第3話 PSYCHO_KINESIS

男は暗い路地を逃げていた。

たった一人で、何かから逃れる様に。

後ろから迫るのは人の足音とサイレンの音。

口々に「待て」だの「止まれ」だのと声が響き渡る。

怒号にも近いそれは男の耳の中へ入って来るがそれでも止まる気配はない。


「そう簡単に…捕まってたまるかよッ!!」


彼は右手を突き出して目の前の路地に止まっている車を浮かせては振り向き様に後方の警官達へ投げ付けた。爆発音とガラスが砕け散る音が響き渡り、目の前を2台のパトカーが塞ごう物なら左手も突き出して片方を浮かせて接触させて事故を引き起こして更に逃げ続ける。まるで念力か何かを用いているとしか思えないそれは本来なら絶対有り得ない事だ。

後方の様子を確認し勝ち誇った様な笑みを浮かべると男は再び闇夜へ溶け込んで行った。

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「ひしゃげた鉄骨…潰れた車とパトカー…それから引き裂かれたフェンス…どう見ても普通じゃない。」


陽香は白い手袋を嵌めて規制線を超えてその中へ踏み込むと周囲を見回していた。周りでは他の警察関係者らが忙しなく動き回っている。彼女が此処へ来たのは現場を確かめる為で邪魔さえしなければ見ても構わないという条件の元だった。取り出したカメラでカシャカシャと写真を収めては1枚ずつ見直していく。


「…うーん、何回見てもこんなの有り得ないよね。バトルスーツの攻撃…にしては何か違和感有るし。他の火器でもこんな風には成らないし。」


治安局から借りている銀色の車へ戻ると該当する火器のデータと撮影した写真のデータの2つをパソコンで照会しながら眺めていた。

何度も睨めっこしているが全然検討すら付かぬまま頭を抱える始末、何度見返しても変わらない。

コンコンと窓ガラスをノックされて振り向くと舞依が助手席側のドアを開けて車内へ入って来た。

胸元を開けて着崩した白いワイシャツと上着は黒いコート、下は黒い長ズボン。


「……舞依ちゃん、2時間遅刻だよ。」



「…うるせぇ。来てやっただけ有り難く思っとけ新米。」


舞依はタバコをケースから1つ取り出し、ライターで火を付けると吹かし始める。陽香は無言で車の窓を左手で押して開いた。


「……それで、ちったぁマシな情報は得られたんだろうな?」



「けほッ、けほッ…ううん…全然ダメ。」



「ちッ、これだからサツは使えねぇんだよ。なぁーにが都市保安警察だ…単なる金持ちのボンクラの集まりじゃねぇか。」



「そういう事言わない。それと足癖悪いよ、そんな所に足乗せないの。」


舞依は足を組んで車内のダッシュボード上にスニーカーを脱がず、そのまま置いていたのだ。そしてタバコの本体を右手の指先で挟んで持ち、陽香の言葉を無視して煙を口から吐くと前方を見つめていた。


「……おい、写真貸せよ。」



「え?…はい。」


陽香は写真を舞依へ手渡すと彼女はタバコを口へ咥えてから見始める。飴を捻った様に曲がった鉄骨、潰れた普通車と引き裂かれたフェンスに何かに潰された様なパトカー2台。全てを見終わった末に彼女は写真を纏めて陽香へ返却した。


「どう?何か解った?」



「……何にも。お前はそのまま黙って作業しとけ。」


足を下ろした舞依はドアを開けて外へ出てしまうと陽香に呼び止められる。


「ねぇッ、何処行くの?」



「……アンタには関係ない、あたしはあたしでやる。」


バンッとドアを閉めると舞依はタバコをふかしながら何処かへと行ってしまった。

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舞依がその足で向かったのは都市部から離れた場所にあるまた別のエリア。都市部程の高層ビルは無いが、それでも街としては機能している。

