第4話 FLY HIGH!

地獄の炎だ。死んだら行くという地獄は、これほどまでに恐ろしいものだろうか。あの警備隊長は本当に恐ろしいやつだった。風向きを読んで火攻めをするなんて、自分が何か諸葛亮とでも思っているのか。


南東風が吹いたわけではないが、本当に洞窟の中に風穴があったようだ。炎は地面でちらつく程度ではなく、熱風を巻き上げて空にまで燃え上がった。兵士たちは顔を覆い、徐々に後退し始めた。


「洞窟の入口に下がって守れ!」


警備隊長はそう言いながら部下たちを統率した。一匹でも逃がすまいという意思がうかがえた。体に火がついた仲間たちは瞬く間に縮んで死んだ。まるで鉄板の上に置かれたウツボのようだ。


では、火の中にいない私は無事なのか。いや、そうではなかった。


[熱耐性の熟練度が急激に上昇しています。熱耐性IV1を得ました。]


熱だけで鱗が白く焦げ始めていた。生存本能がこの火から逃げろと警告していた。早く湿った岩の隙間に隠れろと鱗が震えた。


[生存本能IV1を得ました。]


冗談ではなく、本当にそうだった。しかし、私は生存本能の警告には

従わなかった。油を伝って火が広がっている中、岩の隙間に隠れてもこんがり焼けた蛇の丸焼きになるだけだ。私は代わりに後退する警備隊長を睨みつけた。お前の顔、覚えておいたぞ。この恨み、忘れない。余裕はそこまでだった。このままでは本当に死ぬだろう。私が今まで待っていたのも、石化した魔物がある程度元に戻るのを待っていたからだ。


奴らの血色が徐々に戻ってきていた。まだ動けなかったが、少しずつ動き始めた。これならば、私の牙も肉に食い込むだろう。私がしようとしていることは、間違いなく狂った行為だった。だが、狂った行為でもしなければこの火の地獄から抜け出す方法はなかった。私は大きく開かれた混血ジャガーの口に直接入り込んだ。混血ジャガーの体格は雄牛より大きい。奴は母親を見て怯えて吼えたまま、その状態で固まっていた。つまり、肉食動物特有の広い喉が大きく開かれていたのだ。


尖った歯の間に入ると、舌があり、その奥にぶら下がる喉仏があった。がぶりと喉仏を噛んだ。石化がある程度解け、歯が深く食い込んだ。


こうなれば、喉仏が引きちぎられない限り、私は混血ジャガーの口の中に隠れていられるだろう。どうだ、混血ジャガーよ!ついに石化が解けた。そして当然ながら、喉仏を噛まれた魔物が始めたのは嘔吐だった。


「ゲッ!ゲゲッ!グエエッ!」


私も喉仏に何かがぶら下がっていたら、死ぬほど嘔吐するだろう。しかし、私は小さな蛇と呼ばれるほど小さな存在だ。もし私が普通の動物だったら、締め付ける喉の筋肉に潰されるか、「ケッ!」と弾き出されるかのどちらかだろう。だが、噛まずに肉を丸呑みする広い喉は、私を吐き出すことができなかった。


私はしっかりと奴の喉にしがみついていた。これは無麻酔の胃カメラだと思ってくれ、ジャガーよ。やめろ!嘔吐をやめろ!


「グエエッ!」


うわっ!奴は腹の中のものを吐き出した。火に焼かれた痛む肌を、混血ジャガーの吐瀉物が流れ落ちた。臭くて痛かった。もう少しで痛み耐性が上がっていたかもしれない。とにかく、私はしっかりとしがみついていた。ようやく混血ジャガーも、自分が火の海の中にいることに気づいた。魔物も人間も、火を恐れるのは同じだった。奴の隣で一緒に石化が解けたガイガー・ホッグが、轟々と鳴りながら走り出した。


「グエエッ!」


「グルァン!」


二匹の魔物が猛烈に走る。本能的に火を避け、外に逃げようとする兵士たちがいる方向へ向かって。彼らの速さは圧倒的だった。まるで走る戦車に乗っているかのような、最高の乗り心地だった。二匹の魔物は、足元で蠢く小蛇たちを少しも気にせず、踏みつぶしながら走っていた。混血ジャガーが苦しそうに口を開けながら走っていたので、私はその光景をすべて見ていた。


