第2話 地獄のようだった家庭内暴力
ステータスを配分した直後の瞬間。視界が白い光で満たされた。何も見えず、何も聞こえない時間がしばらく続いた。そんな中、声が聞こえてきた。
[精神力が20です。特典として固有特性『不屈』を獲得します。]
[潜在力が20です。特典として固有特性『精進』を獲得します。]
心の中で歓声を上げた。聞くだけでも普通ではない話ではないか。ステータスを配分しろと言われたときから感じていたが、どうやらステータス画面が存在する世界に転生したのではないか。『不屈』や『精進』という特性がどんな効果を持っているのかは分からなかった。しかし、固有特性云々と言うのを見ると、きっと特別なものに違いない。
これからどうなるのだろうか。ウェブ小説で読んだように、赤ん坊として生まれるのだろうか。理性と記憶を保持したまま、幼い頃から天才と称されながら成長するのかもしれない。
そんな悩みや想像の時間がどれくらい続いただろうか。ある瞬間、体が形成され始めた。母の胎内なのだろうか。暖かい感覚。時間が流れ、ついに誕生の時が訪れた。痛みと共に、まだ成熟していない目に光が差し込んできた。私はこの世に放り出された。生まれたのだ。
準備していた通り、元気に「おぎゃあ!」と叫ぼうとした瞬間だった。
「シャアーッ!」
口からはそんな声しか出なかった。ゆっくりと前が見えた。最初に見たのは、母の温かな微笑みではなかった。いや、確かに女性の顔ではあるが、人間ではない。あんなに巨大な胴体や滑らかな鱗を持った人間はいないだろう。
周囲には数千個の卵があった。次々と、子供たちが卵から誕生している。粘液と共に小さな蛇たちが卵から流れ出ている。
体が震えた。まさか『出身成分』というのが単に身分や階級を意味していたわけではなかったのか。種族も含まれているのか。
10が平均的な人間なら、1は蛇で20はドラゴンなのか?そういうことなのか。
暗い洞窟の中、無数の子供たちとその怪物のような母がいた。私は母を見上げた。あの怪物が私たちの母親だって?
【メドゥーサ・サーペント lv89】
じっと見つめていると、蛇の頭の上にそのような名前が浮かび上がった。母は静かに子供たちが孵化するのを見守っていた。ほとんどの個体が卵を破って出てきた瞬間だった。
母の唇から紫色の舌がぺろりと出た。
シリリリリッ―
風が狭い場所を通り抜けるような音が響いた。その音を聞いた瞬間、全身が固まった。猛獣の前に立つと膝がすくむと言うが、まさにそんな感じだった。蛇になってしまったので膝のような部位はなかったけれど……。
案の定、虫のように蠢いていたすべての兄弟たちも一斉に動きを止めた。恐怖に震え、胎便をまき散らす者もいた。そして自分も精神が崩壊しそうなほどの恐怖に襲われて……。
[サーペントの恐怖にさらされました。特性『不屈』によって保護されます。]
お漏らしはしなかった。尿が出るほど怖くて、体ががたがた震えたが、どうにか狂うほどではなかった。普通の市民だった自分が蛇として転生し、あの怪物のような母の子供になったとは。本当に狂ってしまいそうなほど恐ろしい状況ではないか。けれども、なんだか冷静でもあった。
『精神力20の力か。』それ以外に説明のしようがなかった。やはり良い選択だった。いや、最初から出身成分を5程度に抑えておくのが本当に良い選択だったのだろうけど。
チッ、チッ!
