第3話 乗り換えなしに会社まで行けると嬉しいんだが
時計を見ると、夜中の11時なっていた。今晩もマンションのどこかで壁をどんどんと叩く音が聞こえる。しかし、こんなこと気にしている場合じゃない。今夜中にコンテンツの修正を一通り仕上げて、明日の昼の会議に間に合わせなければならない。
いま、明日の昼と言ったのだが、もう明日ではなかった。ちょうど日付を跨いだからだ。会議は本日の昼だ。こんなのおかしい。絶対におかしい。
そもそもな話、会社があるのは新宿区の端っこで、自宅からは京浜急行から品川に向かい、そこから山手線の乗り換えは地味に面倒なのである。いっそのこと、私鉄と山手線が相互直通してくれて、乗り換えなしで会社まで行けると嬉しいんだが。ぶつぶつ文句を言いながら作業を進める。
気付くとバーの男の鞄から出てきたタブレットPCが起動していた。まずいまずい。とりあえず、スリープモードにしておこう。
そうこう言っている内に、地平線が白んできた。とりあえず、最低限の修正は終わり、サーバーにコンテンツ一式をアップロードした。
しかし、ほとんど寝ていない。こんなことになるんだったら、前日にバーに飲みに行っている場合ではなかった。果たして、昼の会議に間に合うように移動できるんだろうか?
眠くて眠くて仕方ない。少しでも体力温存のため、快特が止まる隣の駅まで歩こう。体力温存のために、歩く距離が長くなるだなんて、なんだか矛盾しているがもう何も考えないことことにする。
ラッシュの時間帯を避けた甲斐があってか、快特に乗りこむと、運が良いことに空席を見つけることができた。きっと普段の行いが良いからなのだろう。ダッシュでその空席を確保。優先席だったのだが構わずに着座した。そして、そのまま電車の中で寝入ってしまった。
気が付くと何時間も寝た後のような爽快な目覚めであった。京浜急行の駅から乗ったはずなのに、乗り換えなしに西武新宿線の上落合駅までたどり着いてしまった。いったい、どういうことなのか?しかも、駅から会社まで動く歩道まで設置されていた。
夜中に口走った内容が現実世界に反映されていたのだった。
出社して席に着くとすると、荒川慶太がつかつかと近づいてきた。
「お前、わざわざ出社したんだから、ちゃんと会議に参加しろよ。会議で発言しなかったらアウトだからな」
プッ。アウトって、いったい何のアウトだ。野球のアウトか?ほんと、むかつく。しかし、大人の返しをみせてやる。
「ふふ、野球好きなんですね」
「俺、高校球児だったからね」
このくだりは一体、何度聞かされたことだろうか。お前、3年間ずっと補欠だったんだろうが。
ちなみに、帰りの電車も、西武線上落合駅から京浜急行安浦駅まで乗り換えなしの直通であった。思ったよりも早く帰宅できたので、動画を追加でアップロード。これにより、新規のフォロアーを3人獲得することができた。
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