚ました。首手足は固定され、周りを見て自分が手術台に居ることを理解した。


 視線を最大限上に向けると、黒の宇宙人と謎の風貌をした人物が会話をしていた。謎の風貌というのは、頭は四角い横長方形で、頭部には長い耳のようなモノが2本。目は縦長方形が2本で、両方とも横に伸びる黒のラインが入っている。とても機械的で、まるで強化スーツだった。


 そんなヤツが宇宙人と会話しているのだが、どうもその会話がオカシイのだ。まず、磐城側も会話の内容を理解できるため、謎の風貌…コスプレイヤーのような人物は地球人だと分かる。だが、その会話は耳から入ってくるとは違うのだ。


 直接脳内に流れてくる、いわゆるテレパシーのようなカンジ。そして、宇宙人はそれを理解できているらしい。そんな分析を磐城は続けていたが、不思議に体力が奪われていた。だんだん、頭も回らなくなっていく。


【ですから……ボクたちに……え……】


 会話の内容は、彼にとってよく分からなかった。いや、ただ彼自身の頭がショート寸前だっただけかもしれない。


 【10年前から………そんな……地球に………】


 瞬間、謎の風貌をした人物は磐城を手術台から引き剥がすと、球形UFOの壁に蹴りで穴を開けた。そして磐城を担ぎ、その穴から外に飛び出した。磐城に、その人物の正体が誰なのかを聞く気力は無かった。


 「うわわ!!だ、だれ!」

 飛び出した2人は、ちょうど達太が隠れる草むらにダイブした。

 「今はまだ名乗れ無いけど…とにかく、この人を頼みます。あと…」「あと?」


 達太が謎の人物の返答を聞く前に、UFOがものすごい鳴き声をあげた。3人が咄嗟にその方向を見ると、球形UFOが視認出来る音を発しているのが分かった。そして、球形UFOは陽炎のように揺らぎながら飛び去っていった。


「もう少し遅れていたら…今頃ボク、宇宙見えてたかも。」謎の人物がそう呟いた。


 辺りが静かになってから、謎の人物は立ち上がり、草むらから出ていった。ヤツが近くの小型バイク…ベスパに向かって歩いていることは、誰の目にも明らかだった。


 そのヤツが磐城と達太の目の前から姿を消す前に、磐城が一言「誰なんだ、あんた一体」と絞り出した。


 「パァースエイダー、とでもしておきましょう。」暗闇で機械的な目が光る人物はそう告げると、近くに停めていたベスパで走り去った。

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