その時、母が妙な音を立てた。母と呼ぶのもなんだか変だし、かといってママと呼ぶのも死んでも嫌だったので「メデューサマム」と呼ぶことにした瞬間だった。他の兄弟たちが一斉にメデューサマムの方へ這い寄り始めた。少し前まで恐怖に震えていたのが嘘のようだ。小さな蛇たちはその巨大な体を登り、メデューサマムの頭皮に居場所を見つけた。どういうわけか体が頭皮にぴったりと固定された。自分もためらいながら後を追った。ここでじっとしていては危ない気がした。そしてその選択は正しかった。
メデューサマムの頭皮には気味が悪いほどびっしりと溝が掘られていた。そこに尾を差し込むと、体がしっかりと固定された。
つまり、数千匹の兄弟姉妹が母の生きたカツラの役割を果たすことになったのだ。生きているように波打つ、いや実際に生きている髪の毛だ。
シャンプーの広告に負けないほど華やかに揺れる髪。母は満足そうに頭を持ち上げ、まだ固まって動けないでいる子供たちを見回した。恐怖で命令を聞けない子供たち。母は彼らに愛のむちを振るった。つまり、尾を振り回したということだ。
ババババッ!
巨大な尾が通り過ぎた後に残ったのは、血と肉片だけだった。数百匹の兄弟姉妹が一瞬で血まみれになってしまった。メデューサマムは、子供の教育に非常に厳しいようだ。そんな母の下に生まれた私の運命は、すべて出身成分1のおかげだろう。今の自分が正気なのか、それとも異常な状態なのかはわからなかった。私はそのまま母の頭にくっついて揺れていた。
たぶん、そうして生まれてから一週間も経っていなかったと思う。グンターと呼ばれていた鎧の男が、母、いやメデューサマムの首をバサッと切り落とすなんて。怪物のような母が死んでしまった。ステータス配分のときに心配した通り、親を早くに失った天涯孤独の孤児になってしまった。これもまた出身成分1のおかげなのだろうか。
***
ふう、本当に尻尾がちぎれるほど這いずった。体にはメデューサマムの血がべっとりとついていた。どうやって逃げたのか、意識も朦朧としていた。洞窟の中に入った私は、振り返って後ろを見た。あの怪物のような騎士は姿を消していたが、村の村人たちはまだ入口を見張っている。
「火をいくつか焚け! 逃げ出す奴がいるかもしれないからな!」
「俺は城に報告に行くぞ。」
ついさっきまで震えていた村人たちは、少し楽しそうにも見えた。彼らはここで生まれて初めて出会った人間たちだった。なぜか彼らの話している言葉が理解できた。できることなら、私も向こうに行って話しかけたい。
「実は私は蛇じゃなくて人間なんだ……ここでちょっと助けてくれ」とでも頼みたいところだが、もちろん、私が出せる声は「シャー!」とか「シリシリ」くらいなので不可能だ。
「全部掃討してしまえ。」
「今のうちに全員殺してしまわないと、成長したら危険になるかもしれない。」
どうやらあの村人たちは、私と兄弟姉妹たちを殺そうとしているのは間違いなさそうだ。私の知る限り、洞窟の中には逃げ道はないはずだ……まずいな。そうだ、とにかく今のところ一人でどうにか逃げることはできなさそうだ。まずは自分の置かれた状況をもう少し客観的に把握しなければならない。私は岩陰に身を隠し、目を閉じた。
目をぎゅっと閉じて精神を集中すると、面白いものが見える。
【リトルホワイトスネーク Lv1】
そうだ! 私はメデューササーペント Lv1ではなかった。母とは種族からして違っていたのだ。なんとなくそんな気はしていた。兄弟姉妹たちを見ても、人間の顔を持った者は一匹もいなかった。目から光線を発して獲物を石に変える能力もなかった。
推測するに、いつかレベルというものが上がれば進化できるかもしれない。あるいは、蛇は脱皮する生物だから、そういう形で何かが変わるのかもしれない。
わかるのは、自分の種族だけではなかった。
[特性]
[不屈], [精進]
[スキル]
[毒牙 Lv1], [高速這い Lv1(new!)]
