第4話 横断橋の開通からの東京ワンコ大炎上

 その日は、プロモーション動画の撮影に関する打ち合わせがあり、私はオンラインでの参加であった。

 プロモーション動画の撮影場所は千葉県なのだが、なぜか私は参加メンバーとなっていた。つまり、千葉県まで行かなければならないのである。今の自宅が三浦半島であり、対岸の千葉県は肉眼で見えるところだが、そこに移動するとなると東京湾をぐるりと回りこまなければならない。移動に4~5時間かかる。

 荒川の指示によると私の役割はプロモーション動画に修正点があったところをメモに残すことなのである。この役割は本当に必要なのか?ばかばかしい。非常にばかばかしい。

 オンラインでの参加だが、念の為にこの役割が必要か質問しておこう。会議アプリの挙手ボタンを押して指名されるのを待った。みんなの前なら少しは聞いてくれるだろうと期待したが、会議のホストであった荒川慶太は私の挙手そのものに気づかずにそのまま会議を終了させてしまったのである。

 一方的に喋るだけなら、動画か音声にして配信してくれればいいだろう。とにかく、これで、明日、千葉県に行くことは決定してしまった。

 くそ、いっそのこと、

 バーの男のタブレットがいつの間にか、机の上に出ていた。しかも、勝手に起動していた。しまった。このタブレットどうしよう。まあ、明日以降に考えるとするか。


 翌朝のことであった。会社携帯を見ると集合時間変更の案内があったことに気づいた。2時間前倒しである。私は家が遠いのだ。これでは完全に間に合わない。仕方ない。京急線が強風で遅れたことにしよう。

 いつものように朝食を食べながら動画アプリを見ていた時の事であった。最新ニュースが再生されたとき、私はその動画を食い入るように見入った。新しい海峡大橋「東京湾口横断大橋」開通のニュースであった。

 動画では横断橋の開通式が行われていた。「東京ワンコブリッジ、オープンです」というウグイス嬢のような声の女性の声とともに、背広姿の男性たちがテープカットを行い、風船が空に舞った。着ぐるみのマスコットキャラ「東京ワンコ」と「東京ニャンコ」が渡り初めを行っていた。

 ひょっとして、これって、手の込んだフェイクニュースなんだろうか?しかし、ワンコブリッジという愛称が、あまりにも、あまりにも、絶妙にダサ過ぎて、にわかにフェイクニュースとは信じられなかった。

 最寄りの京急線安浦駅まで出かけると、ようやくそれが事実だということがわかった。安浦駅はターミナル化していて、横断橋を経由し、東京湾を渡り、対岸の君津駅につながる新しい路線ができあがっていたのだった。

 マスコットキャラの「東京ワンコ」についてネットで調べてみた。インターネット上で、東京ワンコは炎上していた。接続地点の神奈川県と千葉県が無視されていたからだった。

 何でこんなことになっているのか。私が仕事に熱中しすぎていて、世の中の動きに気づいていなかったのだろうか?だから動画のフォロアーが増えないのだろうか。

 いや、でも、ひょっとして、あのタブレットにしゃべった内容が実世界に反映されているのだろうか?いやいやそんなことは科学的にも物理的にもありえない。

 しかし、私の手には千葉県の君津駅の売店で購入した「東京ワンコ」の人形が握られていた。あり得ないと言いつつも、これは現実である。そう認めざるを得ない状況だった。

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