死ねない男と家出少女

鉄道王

第1話 プロローグ

 昔々今から何十年も昔。戦争が終わって数年ほどしかたっていなかった頃。一人の青年が妹と二人きりで暮らしていました。戦場で地獄を見た彼が故郷に戻った時、生まれ育った家は跡形もなく。両親は空襲で亡くなっていました。


 絶望に打ちひしがれる青年を救ったのは空襲を生き延びていた妹でした。苦しい生活の中でも必死に兄を励ます妹の姿に青年は励まされどんなことをしてでも生き抜くと決めたのです。


 妹は可憐で美しく、人を引き付ける魅力を持っていました。バラックが立ち並ぶ街で彼女はみんなに愛される存在でした。


しかし、幸せの終わりは突然やってきました……思いもしなかった残酷な終わり方で……。



 


その事件は戦後の混乱期だったこともあり、新聞でもべタ記事程度にしかならず、今では図書館の書庫に眠る分厚い縮刷版のなかに埋もれています。


 ある雨の日、傷だらけ、血だらけで青年が帰宅すると、妹はこの世の人ではありませんでした。青年は泣きました。同時に今まで血走っていた目から生気が消え去っていきました。彼は家に灯油を撒いて火をつけるとその場から走り出しました。

 青年は体中傷だらけ、服もボロボロ。雨に打たれ、体は限界に達しようとしていました。

 青年がたどり着いたのは妹が毎朝参拝していた神社でした。走れなくなった彼は境内で倒れこみ目を閉じました。もう自分は死ぬんだ。そう思って深い眠りに着こうとしていた時、頭上が明るくなっていました。


「お前は人として絶対にしてはならないことをしてしまったな。だがお前の妹から兄を救ってあげてほしいと頼まれてもいる……だからお前は死なぬ。その代わり終わらぬ罰を与えることとしよう」


明るい光は老人のような声でそう話しました。青年は行き絶え絶えの中、次第に意識を失っていったのです。




 二日後の新聞には市内で起きた殺人事件について記事が掲載されていました。市議会議員の家で息子と取り巻きがめった刺しにされて殺害されたこと。

 容疑者の青年は自宅に火を放って行方不明になったことが……



 しかし犯人とされた青年は一向にみつからず捜査は一向に進展しなかったのです。いつしか警察も事件の存在自体を忘れていき、ひっそりと時効を迎えました。でも青年は生きていました。全国各地を転々としながら……。



 あれから50年以上。元号も変わってすっかり変わった世の中で、彼はどう生きていたのでしょうか?





 









 






 









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