第6話 助けてホームズ
進化。胸がときめく言葉だ。私にとって進化が可能かどうかは非常に重要だった。一生ちっぽけな白い蛇のままで生きなければならないかどうかがかかっているのだ。だからといって、メデューサのように醜い人面大蛇になりたいわけではもちろんない。できれば人間に近い姿に進化したいけれど、それが無理ならせめて大きく美しい蛇にでも。
そうだ、ではどんなものに進化できるのだろう。選択肢のようなものがあるはずだ。必ずそうでなければならない。しかし、私はすぐには選択肢を確認できなかった。
なんだこれ。どんなものに進化できるかが書いていない。その代わりに、補足のような説明があった。
[※進化には条件を満たす必要があります。]
そうか、どんな条件が必要なんだ。ピカチュウがライチュウに進化するには雷の石が必要だった。私もそんなものが必要なのだろうか。実際その通りだった。
-1等級の魔石を摂取すること。
あれ。1等級の魔石を摂取しなければ進化できないということか。私が食べたものが魔石であるならば、これで判断できた。魔石の等級は数が高いほど貴重なようだ。それでなければ、1等級は最高等級の魔石だろうけど、まさか私のような小さな蛇が進化するためにそんな魔石が必要なわけがない。
混血ジャガーの魔石が3等級だった。奴でさえも、私が正々堂々と戦っても決して勝てない魔物だった。ちょっと惜しいな。すると私が食べた魔石も貴重なものに違いない。
1等級の魔石だけでよかったのに、3等級のものを食べてしまったのか。小学生の頃、家にあった和牛をラーメンに入れて食べたことがあるが、母に貴重な和牛をラーメンに使ったのかと叱られたことがある。まさにあの時と同じだな、うんうん。しかし、あの時のラーメンは最高に美味しかったし、私も今や進化できるようになった。
それでいいのだ。さあ、進化を始めてみよう。進化してみれば、どのように進化するかがわかるはずだ。しかし、私はまたしても迷った。さっき混血ジャガーの死体が迎えた最期を思い出した。もし私が奴の体内で寝ることを選んでいたら、一緒に地中に引きずり込まれていただろう。そして避けられない死を迎えていただろう。そうだ、とりあえず進化は少し安全な隠れ場所を探してから試みるのが良さそうだ。
それにそんなことを考えていると、なぜか体がぴりぴりとした。 これがまさに生存本能の発現なのか。 いや、本当に痛いんだ。 ああ、痛っ!
くそ!目を開けた途端、罵りの言葉が飛び出した。何かが私の体にくっついていた。栗のイガくらいの大きさで、その動物は灰色の毛を持ち、毛のない赤い尾をしていた。間違いなくネズミだった。この狂ったネズミが、蛇を怖がることもなく体を擦り付けているのか。その厚かましい顔を確認しようとした瞬間、驚愕した。
ネズミだと思っていたのに、なんだこの姿は。奴の目は虫のように飛び出していて、口先は突起のように長く伸びていた。そしてその口先が私の体に突き刺さっていた。ズルズルと、私の血を吸っていたのだ。思わず奴の名前を確認した。
[モスキート・ラット Iv3]
[特性]
[吸血鬼]
[スキル]
[吸血 Iv2]、[毒針 Iv3]
うわあああ!こんな地獄のような生物がいるなんて。なんと蚊とネズミを合わせた魔物だったのだ。しかもその毒針を私の脇腹に突き刺している。殺意が湧き上がった。私の毒牙の味も見せてやろう。瞬時に奴を噛みつき、ためらうことなく丸呑みした。奴に吸われた血をこうして取り戻したのだ。考えてみると、すぐに飲み込んでしまったせいで毒牙の味を見せる間もなかったな。
ともかく、この程度の魔物なら私でも倒せるのだ。誇らしくてたまらない。天国のメデューサ母さんもきっと私を誇りに思ってくれるだろう。近くにもう一匹いたが、私が睨むとスッと逃げ出した。本当にイライラする生き物だ。
やはりすぐに進化しなくて正解だった。あんな吸血ネズミの心配をしなくていい隠れ場所をまず探そう。モスキート・ラットは私の一食の軽食となったが、奴が残した傷がかゆかった。奴には毒針lv3があったが、以前兄に噛まれた時よりは痛くない。毒耐性があるから心配はないだろう。
血が少し流れたが、我慢して岩の隙間から出た。いつの間にか夜が明けていた。ここからは私の新しい住処を手に入れるプロジェクトの始まりだ。この広い盆地に、私の体を休める場所がないわけがないだろう。
私は冷たい風を避けて、体を隠す場所を探しながら這って行った。
***
昔の賢人たちは、安分知足の生活について歌ったものだ。彼らは、雲を布団にし、月明かりの下で横になって眠りにつくことさえ幸せだと言っていたのか。教科書でそんな詩をたくさん読んだ。私はどうしても彼らのような境地には達せられそうにない。
