第7話 ビリー角。

くねくね。


体が変わっていく。


くねくねくね。


体が大きくなって、額がムズムズする。


くねくねくねくね。


体がそのように動いた。まるで体の中で何かが生きて動いているようだ。鱗で覆われた皮膚がボコボコと盛り上がったり沈んだりを繰り返した。ああ、痛い。体が破裂しそうだ。


私は小さな生き物だ。もう歩くこともできず、テレビを見ることもできず、パソコンもできない。父に殴られることも、母に罵られることもない。


何より冷たいビールを飲むこともできなかった。ただの蛇となって腐った木の中でくねくねと動いている。


気持ち悪くてあまり食べなかったラーメンが食べたくなった。ネズミを食べ、腐った肉を食べ、虫を捕まえて食べたくない。背中の鱗がボコッと飛び出した。


ついに、内側からの圧力に耐えきれず、皮膚が裂け始めた。


ブチッ。


皮膚が割れて飛び出したのは白い手。血に染まった手がもう一つ飛び出し、腹を裂いて体の中から這い出てきた。間違いなく人の手だ。十本の指がうごめいた。私はもう人間なのか。人間の体に戻ってしまったのか。


コケコッコー-


セットしておいたアラームが聞こえた。そうか、今まで全部夢だったのか?


・・・ちょっと残念だけど。


コケコッコー-


自分で設定したとはいえ、このアラームの音はすっきりしている。本当に鶏が鳴くかのように生々しい音だ。


・・・あれ?


*


コケコッコー!


目を開けた。暗い穴の中だった。いや、どこかで本物の鶏が鳴いている。薄明かりが差し込んでいる。鶏があんなにコケコッコーと鳴いていたら、他の怪物に見つかって食べられてしまわないだろうか。元気なやつだ。いつか捕まえて食べてやろう。


悪夢を見た。夢の中の私は、精神力20の今では考えられないほど弱かった。


—ママが見たい~テレビが見たい~ラーメンが食べたいよ、ヒンヒン。行け!


ネズミを食べるのがどうだ、虫と戦うのがどうだというのか。夢の中の自分が情けない。自由を求めることができる者こそが本当の人間だ。少なくとも前世の私より、蛇の体を持っている今の私の方が自由だ。そして蛇や虫も思ったより食べられるものだ。


‘でもなんでこんなに狭いんだ。’


寝ていた穴は狭かったけれど、なんとか過ごせる程度だった。でも今は違う。場所が窮屈極まりなかった。進化している途中で体が大きくなったようだ。


穴から抜け出そうとした瞬間、私はそれをはっきりと実感した。これは無理だ。穴は、ちょうど私がかろうじて入れるくらいの大きさだった。


しかし、体が大きくなった今では、通過するのは確実に不可能だった。今の体の周りの大きさは、少なくともハムのピンクソーセージほど大きくなったようだ。下手をすると、この穴が私の墓になるかもしれない。


それは避けたかったので、私は狭い穴を広げることにした。穴の縁をかじる方法で。


ガリッ、バキッ!


おや!


あごの力も強くなったようだ。以前ならガリガリ削らなければならなかっただろうが、今はバリバリと噛み砕ける。入口をあまり広げすぎないようにしよう。


もしかしたらムカデ夫婦が家探しを試みるかもしれないから。隣人とはいえ、そこまで親しいわけではない。


穴から出た私は、でこぼこの木目を伝って下りてきた。


体が重くなったが、力はずっと強くなったので難しくなかった。それにしても、前世で動物に関するYouTubeをたくさん見たのがこんなに役立つとは。


本来、足のない蛇が木に登るのは非常に難しい。だが、このように尻尾を絡めて輪のようにすれば、木を登ったり下りたりすることができるのだ。


タッと地面に着地した。堂々とした気分だ。さて、進化によって何が変わったのか一度確認してみようか。


【ホワイト・ホーン・スネーク Iv1】

【特性】

【不屈】、【精進】、【角】


ウハハ!


