第5話 残作業があるから君は祝賀会でなくていいよ
千葉県でのプロモーション動画の撮影も終わり、プロジェクトは終了した。
プロジェクト終了の祝賀会の日、新宿本社に出社したところ、例によって荒川慶太が、私のところにやってきた。
「あ、ごめん。クライアントさんがこれをどうしても明日までに直してほしいって」
なんで、よりによってこのタイミングで言うかね。
「何ですぐに言ってくれないんですか?」
は、しまった。思わず心の声が漏れてしまった。しかし、言ってしまったものはしかたない。一方で、荒川慶太の顔はみるみる紅潮していった。
「頼めるのはお前しかいないでしょ」
「分かりました。祝賀会のあとでやります」
しかし、荒川慶太は怪訝な表情を浮かべた。
「きみ、わかってないね。大切なクライアントさんの要望なんだよ。どうしたらいいのかわからないの?」
「どういうことですか?」
「今すぐにやってほしいの。今日中なの。今日中にやって出してほしいの。俺が帰宅するまでに君がやって、それを俺がチェックして今日の24時までにクライアントさんに送れるようにしたいの。理解したかな?」
プロジェクトはもう終わったんだから、いつやっても同じはずなのに。今日中にやらせることで、ただ、かっこつけたいだけだろうが。このくそったれが・・・。
私は尾野英子さんと少しでも話したかったのだが、結局、祝賀会には出席せずに帰宅することにした。
すぐに終わる作業だが、イライラしているから、思ったより時間がかかってしまった。むかつくから、23時59分まで待ってから荒川に送信してやろう。
以前の話だが、ライバル会社の構図の話だが、やはり、他社の構図がわかる事自体がおかしいと思う。ひょっとして、あいつが情報を横流していたんじゃなかろうか?
「あいつめ!」
思わず握りしめたこぶしを机の上にたたきつけた。すると、そこに例のタブレットPCがおかれていた。またしても、机の上に出ていた。この間、引き出しにしまったはずなのに。いったいどうなっているのか?
ふと机の上のタブレットPCを握ると、PCは勝手に起動。タブレットの画面に手が吸い付いて離れない。タブレットPCの画面上には、三次元のCG空間が出現。私の指は強い力で拘束され、ひたすらブロックを配置する作業が開始されていた。
「くそ、どうなってるんだ」
何時間もブロックの配置作業が続いた。ただ、指を動かすだけの作業であっても、同じ態勢での単純作業が続くと、苦痛である。もう何時間も何も口にせず、トイレにすら行けていない。しかし、その時であった。ふと気づくと部屋の中にタブレットの持ち主が現れた。あの日、バーで一緒になった男だ。勝手に自宅に入ってくるだなんて、不法侵入じゃないか。
「おや、私の鞄、こんなところにありましたか。この鞄がないと仕事できませんからね。土足でした。これは大変失礼しました」
土足だとか、不法侵入うんぬんとかいう場合ではない。こいつに頼んでこの状況を何とかしなければ。
「待て」
「おや、どうしました?」
「何とかしてくれ」
「あー、なるほど、そういうことですか。わかりました」
その男が私の肩をポンと触れると、私の身体はタブレットPCから解放されたのだった。
私の身体は強い拘束力から解放されても、なおも荒い息遣いが続いていた。その状態を気にする様子もなく、男はにこやかな表情で話し始めた。
「自己紹介遅れました。私はこのタブレットPCを売って回っている会社の者なんです。私も元々は社内ITエンジニアだったんですが、あまりにもミスが多かったので、こうして訪問販売員をやっています。まあ、売っているっていうか、あまりにも売れないので、無料で差し上げているんですけどね。おほほほ。今回、お客様には何だか、ご迷惑をおかけしたみたいなので、特別に何でも一つだけ願いをかなえてあげましょう」
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