・・・いや、よく考えてみたら、その詩を作った人たちは皆、高官だったじゃないか。やはり一間の藁葺きの家で暮らしても幸せでいられるとか、全てごまかしだったんだ。だから私も良い家を見つけたかった。マイホームを手に入れる夢のために、一生懸命に探し回った。
ブーーン
使えそうな岩の隙間を見つけたと思ったら、中から蜂が飛び出してきた。使えない岩の隙間を選んでいればよかったのに。全部私の欲張りが原因だ。蜂から逃れて隠れた場所は、茂みの中にぽっかり開いた穴だった。そしてその中で対面したのは、赤い目が八つの生き物だった。
いや、蜘蛛も地中で暮らすのか?蛇もバックすることができるって、今日初めて知ったよ。心の中で「エリーゼのために」を口ずさみながら、そろりと後退した。蜂に刺されたところが腫れ上がって痛む。なぜこんなに毒を持つ魔物が多いのか。毒耐性のレベルが一つ上がった。それがなかったら、もう腫れ上がって死んでいただろう。
「これは問題だな。」
「安全で良い」隠れ場所を見つけるのは本当に難しかった。
良い場所にはすでにすべて住人がいた。それはまるで、美男美女には必ず恋人がいるのと同じことだ。本当の理想の住処は洞窟だが、そこには最強の魔物が巣食っている。例えば、巨大なアウルベアーが洞窟から飛び出してきたときの恐怖といったら想像を絶するものがある。もっと一般的で手軽に見つかるのは岩の隙間だが、それもまた安全とは言いがたい。
「ちっ、ここにもいる!」
口を開けて「シャー!」と音を立てた。すると、遠くから覗き込んでいたモスキート・ラットが逃げ出した。あいつらが私の最大の問題だった。ネズミも嫌な生物だし、蚊は最悪の虫だったが、なんとその二つを合わせたような種族なのだ。少しでも露出した場所で眠ろうとすると、あいつらが来て血をチューチュー吸っていった。
足裏には綿毛のようなものが生えていて、気づくこともできない。そしてその口から分泌する毒。その毒は私の皮膚を麻痺させ、血液の凝固を妨げるのだ。一日に三度も噛まれたことがあり、その日は本当に失血死するところだった。
彼らがいない場所を見つけるのが私の目標だった。そして三日経った後、私は素晴らしい場所を見つけた。
「ここ、いい感じだ。」
いや、今まで見つけた場所の中で一番気に入っている。かつて雷に打たれた場所のようだ。枯れた木が何本か集まっている。葉はなく、ところどころ空いた節穴が見える。枯れ木にはああして中が空洞になっている場合がある。適度に湿っていて暖かく、木を登れない脅威からも安全だ。
つまり、あの忌々しいモスキート・ラットからも安全ということだ。モスキート・ラットが木を登れるわけがない。じゃあな、忌々しいモスキート・ラット!
ふぅ、興奮を鎮めよう。今までの経験から学んだことがある。まず、この場所が本当に良い隠れ場所かどうか調べなければならなかった。私は枯れ木の周囲を見回した。危険な鳥の魔物の巣はないか。どこかにスズメバチの巣のようなものはないか。木を登ってくる魔物の爪跡はないか。
チェックリストを全て確認した結果、この場所は最高級の隠れ家だと確信した。まるで高級住宅地・ハワイイのヴィラのようだ。私は一番大きな枯れ木に慎重に近づいた。どんなに良い場所でも、危険な先住者がいれば元も子もない。頼む、誰もいないか、私が対処できる相手であってくれ。枯れ木の中ほどに大きな穴がぽっかりと開いていた。その中に顔を突っ込んでみた。
「おお!誰もいない!」
枯れ木の中には快適で広々とした空間が広がっていた。この広さなら、以前住んでいたアパートの部屋より良さそうだ。ただし、誰もいない代わりに死んでいるモスキート・ラットが一匹いるのが問題だ。あのモスキート・ラットが飛べるわけでなければ、誰かが持ち込んだに違いない。
ギリギリッ、ギリッ。
そして、奇妙な音がその木の上から響いた。ああ、家を見に来ただけなのに家主がいたとは。家主は巨大なムカデだった。私の体の太さは日本のポークソーセージより少し太いくらいだが、そのムカデの胴体は赤ん坊の腕ほどの太さだった。反射的に両目に力を入れた。
レッドティス王ムカデ Iv6】
[特性]
[穏やか], [職人]
[スキル]
[毒牙lv8], [隠密lv3], [高速移動Iv2], [甲殻lv4], [引き裂きlv5]
【状態】
[満腹], [新婚]
見えた!
ステータスウィンドウが見えるということは、相手のレベルが手の届く範囲であることを意味していた。
見た目は恐ろしそうだが、思ったより弱いのだろうか。特性に「穏やかさ」なんてあるから、そうかもしれない。「職人」ってまた何なんだ。スキルには怖い「引き裂き」なんかも入っているのに。ちょっと待て、「穏やかさ」…?