夜は看板やネオンサインが目立つ場所なのだが

昼間は何も点いておらず普通の光景そのもの。

暫く歩いた末に彼女が訪れたのは白い大きな建物の前、そしてそのままツカツカと進んで行くと

左右に居た警備ロボットに止められた。


「……身分証ヲ提示シテ下サイ」



「ちッ…ほらよ。」


舞依はポケットからライセンスを出すと1人がスキャニングし照会する。そして2人が退いた後に彼女は建物の自動ドアを抜けて中へと入った。

エントランス内を見回しフロア回数を確認するとエレベーターを利用して上の階へ向かう。

辿り着いたのは10階にある研究機関で辺りには白い壁と同色の床が拡がっていた。

異様とも思えるその廊下を進んだ末にある受け付けのコンピューターの前へ来ると白衣を着た30代の金髪の男に左側から呼び止められる。


「キミ!子供がこんな所に来てはダメだ。ショッピングフロアは──」



「4階と5階だろ?ジャック。」


振り返ると彼は彼女を見て駆け寄ると手を握り締めて来たのだ。


「マイ!?マイじゃないか!大きくなったな…最後に会ったのはキョウカと来た時以来かい?」



「そうだな…それよりジャック、例の事件の事お前も聞いてるか?」



「……あぁ。アレは此処の系列の別機関で造られたサイコフィストで間違いない。もう盗まれて数ヶ月は経過している。僕の見立てでは多分盗んだのはレイモンド……例の研究機関に雇われていたが色んな有った末にクビになってる。それにフィストが消えたのも彼が解雇されてから約1週間後の事だから辻褄が合うんだ。」


彼に案内され、舞依はジャックの研究室へ入ると

ノートパソコンのスイッチを起動させてデータを見せる。そこには指先の空いた黒いグローブが映されていた。手の甲には何かの装置が取り付けられているのが解る。


「サイコフィストは言ってしまえば念動力…サイコキネシスを利用する特殊グローブでその気になれば凡ゆる物を浮かせたり飛ばしたりだって出来る。」



ガンでもダメか?」



「難しいだろうね…けどキミならやれるさ。何せキミは泣く子も黙る黒き処刑人ブラック・エクスキューショナー……そうだろ?」



「…あんま大っぴらにすんなよ?バカだと思われる。確かに引き受けたぜ…要するに野郎をブッ殺してそのサイコ何たらってのをお前に引き渡せば良いんだろ?」


ジャックへ話し掛けると彼は「ああ、頼んだよ」と返す。そして舞依も頷くと彼と右手でグータッチを交わしてから外へと出て行った。するとジャックに再び呼び止められ、振り返ると何かを投げられてそれを手に取る。それは灰色のUSBメモリだった。


