第2話 不思議なタブレットを拾ってしまった
ある日のことだった。私は不思議な鞄を拾ってしまった。昨晩、一人で飲みに行ったとき、バーで絡んだ相手のものを持って帰ってしまったのだ。
警察に届けるか?いや、それだと逆に窃盗を疑われないだろうか?いっそのこと、どこかの道端に捨ててしまってたまたま通りかかった誰かに拾ってもらうか?そもそも、中身は何だ?かなり使い込んだと思われる革製の鞄の中には、意外にも一台のタブレットPCのみが鞄に収まっていた。
あれこれ触っている内にタブレットPCが起動してしまった。タブレットPCは生成AIが使えるようになっていた。思わず、何件か画像生成を試してみると、思い通りの画像を生成することができた。
普段、プロンプトで苦しんでいたが、何でも思い通りの画像や動画を作ることができた。まるでタブレットの中に人が住んでいるかのようだ。これって、超便利だけど、これだとプロンプトエンジニアが失職してしまうのではなかろうか?しかし、いまは仕事中、タブレットPCのことは後回しだ。まずは仕事をこなそう。
いずれにせよ。今日はそこまでの仕事量はない。時間が余っているなら動画編集でもやろうか。会社PCの隣には自分用のPCがおいてあり、動画編集用のファイルやソフトが収まっている。会社PCでは、対話アプリに通知が来たら、「いいね」ボタンを押したり、返信候補の「承知しました」をクリックしていけば、仕事している感じになるだろう。今日の残りは動画編集でもしながら過ごそうか。
動画編集用のPC立ち上げたところで、会社携帯に着信が鳴った。もう、今日は仕事をするモードではなかったのだが、電話の相手は尾野英子だったので、気持ちを切り替え、そして、声の調子を整えて電話に応答した。
残念なことなのだが、尾野英子さんの電話の用件は仕事に関するものであった。
「すいません。例の件ですけど、今日中に何とかなりますか?」
「ええと、ちょっと待ってくださいね」
「14時のメールなんですけど・・・」
14時のメールだって?何の話だ。しかし、だからといって「え、何のことでしたっけ?」と聞き返すのはあまりにも間抜けで、尾野英子さんへの印象がよくはない。仕事ができる人間としての雰囲気を出していきたい。せっかく、英子さんから電話があったのだから。
メールを見返していくと、午後14時32分に、荒川慶太からメールが入っていた。タイトルに「至急」とか入っていたが、見落としていた。メールをざっと目を通して、だいたいの状況を理解した。
「ああ、この件ですね。だいじょうぶですよ。何とかなりますよ」
「よかった。ライバル会社も全く同じ構図のコンテンツを用意していただなんて、ほんとびっくりですね」
「まあ、ライバル会社も同じ生成AIを使っていたんでしょう。こういったことはあります。だいじょうぶですよ」
そういって私は電話を切った。ぜんぜん大丈夫じゃないんだけどね。生成AIなんだから、仕方ないだろうとは言ったが、これで一体何度目なんだろうか。ライバル会社と同じ構図だったとして、変更しているのはいつもこっちばかり。そもそも、直前に、ライバル会社の構図がわかる事自体がおかしいではないか。一体、誰のせいなんだ。ぜったいおかしい。とにかく修正作業を急がなくては。
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