竜魂のドラゴンスレイヤー

ハヤシタスキ

章前

光が踊っている。


ゆらゆらゆらゆら


闇が踊っている。


ゆらゆらゆらゆら


その部屋のほとんどが闇に覆われていた。

大人の肩ほどの高さがある燭台に立てられた蝋燭によって照らされているのは部屋の一部でしかなく、ほとんどは闇に呑まれていた。


わずかな光によって照らされた床は灰色で滑らかな石の平面に炎の揺らめきが反射している

闇に覆われているが部屋全体が硬質の冷気に包まれており、壁も天井も石で出来ていると思われた。


部屋には直径が大人の肩幅くらいで高さが腰くらいの木製の丸テーブルがあった。

テーブルは緑がかった黒色が艶やかに光り縁に施されたみごとな装飾を浮き上がらせている

明かりがほとんど届かない場所にもあちこちに同じような丸テーブルと明かりのついていない燭台がかすかに見えた。

蝋燭の炎がテーブルと燭台そして光が届く限界の縁を揺らめき踊らせていた。


その中で踊らないモノがいた。


揺らめく炎で照らされている中心にフードを深く被ったローブ姿の者が立っていた。

その姿は闇が凝縮したかのように黒く蝋燭の光を反射していなかった。

そこにローブの形をした黒い穴が開いているかのようであった。

光に照らされた影はローブと同じ闇を床に貼り付け周りで踊るモノ達からの誘いを一切拒絶していた。


テーブルの上には大きさが人の頭ほどあり透明感のある黄褐色の玉がテーブルと同じ材質で出来た台座に乗っていた。

玉の中は白い靄みたいなものが見え、それが渦を巻いていた。

渦はまるで光と闇の踊りに加わりように見えグルグルと激しく方向を変えつつ動いている。

人物はローブに隠れたままの両手でその玉を挟むようにして持ち上げた。


重さを感じない様子で腕を伸ばしたまま玉を持ち、ゆっくりと後ろに下がりテーブルから離れる。

そして完全にテーブルから離れた所で止まった。


玉の下には石の床しかない。

蝋燭の揺らめく光に照らされているせいか玉の中の渦がさっきよりも激しく動いているように見えた。


二呼吸ほど静止。


そして


両手から玉を離した。

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