「念の為だ、キョウカにも見て貰ってくれ。彼女なら役立ててくれる筈だ!」


それに対し舞依は頷くと帰りと同じエレベーターで1階へ降りて行くとエントランスから外へ出る。

そのまま通りを左へ曲がり、暫く道なりに歩いて行ると男3人が誰かを取り囲んでいるのを見付ける。

そこではボコボコにされて許しを乞うている1人の男が居て何かを奪われるのを拒んでいた。

大柄のスキンヘッドで黒人の男が彼の胸倉を掴んで脅している。


「いい加減、金を寄越せってんだこのウスノロ!!」



「止めてくれ…ッ、それがッ…それが無いと……病気の…妹が……!!」



「テメェの家族の事なんざ知るか!!良いからさっさと──」


何かが彼の後頭部へ命中、取り巻きの男達2人が先に振り返ると1人が舞依へ近寄って行った。歳は20代位だろうか。髪は茶髪で服装も乱れている。

もう1人は左側に居る同じ歳と思われる男は金髪、服装も派手目だった。


「おい、ガキ!てめぇ今何しやがった!?」



「…丁度良いマトが居たんで当ててやったんだよ。文句あっか?」



「あの人はこの辺の取り巻きのロバートさんだぞ?もしかして知らねぇのか?」



「知らねぇよ。良いからさっさと退け…つーか、ベラベラ喋んな…息クセぇんだよ。」


舞依が睨み付けると彼女の紫色の瞳から光が消え、虚ろな目で彼を威圧する。そう話した瞬間に目の前の彼は舞依へ向けてナイフを引き抜くとそれをクルクル回し出した。


「こぉッ、こんの野ぁ郎ぉおッ…ぶっ殺してやるッ!!ジャップ風情が調子乗ってんじゃねぇぞぉッ!!」



「……それはこっちのセリフだオッサン。大道芸なら他所でやれってんだ。」


血相を変えて舞依を襲おうとしたのも束の間、

いつの間にか舞依は彼の額へ銃口を突き付けていた。男は何が起きたのか解らず舞依を見ているだけで何もしようとはしない。


「なッ…あッ……え…ッ…?」



「抜いたのはてめぇからだ…それブン振り回したら額にケツの穴もう1つ増やしてやっからな?解ったんなら退け。後そこのもう1人、そのトカレフ抜いたらてめぇもケツの穴増やしてやるから覚悟しとけよ。」



「だッ…誰なんだよ……誰なんだお前はぁッ!?」



「あたしか?…あたしはな、てめぇらがガタガタ震えて小便漏らす位やべぇ存在だよ。言っちまえば死神…いやブギーマンか?目を付けたら最後、地獄の果まで追い掛け回して来るタチの悪い存在、それがあたしだよ。」


目を細め、白い歯を出してニヤリと笑うと男はナイフを落として震え上がっていた。彼を押し退けて奥のロバートという男の後ろで立ち止まると彼は振り返って舞依を黒い丸レンズのサングラス越し威圧して来る。


「…てめぇ、唯のガキじゃねぇな?」



「……そこの奴離してやれよ…アンタにゃ不釣り合いだ。そもそもガタイとか諸々がソイツと合ってねぇんだよハゲ。ダンスでもするなら舞踏会にでも行きな。」



「この…ッ…てめぇッ…!?」


その瞬間、ロバートが舞依のワイシャツの胸ポケットにある何かを発見し男から離れる。

そして取り巻き2人を連れて早々に共に立ち去ってしまった。舞依は落ちていた黒い革の財布を拾うと彼へ差し出す。ボサボサの黒い髪と殴られて腫れたのか顔にアザが出来ていた。着ているワイシャツも黒のズボンも汚れている。


「…ほらよ。お前のだ、無くすんじゃねぇぞ。」



「あ、ありがとう…キミは…?俺は──」



岡島遥斗おかじまはると免許証コレに全部書いてんぞ。それにあたしは名乗る程の奴じゃない…。そんじゃーな、妹を大切にしてやれよ。」


舞依は路地裏から出ると銃をしまってから歩いて立ち去った。

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日が傾き、街は夜を迎えると看板やネオンサインにも光が灯ってまた違った顔付きへと変化する。

舞依と陽香は治安局内にある会議室にてブリーフィングに参加していた。しかも奥の席に並んで腰掛けている。周囲では2人よりも歳上の大人達が色々と意見を出すなど対策が練られていた。