もう「リトル」などというみすぼらしい形容詞はついていない。私は小さくない。正直に言えば、大きい方ではないが、そう小さくもなかった。


レベルが再び1に戻ったのは予想していた。メドゥサママは89レベルだったっけ。それならママはどれほど強かったのだろうか。彼女はこのような進化の過程をすべて経て、メドゥサ・サーペントとなり、さらに89までレベルを上げたのだ。それを見ると、レベル10がいつも進化のタイミングというわけではないようだ。


メドゥサママもレベル100、あるいはそれ以上になればさらに別のものに進化したのかもしれない。ともあれ、私はママのような醜い怪物になりたくはなかった。私は特性に追加された「角」を見た。特性が角ってどういうことだ。不屈と精進は、それぞれ精神力と潜在力のステータスを20に設定することで得た特典だった。


それほど素晴らしい何かを持っているが、まだ詳しい使い方はわからない。角というのもそれほど重要なものだろうか。頭に角が生えたようだ。鏡がないのでしっかり見ることができない。


尻尾で頭を触ってみた。そして感嘆した。


おお、これはとても大きくて立派な角だ。


・・・逆説的な意味で言っている。私の頭についている角は、角と呼ぶにはおこがましい突起のようなものだった。実際、蛇の中には角蛇と呼ばれるものがいる。


砂漠に住むサンドスネークという蛇がいるが、この蛇の角は飾りにすぎない。私の角も同じだった。これでは私の壮大な計画を実行するのは難しそうだ。速く動きながら角で敵を突き破る、まるで国家権力レベルのすごい角蛇になりたかったのに。ともあれ、特殊な条件を満たして進化したのだから、何か特別なものがあるはずだ。


スキルをもっと詳しく見てみよう。


【スキル】

[ビリー角lv1](新スキル!)、

[毒牙lv3]、[速く動くlv3]、

[息止めlv4]、[捕食lv3]、[かみつきlv4]、

[毒耐性lv3]、[出血耐性lv2]、[痛み耐性lv4]、[熱耐性lv2]、[生存本能lv3]


【状態】


あった!新しいスキルが追加されている。他のスキルは特にレベルが大幅に上がったわけでもなく、変化も少ないが、全く意味不明な名前のスキルができていた。


「ビリー角」とは一体何なのだろう。ビリーって誰なんだ!


少しがっかりして気が遠くなりそうだった。角ミサイルのようなスキルだったら良かったのに。ゲームのようにスキルの名前を叫んでもスキルは発動しない。


「速く動く」のように集中してその行為をしなければならないが、ビリー角を発動するにはどうすればいいのか。


その瞬間だった。気配を感じて振り向くと、そこには王ムカデの妻がいた。確かに進化したおかげで感覚が鋭くなった。


「こんにちは」。


若奥さんは朝食の準備をしていたのか、足でカエルのようなものを持っていた。どうやら驚いているのか、触角を動かしながら警戒している。ああ、体が少し大きくなったんだな。角も生えたし。


ムカデの視力は良くないとはいえ、少し戸惑っているようだ。初めて会った時のように、尻尾をピコピコさせながら頭を下げて挨拶をした。すると、心優しい若奥さんも触角をピコピコさせて、私に合わせてくれた。彼女はポトッと持っていたカエルを置いた。そして少しずつ後退していく。


私にくれるつもりらしい。その瞬間、驚くほど感動した。もしかして、引っ越しの挨拶のお返しですか?以前住んでいたアパートでは隣人と2年間一度も挨拶を交わさなかったのに。人間よりムカデの方が優れている!


その好意を無下にできないので、カエルをありがたくいただいた。ムカデの匂いはしたが、その気持ちだけで温かい。湿ったカエルをゴクリと飲み込んだ。


[毒耐性の熟練度が少し上昇しました。]


少しお腹が痛くなってきたところを見ると、毒カエルだったのかもしれない。だが、若奥さんの好意を疑う気持ちは全くなかった。今の彼女の姿を見ればわかる。黄色い唾をポタポタと垂らしているではないか。


カエルは貴重な食料だった。こうしてお互いの気持ちを通じ合うのが隣人の絆だ。私もいつか獲物を分けてあげよう。


ムカデの若奥さんを見て、ふと疑問が湧いた。


私とムカデではどちらが強いだろうか。


【レッドティス王ムカデ Iv7】

【特性】

【温和】

【スキル】

【毒牙lv9】、【隠密lv3】、【速く動くlv2】、【甲殻lv3】、【引き裂きlv5】

【状態】

【空腹】、【新婚】


王ムカデはメスの方が体が大きい。魔物でも同じだった。体が大きいだけでなく、夫よりも強いようだった。ただ、耐性はほとんどないようだが…スキルの種類は確かに私の方が多い。これもやはり潜在力のおかげだろう。それでもレッドティス王ムカデには私にないスキルがある。


隠密、甲殻、引き裂き。


どれも使い勝手が良さそうだ。特に甲殻がとても羨ましい。ムカデは硬い外骨格を持っている。これならモスキートラットのようなやつに血を吸われることもないだろう。


私にも「甲殻」というスキルがあればいいのにと思った瞬間だった。なぜか、角が熱くなってきた。うっ。


[‘甲殻'を借りますか?]


