第5話

 バーレブ線の拠点・オルカルへの近接航空支援がイスラエルの所望する作戦行動だった。僕らの機体は御剣スーパーセイバーセイバーを発展させた米国製の、世界初の超音速戦闘機。とは言えもう旧式も良いところだ。イスラエルの第一〇七航空隊はF4に乗っている。僕達の政府は複座機の採用を頑なに拒む。人員が不足しているからだ。西側政府の主力戦闘機は虎鮫タイガーシャークで、百里にある。僕らの機体は旧式で、使い減りすることを考えなくて良い機体だ。本来であれば戦力と考えることすらおこがましい。しかし、これが岩本朱三の乗る機体であるならば、話は別だった。

「ぶつかるぐらいの低空で」

 と彼女は言った。――バーレブ線は戦場を通り越した地獄の様相を呈している。破壊された戦車、相互の兵士の死体、死体、死体、死体。黒焦げ、生焼け――バリエーション豊か。僕らはその死体の数々の、顔の作りまで分かってしまいそうなほどの低空を飛んだ。

「無茶苦茶だ」

 地面や、そこにある物が高速で迫ってくる。こんな飛び方を僕は防衛学校では教わらなかった。僕の機体は僕の戸惑いを反映するかのように揺らぐ。けれども、彼女の――岩本朱三の機体は揺らがない。P&W J57ジェットエンジンの発する轟音が全ての音をかき消していく中で、僕の心は徐々に平穏をその手に収めつつあった。

 僕達の機体は、当初要求された地点へ爆弾を投下した。その爆弾は炸裂して、幾人とも知れぬアラブ人を吹き飛ばした。

 しかし、僕らが帰還する途上。僕らが行動を終えてほんの数十分としないうちに、拠点・オルカルは陥落した。

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