竜を屠るもの
「気をつけろ!」
その場にいた誰かが叫んだ。
その声を聞き、兜からあふれ出ている亜麻色の髪の女性が空を見上げる。
空には幾ばくかの雲が浮かぶ昼間の澄んだ青が広がっていた。
だが女性は澄んだ青を見ていなかった。
黒
そこには先ほどまで強風を起こし自分を転がした相手がいた。
太陽を背にしているため黒い十字の影となって威圧するように存在するもの。
竜であった。
「アマリア様!」
アマリアと呼ばれた女性は呼んだ方向を見た。
低く渋い声で鋭く名前を呼んだ男性がこちらに向かって来ている。
重甲冑を着込んだ老年に近い男性だ。
腰までありそうな盾を持ち面貌を跳ね上げた奥で白いひげを蓄えた顔が必死の形相で駆け寄ろうとしている。
必死にこちらに向かってきているのだが、甲冑の重さでアマリアが歩いているのと変わりない速さになっている。
よろよろと立ち上がりながら重甲冑の男性を見ると男性は空を見上げた。
アマリアもその方向を見る。
「火球がくるぞ!」
誰かが叫んだ。
影で黒く染められた竜の頭らしき所が赤く光っている。
その赤く光ったものがアマリアと呼ばれた者へ向かって放たれようとしている。
(どうする!?)
一瞬の迷いがアマリアの動きを止めさせた。
火球が放たれた。
(避けられない)
動く事も出来ず火球が迫るのをアマリアはただ見ているしかなかった。
(当たる)
「アマリアしゃがめ!」
離れたところからさっきとは別の男の声が聞こえた。
少し呆けたようになっていたアマリアがハッと意識を戻し言われるままにしゃがみこんだ。
次の瞬間アマリアを影が覆った。
ドォォォォォンンン
爆風が辺りをなぎ払った。
熱風と叩きつけるような衝撃がアマリアの全身を打ち据える。
「くっ」
顔をしかめながらアマリアは声を漏らした。
暴れ回る爆風を耐えきるとさっきまでの喧噪が嘘のように静寂が辺りを覆い、パラパラと土が落ちる音だけが聞こえた。
アマリアは爆風の残り熱と舞い上がった土埃に顔をしかめた。
持っている槍を支えに立ち上がる。
「アマリア様!」
声の方向を見ると駆け寄って来る者がいた。
次に自分を覆った影を見た。
そこには今戦っているとは思えないほどの朗らかな笑みでこちらを見ている青年がいた。
アマリアからは若干年上に見える軽装な皮鎧を着た赤毛の青年だ。
少し装飾の入った片手剣を右手に持ち、アマリアの上腕の長さ程度の直径の丸盾を左腕につけている。
どうみても先ほどの火球を防ぎきる事など出来ない装備だと思われるが事実防いだのだ。
「大丈夫か」
「はい、ディオン教官ありがとうございます」
「よし!じゃあ後はあいつをさっさと片付けるぞ!」
が、ディオンが軽快に言ったものの竜はなかなか下りてこなかった。
アマリアは空で悠々と旋回している竜を見て「下りてきませんね」とディオンに言った。
ディオンは「まぁ飛竜だからな飛ぶ方が好きなんだろう」と竜を睨みつけるようにして返した。
竜は腕は無く大きな翼と力強そうな下肢を持つ濃い茶色のトカゲのような姿をしていた。
「しかたないな」
ディオンは空を見上げ下りてきそうもない竜を見つつ周りに指示を出した。
「矢を射かけろ!」
指示を受け複数の矢が竜に向かって次々と放たれた。
竜は方向を変えつつ矢を避けていたが急に空中で止まってしまった。
目の前に赤毛の戦士がいたのだ。
地上にいるはず戦士が目の前にいることの驚きでその場で止まってしまった竜は何も出来ずただ目の前でディオンの剣を振りかぶる様を見ているだけであった。
逆手に持ち替えた剣が竜の目と目の間、ちょうど人間だと眉間と言われる場所に突き立てられ赤い血が飛び散った。
GYAoooooo
「おっと」
剣を突き刺された竜は大きく暴れ回りディオンは剣を竜に残しまま飛ばされた。
竜は大きく叫び空中で藻掻くように身体をくねらせる。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!
そこへ何本もの矢が竜の身体を貫いた。
剣を竜に突き立てままにしたディオンは並の人なら死ぬほどの高さからアマリアの側へ何事も無く着地し、何本もの矢に貫かれている竜を見上げた。
竜は大きく身体をくねらせ飛ぶ力が弱々しくなっていった。
もうそのまま落ちるだけかと思われたがクッと首をディオンの方向に向けた。
Guaaaaaaa
竜は叫び声を上げるとディオンの方へ襲いかかった。
「教官!」
側にいたアマリアが竜に剣を刺したままのため盾しか持たないディオンの前に立った。
空から襲いかかる竜を迎え撃つべく両手で槍を構えた。
「アマリア!ファイアを使え!」
「はい!」
アマリアは一度大きく息を吸いそして気合いを入れるように叫んだ。
「はああああああああああ」
次の瞬間アマリアの身体と槍が白い光に包まれた。
竜が獲物を噛み砕かんと大きく口を広げ迫ってくる。
「今だ!」とディオンが叫んだ。
「うりゃああああああ」
アマリアは振り上げた槍を迫ってきた竜の目前でしゃがみながら力強く振り下ろす。
ドゥン!
振り下ろした槍の刃が光の流れを残したまま竜の頭に叩き込まれた。
竜の頭が地面に叩きつけられ身体は突っ込んできた勢いのまま縦回転しながらアマリア達の真上を通り過ぎる。
ドン!ドンドンドンドン!
竜の身体は地面をはねながら転がった後アマリア達から離れた場所で止まった。
叩きつけられた竜の頭は首から引きちぎられアマリアの前にあった。
はぁはぁはぁ
アマリアは座り込んだまま肩で大きく呼吸していた。
「アマリア様!」
「アマリアすごいな」
「竜の頭を引きちぎれるファイアを使えるなんて」
一緒に戦っていた者達がアマリアに近付きながら話していた。
「よくやった」
ディオンが座り込んでいるアマリアの前に片膝立ちになり笑顔で褒めた。
だがアマリアは周りの声もディオンの称賛も聞こえてなかった。
顔を上げる事が出来ずにただ荒い呼吸を続けてるしか出来なかった。
はぁはぁはぁはぁはぁはぁ
(ファイアを・・使うと・・こんなに・・疲れるの!?)
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