え? はい!


そして角が熱くなり、体から力が抜けた。


[甲殻lv3を借りました。一時的に甲殻lv1を取得します。]


「ビリー角」


それは文字通りスキルを借りることができるスキルのようだった。ただの偶然で不屈と精進の横に「角」という特性が追加されたわけではなかった。

それほど素晴らしいものだ。一瞬で私の鱗が硬くなった。まるで鱗の鎧を身につけたかのようだ。尻尾で体を軽く叩いてみると、カチカチという音がした。甲殻というだけあって、確かに感触が違う。


硬くなった。私は強くなった!


もし私が話せたら、声を上げていただろう。隣の若奥さんの前でそんなことを叫んだら、即座に警察に連れて行かれただろう。


新しいスキルを手に入れた私は喜びの舞を踊った。ムカデがぼんやりと私を見ていた。あ、少し失礼だったかな。


相手のスキルを借りることができるスキル。その使い道は無限大だ。だが、もちろん好きなだけ自由に使えるわけではないだろう。スキルの限界と可能性を知るためには試行錯誤が必要だ。


お腹が鳴った。それを確かめるには、狩りほど良いものはないだろう。


それでは、失礼します。


私は狩りに出かけた。


***


この場所の自然環境を地球と比べてはいけない。日本の山で野生動物に出会うのは容易ではない。せいぜいたまにタヌキやイノシシ、ノロジカを見かける程度だろう。


しかし、ここは違う。特にこの盆地はまるで生態動物園のようだった。小さくて弱い動物から大きくて強い魔物まで様々な生き物がいた。


私のように弱くて小さな蛇が飢え死にしないか心配だったが、それは杞憂だった。ゴキブリのような虫はカリカリしていて美味しく、モスキートラットは恐れもなくうろちょろしていた。


食べて生きることはできたが、問題はレベルアップだ。


いくらゴキブリやモスキートラットを食べてもレベルが上がらなかった。つまり、自分のレベルに見合った魔物を狩る必要があるということだ。ここから先は難易度が一気に上がる。まず、私が挑むべき相手を慎重に選ばなければならない。どれだけ「速く動く」を鍛えたとしても、全力疾走するモスキートラットには追いつけない。


一度戦いを始めたら、必ず決着をつける必要があった。


頑張って歩き回っていた私は、ついに命をかける価値のある相手と出会った。相手も角がある魔物だった。鋭く突き出た前歯、柔らかな毛皮、愛らしく長い耳。草をかじるその危険な動物。


【ホーン・ラビット Iv3】

【特性】

【臆病者】

【スキル】

【跳躍lv5】、【穴掘りlv3】

【状態】

【警戒中】


ウサギだった。


このウサギは角があるのに、私と同じ角の特性も「ビリー角」スキルも持っていない。ただの若造と勘違いしやすいが、特性や状態だけ見てもそのすごさがわかる。とても速い。少しでも近づこうとすると、さっと逃げて地中に隠れてしまう。そのため私は茂みに隠れて、すでに1時間以上待ち伏せしていた。


ウサギがある程度近づいてくるのをじっと待つ。カリカリと草をかじる音が静かに響く。そして、ウサギが私に背を向け、草を食べ始めたその瞬間――チャンスが来た。


[跳躍lv5を借りました。]

[一時的に跳躍lv1を取得しました。]


蛇がジャンプするのは常識だよな!


私が飛び上がると、ウサギが驚いて頭を上げて跳び上がった。しかし、もう遅かった。私はウサギの尻に噛みついた。驚いたウサギが小さな黒豆のような糞をポロポロと落としながら逃げた。誰かが見たら失敗したと思うかもしれないが、


「キィン。」


地面を掘っていたウサギが、ドサッと倒れた。何しろ私は毒蛇なのだ。狩りは成功だった。


[ビリー角lv1がビリー角lv2になりました。]


やった!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヘビですが、なにか Nara @suprejan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画