これが私の持っているリソースだ。特性「不屈」は精神力に関係しているようだが、「精進」の方はよくわからなかった。実際に活用できるのは、高速這いや毒牙といったスキルだ。スキルにはなかったが、洞窟で生まれたおかげか、暗闇の中でも洞窟内がはっきり見えた。そうでなければ、とっくに死んでいただろう。
毒牙があるということは、どうやら私は毒蛇らしい。だが、正直どの程度活用できるか、どれほど強力な毒なのかはわからなかった。生き延びるにはまだあまり役立ちそうにない。
今回得たのは「高速這い」というスキルだった。先ほど必死で這い回った時に獲得したものだ。名前は地味だったが、重要そうに見えた。
「高速這い!」と心の中で叫んでもスキルは発動しなかった。
「こうやって使うのかな……?」
そこで、私は全力を込めて這い進んでみた。スルスルと体が動き、少しだけ速くなった気がしたが、正直あまり速くなってはいなかった。
メデューサマムは洞窟で休む時、子供たちを解放していた。その時も必死に這い回っていたが、このようなスキルを得たことは一度もなかった。それなら、なぜ今回はスキルを得たのだろうか。必死に速く這ったからではないだろうか。
思い当たるのはそれだけだった。そこで、もう一度心血を注いで這ってみた。
スルスル、スルスル。
スルスル、スルスル、スルスル。
冷血動物なので汗はかかないが、必死に這った。
すると、変化が起きた。
[驚異的な潜在力により、スキルの熟練度が急速に上昇します。]
[高速這い Lv1が高速這い Lv2にレベルアップしました。]
高速這いがLv2に上がった。すると少しだけ速くなったのが実感できた。それでも、人が走る速度よりは遥かに遅い。
それでも、このように一生懸命修行してLv10まで上げれば、どうにか生き延びられるのではないか。
…いや、無理だった。
全力で這い進んだせいで、全身がくたくたになった。生後一週間なら、歩き始めるどころか、喃語を話すだけでもすごいのではないか。潜在力20、万歳だ。
【状態】空腹、疲労困憊
くそっ、腹が減った。メデューサマムは、自分で捕まえた獲物を口から吐き出して子供たちに食べさせていた。半ば消化された獲物はとても気持ち悪かったが、私は強靭な精神力でそのぐちゃぐちゃの肉を毎日一生懸命食べた。毎日体が成長していく時期だったのだ。だが、今は丸一日も食べていないので、どうしてもエネルギーが足りなかった。一生懸命待っていると、空腹がさらに強くなってきた。
まずは洞窟の奥、兄弟たちがいる場所に行くことにしよう。数千匹の蛇たちと一緒に動けば、何とか生き延びる確率が高まるはずだ。前世では一人っ子だったが、今は頼もしい兄弟姉妹がたくさんいるのだ。
そんな私の安易な期待はすぐに砕け散った。
暗い洞窟の奥では、兄弟たちが互いに絡み合っていた。困難な状況を乗り越えるために激しく抱き合っているわけではなかった。驚いたことに、奴らは互いに噛み合っていたのだ。統制するメデューサマムがいなくなると、本能のままに行動していたのだ。
この哀れな奴らめ!蛇は本来、獲物を一口で飲み込み、消化する。
だが、私を含む兄弟姉妹たちの歯は、まるでサメのようにぎっしりと鋭かった。獲物を引き裂くために進化しているようだ。その歯で互いに肉を食いちぎっている。
計画変更だ。とりあえずあいつらが腹を満たすまで待つのがよさそうだ。体を反転させて岩の隙間に隠れようとした瞬間だった。
「シャーッ」
自分より大きな蛇が目の前に立ちはだかり、舌をペロリと出した。
あの、兄貴、ちょっとどいてくれないかな。私も舌をペロリと出してみたが、奴はどくつもりはなさそうだった。
私は目に力を込めて、その凶暴な兄を観察した。
【リトルグリーンスネーク Lv3】
考えてみれば、自分一匹だけが白い体だから目立つのは仕方ないか。
兄のレベルは自分よりも2つも高かった。いつの間にか母の目を盗んで虫やコウモリでも食べていたのだろうか。いや、口の周りについた血を見ると、さっき他の弟を食べたばかりのようだった。
家庭内暴力の特性とスキルを見てみると、
[特性]
[凶暴性]
[スキル]
[毒牙 Lv2], [高速這い Lv2], [噛みつき Lv1]
私よりスキルが上だな。兄も潜在力20持ちなのか?
返事の代わりに、兄は「シャーッ!」と叫び、私に向かって飛びかかってきた。
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