魔物には初めて見る特性だ。奴はとてもゆっくりとこちらに近づいてきた。そして適当な距離で止まり、触角をピクピクと動かし始めた。まるで私を観察しようとしているかのようだ。
「こんにちは。」
挨拶するようにゆっくりと尾を振った。すると、ムカデも尾の動きに合わせて触角をピクピクと揺らし始めた。私は尾を振るのをやめた。ムカデも触角を揺らすのをやめた。うーん、確かに穏やかなようだ。少なくとも他の魔物のように私を捕まえて食べようとはしていない。
ならば、もう友達ってこと?私がじっとしていると、王ムカデは興味を失ったようで、ゆっくりと自分の家である枯れ木の中に戻っていった。私はそんな友人の脇腹を噛んで先制攻撃を仕掛けようかと考えた。毒耐性がないようだから、やってみる価値があるかもしれない。あの家がとても魅力的に見える。
もしかしたら私の特性に「卑怯さ」が隠れているのかもしれない。だが、私はそれを諦めた。ステータスに記されていた「新婚」という言葉の意味を理解したからだ。木の上からさらに大きなムカデがもう一匹現れた。
【レッドティス王ムカデ lv7】
[特性]
[穏やかさ]
「お二人とも仲が良さそうですね。」
そういえば、ムカデはもともと雄雌のペアで行動するものだと聞いたことがある。私はひとまず彼らが住む木から降りた。ふと閃いたことがある。
・・・ああ、だからか。この辺りではあの忌々しいモスキート・ラットが全く見かけられなかったのだ。きっとこのムカデ夫婦のおかげなのだろう。少し悩んだ。他の場所を探すか、この近くに留まるか。選択は簡単ではなかったが、
ゴロゴロ…
不吉な雷鳴が私の選択を急かした。空を見ると黒い雲がどんよりと垂れ込めていた。大変だ。雨に濡れてはまずい。冷血動物は下手をすると凍え死ぬんだ。去るという選択肢はなさそうだ。ここにはムカデ夫婦の家以外にも良い枯れ木がたくさんあった。
その中で適当な穴を見つけた。ちょうど私がぎりぎり入れるくらいの小さな節穴があった。中には体を丸めて横になれるほどの空間があったが、ムカデ夫婦が入れないくらい入り口が小さい。このくらいなら大丈夫だろう。
それでも隣に住むのに挨拶もしないのは少し失礼かもしれない。私はタオルの代わりに近くでモスキート・ラットを一匹捕まえてきた。それをムカデ夫婦が住む木の下に置いた。
「引っ越し祝いだと思ってください。」
新しい家に上がって下を見下ろすと、ムカデ夫婦のうち夫が一生懸命モスキート・ラットを運んでいた。なんだか心が温まる。これが隣人の情ってものだろうか。決してムカデ夫婦が飢えないことを祈っているわけではなかった。
ゴロゴロッ!
雷鳴が轟き、雨が降り始めた。私は目を閉じて眠りにつこうとした。雨音のおかげで、すぐに眠りに落ちた。
さて、進化の時間だ!
***
待ちに待った瞬間だ。
進化をするかという問いに、私は堂々と「する」と答えた。何に進化できるのだろう。選べる選択肢があればいいのだが。
【リトルホワイトスネークlv10】から
1.【リトルグリーンスネーク】
に進化できます。
「…何だこれ、くそ。」
選択肢なんてものはなかった。それに、進化内容にも問題があった。私は「リトルホワイトスネーク」だったから、きっと「ホワイトスネーク」に進化するのだろうと思っていたのだ。
体を大きくするのは大切だ。体格こそ戦いの基本ではないか。今の私は小さすぎる。モスキート・ラット以上の動物も一口で飲み込めるくらいにはなりたいものだ。しかし、「リトルグリーンスネーク」とは何だ。
それは私の兄弟たちの種族名だ。つまり、実は私は彼らよりも進化が遅れている種族だったのか?
嘘だろ。全部嘘だ!私は自分だけが白いのが特別で良いことだと信じていたのに…。進化への期待が一気に冷めた瞬間だった。しかし、その時、声が私に希望を与えた。
[進化の特殊条件を達成しました。新しい進化ツリーが解禁されます。]
やった!特殊条件だ!私、何をしたんだ?
私がやり遂げたことが確かにあったのだ。
[※特殊条件:3等級以上の魔石を摂取]
ああ、ジャガー様、あなたの大きな恩恵を今こそ理解しました。
進化の条件の一つに魔石の摂取があった。1等級の魔石だけで良かったところを、私はなんと3等級を食べてしまったのだ!
そして、新しい選択肢が現れた。
【リトルホワイトスネークlv10】から
1. 【リトルグリーンスネーク】
2. 【ホワイトホーンスネーク】
に進化できます。
わあ!角が生えた!
ホーン(horn)ジャガーが角のあるジャガーだったように、ホーンスネークとは角のある蛇に違いない。
どうしよう。
蛇に角が生えたらそれで…でも、リトルグリーンスネークなんて元々選択肢じゃなかったんだ。ならば、迷うことはない。
[ホワイトホーンスネークを選択しました。]
[進化を開始します。]
特殊進化!
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