「……京香さんに場の空気だけ感じて来いって言われたけど何もしなくて良いのかな?」



「別に良いんじゃねぇの?キョーカは何考えてんのかサッパリ解らねぇし。暇で寝ちまいそうだ……ふぁあ。」



「舞依ちゃん、寝たら怒られるよ?」



「オッサン達の長話に付き合っていられる程、あたしは暇じゃねぇんだ。」


舞依が左手で頬杖を付いて話をきいていると彼女は欠伸をして軽く舌打ちした。話し合いが終わったのか一斉に立ち上がると彼等は頭を下げる。

陽香も立ち上がって頭を下げると約3時間にも及ぶ長い会議が終わった。2人も廊下へ出ると歩いて自分達の居る場所へと向かって行く。


「捜査員15名中、5人が死亡…うち6名が軽傷で4名が重傷。それ程相手が危険って事か……。」


陽香が配られた資料を見ながら話す。

それに対し舞依は廊下をふと見ながら呟いた。


「…超能力者エスパー。」



「超能力者って…あのスプーン曲げたりする奴?」



「それ以外に何が有るんだよ。バカかお前。」



「ちょっと、バカって何!?聞いただけなのに!」



「それ位でピィピィ喚くんじゃねーよ、うるせぇ。バカにバカって言って何が悪ぃんだ?事実だろうが。」



「そういう事言ってると本当に嫌われちゃうよ?少しは人の気持ちも考えたら?」



「余計なお世話だ。何ならアンタはサツより娼婦の方が向いてんじゃねーの?そのぶら下がったデカいムネ使ってりゃ万は稼げるだろ。」



「もーうッ、知らない!!」


陽香が赤面しプイッと顔を背けると先に行ってしまった。

そして舞依も合流すると京香の前に並んで立つ。


「……アンタ達…毎日喧嘩ばっかね、ホント。飽きないの?」



「だって、舞依ちゃんが私の事悪く言うんです!!」


ピッと指さすと舞依が陽香を睨んで威圧する。


「ハッ、娼婦が何言ってんだか。試しに局内の野郎全員食っちまえよ?チップ儲かるぜ?」



「だから、娼婦じゃないって言ってるでしょ!何処でそんな汚い言葉覚えて来るのよ!?じゃあ…つまり舞依ちゃんは銃撃つ以外丸っきり取り柄ないって事?」



「はぁ!?何抜かしてんだこのアマ!!」



「直ぐ喧嘩腰になる、やっぱり事実じゃない!!」


すると舞依は陽香へ詰め寄って睨み付け、虚ろな目で威圧する。


「表出ろよ、なぁ?表出ろよおい?ブチ切れちまったよ…ケツと前以外に穴もう1つ増やしてやろうか?あぁ?」



「な、何よ…歳下の癖に!!」



「んだとコラ!!」


京香が「ちょっと」と2人を呼ぶと同時に「「だって此奴が(この子が)!!」」と叫んで振り返る。

そして何かを思い切り顔へぶっ掛けられてしまった。2人の顔や着ていた服がびしょ濡れになると再び前を向いた。京香の手には2人分の紙コップが握られている。そこから滴る透明な液体、それは水だった。


「良いから黙って話を聞いて頂戴。お願いじゃなくてこれは命令…言葉の意味は解る?」



「イエス……マム。」


舞依が答えると陽香は「解りました」と答えた。

そして京香がホワイトボードと指し棒を持って来ると話を始める。


「……舞依から貰ったUSBメモリの情報と話によると、犯人はレイモンドという40代の男で確定。そして彼が務めていたラボから盗んだのはサイコフィストと呼ばれるまだ研究段階の技術。言ってしまえばサイコキネシスを操る優れ物…なんだけど既に多くの実害も出ているからグローブの破壊、若しくは系列ラボへの速やかな返却指示が国から降りている。」


コンコンと指し棒で京香が示すと陽香は頷いた。

すると今度は舞依が口を開く。


「それと、奴がサイコキネシスを使えるのはリミットが有るらしい。フルで使えるのは精々30分、そして再使用するには専用のカートリッジが要るって訳だ…つまり無限じゃねぇ。」


彼女はニィッと笑い、コキコキと右手を鳴らしていた。京香は壁の時計を見て呟く。


「もう直ぐ夜の21:00。仮にレイモンドが今日動くとしたら…不足したカートリッジの補充でしょうね。奪ってからは定期的に系列の研究所へ入っているのも捜査で解っている。良い?何としても必ず仕留めて。」



「はいッ!」



「……アイ・マム。」


陽香が敬礼するも舞依は何もせず返答する。

そして京香と共に駐車場へ赴くと陽香の運転で指定された研究所へとワゴンを走らせて行った。

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辿り着いたのは工業地帯に有る研究所で

最初にグローブが奪われた場所でもある。

だが系列の研究所は今居る地点から割りと離れた場所に有る事から寧ろこの辺には寄り付かないとされていた。しかし、治安局側も死傷者を出している事から躍起になっているのは間違いない

他の来そうな場所には治安局の捜査官、この外れをA.C.Tへ押し付けて来たという算段となる。


「ちッ…あのオッサン共、あたし達にハズレ押し付けやがって。とんだ貧乏クジだぜ、ったく……。」


舞依はワゴン車を降りて荷台を開くと珍しくコートを脱いだ。その下はノースリーブの白いワイシャツで色白い肌を持つ細く華奢な腕が露になる。そして左右の手に黒い指先の空いたグローブを嵌めると今度は銃器の選定を始めた。サブマシンガンUMPを首から下げ、それからRGMLグレネードランチャーを右手に持つと専用の弾の入ったガンベルトを首から下げる。