さすがに私の仲間たちは負けていなかった。通り過ぎるガイガー・ホッグやジャガーの脚に本能的に噛みついたのだ。二匹の魔物は仲間たちを振り落とすこともできず、そのまま走り続けた。数十匹が魔物の体にしがみつき、一緒に抜け出していった。ただし、仲間たちと私の乗り心地には、ファーストクラスとエコノミーの差があった。


火に焼かれ、走る勢いで歯が折れて弾き飛ばされる者も多数いた。みんな、元気でね。ついに混血ジャガーは洞窟の入口までたどり着いた。そしてそこに待ち構えていた兵士たちは驚愕した。


「うわあああっ!」

「あ、あれは何だ!」


ここでは這い出してくる蛇を慌てて捕まえようとしていたのだろう。

ガンビソンを含む武装も、ただ蛇を捕まえる程度のものだった。中には、槍の代わりに地面を這う蛇を捕まえるためにスコップや鍬を持っている者もいた。ところが、突然家ほどの大きさの魔物が二体も飛び出してきたのだから、どれほど驚いただろうか。


「怪物だああ!」


兵士たちは少し度胸が小さいようだ。そう叫んだ兵士の後頭部を、警備隊長がバシッと叩いた。


「この野郎、よく見ろ。あれはただの魔物だ。」


「え、蛇が……ああ。」


魔物も怪物も大差ないように思えるが、兵士たちの反応を見て、私は状況を察した。混血ジャガーは全身に火がついた状態で、数十匹の蛇を引き連れていた。その姿が驚愕を誘うのも無理はなかった。できれば、口の中にいる私も「やっほー」と顔を出してやりたいところだが、もちろんそんなことをすれば怒った混血ジャガーにガブリと噛まれるだろう。そういえば、混血ジャガーの口から出るタイミングも問題だ。


「お世話になりました!」なんて挨拶して出るわけにもいかないし。

とにかく。


「隊列を維持せよおお!」


ここでは混血ジャガーの奮闘を願うしかない。


「槍を構えろ!」


そして、私の宿敵である警備隊長は最後まで任務を全うした。彼の号令に兵士たちはすぐに槍を構えた。槍を持った兵士が何人もいれば、大抵の猛獣も打ち倒すことができる。魔物相手でも同じだ。


「グエエッ!」


勇敢なガイガー・ホッグがまず兵士たちの間へ突進していった。軍事境界線付近に住む超巨大なイノシシよりも大きなイノシシが槍に貫かれた。


ドシャッ!


運の悪い兵士二人がまるで車に轢かれたかのように吹き飛ばされたが、ガイガー・ホッグの体にも五本の槍が突き刺さった。いくら頑丈な魔物でも抗えない。奴はそれ以上進めず、頭を地面に突っ込んだ。


「気を抜くな!もう一体来るぞ!」


警備隊長の号令と共に混血ジャガーが走り出した。私にできることは、奴の喉仏をしっかり掴んでいることだけだ。少し不安になってきた。兵士たちの包囲網は思ったよりも隙間がない。


「グルァアッ!」


猛獣の咆哮を喉の中から聞くのは、驚くべき体験だった。私の頭蓋骨にある内耳が振動し、全身がしびれるようだった。そして、体がふわりと浮いた。無重力状態だ。混血ジャガーは高く跳び上がったのだ。下には口を大きく開けた兵士たちが見えた。


混血ジャガーの脚力は彼らの想像を超えていた。一瞬、警備隊長と目が合ったような気もした。


ドンッ!


建物一つを軽く飛び越えるほどの跳躍で、着地は軽やかだった。混血ジャガーは尾に火がついたように走り出した。東の森へ。深く生い茂り、人間が追ってこれない太古の樹林へと。


出発か。そうなると、私はここでジャガーの湿って熱い口の匂いを嗅ぎながらどうするかを考えることにした。


***


シジャ樹林には多くの獣が住んでいる。その中には魔性が宿る魔物もいれば、普通の獣もいた。珍妙なことがよく起きるこの場所だが、今日はひときわ奇妙な出来事が起きていた。猿やウサギのような山の動物たちも好奇心を抑えきれず、それを見守っていた。


「クェン、クエエン!」


混血ジャガー。シジャ樹林にはいないが、あの大森林に入れば見られる危険な魔物。このシジャ樹林には混血ジャガーを脅かすようなものは何もなかった。その混血ジャガーが、今まさに大騒ぎしていたのだ。


「クエッ!ケッ!」


かなりの高さまで跳び上がり、どんな木でも軽々と飛び越えるほどだったし、地面でゴロゴロと転がりもした。


ドンッ!