そして自身の使うARK17をもう1つ右側のホルスターへしまうと最後に長い髪を後ろで1つに縛ってから陽香と交代した。


「あの…京香さん?舞依ちゃん…何か凄い事になってますけど?」



「気にしなくて大丈夫、陽香ちゃんは普段と同じで構わないから。それと舞依?イヤーマフ持ってきなさい、デカいのぶっぱなすと耳やられるわよ。」


ポイッと灰色のイヤーマフを投げ、それを左手で受け取る。そして舞依は首を捻ってコキコキと左右に軽く鳴らすとそれを首へ掛けた。


「おい新米、あたしが囮になってやっから時間計っとけ。時間になったらフレアガンで合図しろ。」



「舞依ちゃんが?でも…大丈夫?」



「さぁてダンスの時間だ。キョーカから離れんじゃねぇぞ新米……派手に踊るぜ。」


舞依がそう話した途端、研究所の2階の窓ガラスが突然割れて外から1人の男が飛び降り、姿を現す。街灯に照らされたその格好は灰色のニット帽に深緑色のジャンパー、下は薄茶色のズボンにスニーカー。髭面の男は3人を見て立ち止まった。


「てめぇ…もしかしてサツか?」



「あぁ、それもタマ取ってく方のサツだよ。コソドロ野郎。」



「あぁ成程な…国の忠犬って訳か。クククッ、俺を捕まえられるなら捕まえてみろよ…出来るモンならなぁ?」



「クククッ、はははッ…そうかそうか……てめぇぶっ殺すッ──!!」


レイモンドが右手を突き出すと直後に割れたガラス片が勝手に空中を舞う。だが舞依は臆する素振りも見せずにイヤーマフを付けて左手に持つサブマシンガンの銃口を向けた。


「俺の力をその身を持って味わいな…ポリ公ッ!!」


ガラス片が放たれ、同時に舞依が発砲した事で薬莢が飛沫する。ガラスが殆ど砕け散ると彼女は残りを左側へ飛び退いて避けては再び発砲し追撃を図る。

しかし弾は全て軌道を変えられ、あらぬ方向に飛んで行ってしまった。


「クソッタレ、何でもありかよ!?」



「はははッ!!そんなオモチャ程度で俺が死ぬと思ったかぁ!?」


今度はドラム缶が飛散して来るとそれを右手に持つグレネードランチャーで迎撃し破壊、爆音と共に破片が飛び散った。それでもレイモンドはお構い無しに攻撃を仕掛けて来る。今度は建物の植木鉢や立て看板を念力の力で浮かせるとそれを舞依へ目掛けて解き放つ。


「だぁーッ!!あの野郎、無茶苦茶しやがって!!」


彼女は素早く振り返ってグレネードランチャーを向けて発砲、破壊すると間合いを詰めて今度はサブマシンガンを乱射したがやはり軌道は全て逸れてしまった。


「ふははは、ハズレだハズレぇッ!!」



「言ってろクソ野郎ッ!!折角のレディからのお誘いだ、てめぇもボケっと突っ立ってねぇで踊ったらどうだぁッ!?」


舞依が彼の背後へ回り込むとサブマシンガンを再び乱射しマガジンを捨てる。そして後退し距離を取りながらグレネードランチャーを発砲した末に建物の陰へ隠れると素早く左右の武器へマガジンと弾をリロードし再び飛び出すと彼女は果敢にレイモンドへと挑んで行く。先程まで居た場所へ巨大なコンクリート片が命中し轟音と共に壁へ穴が空いた。

再びお互い見合う構図になるとレイモンドは勝ち誇って舞依を見ながら嘲笑う。


「さっきから見てりゃ、逃げ足だけは1人前だな、ポリ公ッ!!」



「吠え面かいても知らねぇぞオッサン。てめぇの葬式の準備は済ませてんだろうなぁッ!?」


虚ろな紫色の目が目の前の標的を睨み付ける。

そして周囲には薬莢の他に看板や陶器の破片が飛散し、空気中には硝煙の匂いが漂っていた。



(つづく)

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