そして木に頭をぶつけた。驚いた山鳥たちが飛び立ち、猿たちがキーキー鳴きながら逃げ出した。


「グルアァ!」


奴は荒々しく咆哮しながら前脚を振り回した。すると木がバキッと折れて倒れた。混血ジャガーはすでに血まみれだった。誰かに襲われたわけではなく、自分で暴れ回ったせいで爪が折れ、顔に傷ができたのだ。奴がいるのはシジャ樹林と大森林の境界である場所だった。


森に境界線があるわけではないが、危険な魔物が増え、シジャの木が少なくなる場所といえる。そこは、崖が囲む窪んだ盆地の前でもあった。ある瞬間だった。混血ジャガーは息が詰まるようにゲホゲホと咳き込んだ。


「ケッ、ケエン!」


激しく咳をし、やがてそれすらもできなくなった。奴の中にある何かがついに気道を塞いだのか。さすがは森を闊歩する猛獣らしく、混血ジャガーは死ぬ間際まで抵抗をやめなかった。奴は突然、激しく走り出すと、崖の上から身を投げた。狂ったジャガーが発作を起こし、ついに飛び降りパフォーマンスを披露したのだ。


見物していた山の獣たちもそっと混血ジャガーが飛び降りた場所を確認した。崖は十分に高かった。混血ジャガーはもう苦しむことはないだろう。


「うわあああっ!」


***


心の中で叫び声をあげた。焼け死ぬか、混血ジャガーに食われて死ぬか。どちらが嫌かと言われれば、今は後者だ。


死ね!死ね!


心の中でそう叫んだ。当然ながら、あいつも同じ気持ちだろう。炎と兵士たちを突破して抜け出したのは良かったが、この混血ジャガーの口から無事に出るのは到底不可能だった。


私にできるのは必死に奴の喉仏を噛みしめることだけだった。喉仏を離してしまえば、私に待ち受ける運命はただ二つ。じっくりと噛み砕かれて食べられるか、噛まずに生で飲み込まれるか。


[痛み耐性V20が痛み耐性IV3になりました。]

[息止めLV2が息止めLV3になりました。]

[噛みつきLV2が噛みつきLV3になりました。]


全力で耐え抜いたおかげで、スキルの熟練度はものすごい速さで上がった。これは、どちらが先に疲れるかの戦いだ。精神力にステータス20を全振りしたのは、本当に素晴らしい選択だった。


私は根性で耐え抜いた。選んだ蛇の人生……というわけではないが、とにかくそうだ。しかし、頭を振りながら咳き込む奴の発作に耐えるのも限界があった。ついに、私の意識もぼんやりし、顎の力が抜けた瞬間だった。奴が大きく息を吸い込み、小さな私がその気道へとスッと吸い込まれた。


「ケエン!」


勝機が完全に私に傾いた瞬間だった。もはや奴は私を害することはできなかった。そして、私は奴の最も脆弱な部分、肺に潜入した。私はモツ煮込みを食べるときに、おばちゃんに肺をたくさんくれと頼むような奴だ。噛みつきを連発した。熱い血が私の周りに溜まり始めた。


うわあああ!


[噛みつきの熟練度が急激に上昇します。]


ついに、肺に穴が開いてしまった。そのときだった。体がふわりと浮き上がった。


あれ、この感覚。サメが尻を噛みつくようなヒヤリとする感覚。ロッテワールドのジャイロドロップに乗ったときのあの感じだ。落下感だ。この狂ったジャガーがどこかから身を投げたのだ。敵を抱きかかえたまま崖に身を投じる忠義の精神か?かなり高い場所だったのか、落下はかなり長かった。どれほど頑丈な魔物でも死を免れないほどに。しかし、私は三枚肉一人前にも満たないほど軽く、ここは柔らかい腹の中だ。


ドシン!


それでも、流れ星が見えるほどの強烈な衝撃だったが。私は生き残った。もちろん、ジャガーは生き残れなかったようだ。


[レベルが上がりました。]

[レベルが上がりました。]

[レベルが上がりました。]

[レベルが上がりました。]

[レベルが上がりました。]

[レベルが上がりました。]

[レベルが上がりました。]


まさにレベルアップの饗宴だった。

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