第7話 一歩後退

サンタンデール戦が終わり、マスコミの注目を浴びて気分が良かったのも束の間だった。試合の翌日、回復トレーニング中に左足首の下に針で刺されたような痛みが走った。回復トレーニングなので無理せず、コーチに事情を説明すると、すぐにチームドクターが駆けつけてきた。足首をチェックするチームドクターの表情は険しかった。


トレーニング場の医療スタッフに連れられて、グラン・カナリア大学病院に車で向かった。車で通り過ぎることはあっても、実際に入って診療を受けるのは初めてだ。病院内でMRI撮影の結果を待つ。入団前にも足首に骨片が見つかり問題になったことがあったので、不安だった。


連絡を受けて到着した父は、固い表情で診察室で医師と会話を交わしている。詳しい話は聞こえなかったが、「operación」というスペイン語だけは確かに聞こえた。手術をすることになれば、最低でも2か月の欠場だ。手術を受けた選手がそれより早く戻ってきた例はない。物理的に不可能だった。


突然手術なんて、他の方法はないのだろうか。父は暗い表情で診察室から出てきた。心がドスンと落ち込んだ。


「日向、やはり手術を受けるのが良さそうだ。医者と話をしたが、骨片が衝撃でさらに砕けて持続的な痛みを引き起こしているらしい。傷口から膿が出て感染する可能性があるから、できるだけ早く手術をしようと言われた。」


「絶対にしなければならないのですか?」


「今は残念だろうが、そうだ。医者も驚いていたよ。これまでどうやって運動していたのかと。」


ラス・パルマスの最年少得点記録も、チーム内最多得点も、試合に出られなければ意味がない。手術に2か月、試合感を取り戻すのにさらに2か月。今年中に再び1軍に戻るのは不可能だ。平気なふりをしたいが、腹が立つ。うまくいっていたのに。順調だったのに。


みぞおちの辺りが誰かに火をつけられたように煮えくり返る。こうなると分かっていたら、サンタンデールのミッドフィールダーの足首を踏みつけてやればよかった。こんな形で終わるのは悔しかった。


フアン・ナランホコーチがチームドクターのボラーノスと話をした後、私のところに来た。


「ヒュウガ、残念だ。」


「……。」


「3か月以内に復帰することを目標にしよう。君は今や1軍の一員であり、これからも多くのチャンスを得るだろう。」


「こんな形で終わりたくなかった。」


「そうだな。ペペコーチも私も同じ気持ちだ。しかし、これで君のサッカーキャリアが終わるわけではない。見ていよう。」


絶望する間もなく、手術は2日後に行われた。10月4日。骨片を取り除き、問題の部分を削り取ってから2か月が経った。リハビリトレーニングは順調だった。医師の指示通りに徹底的にリハビリに専念したが、このリハビリがどれだけ深い忍耐力を要求するか、やってみない人には絶対に分からないだろう。


「あと1セットだけ繰り返そう。」


「…Si。」


足首の力を使ってゴムバンドを引っ張って離す練習を終えた後、携帯電話でラス・パルマスの近況を調べる。普段は忙しくないのか、時々病室に見舞いに来る選手たちからチームの近況を聞くことはあったが、ちゃんと調べるのは今日が初めてだった。


テネリフェ遠征 0-0 引き分け。

アルメリアにホームで 0-3 敗北。

ヒホン戦、ホームで 1-0 勝利など。


昨日、ポンフェラディーナに2-0で勝利したことは、遠征に弱いラス・パルマスにとって大きな成果だった。最前線のフォワードであるカストロとペカルトが怪我から復帰したことが、チームの上昇気流を維持する原動力になったようだった。私が離脱してから3勝1引き分け2敗。悪くない成績だった。


勝ち点19点で1位のカディスと同点の状況。


チームが急に流れを失い、崩れ落ちることはなさそうだ。


正直な気持ちでは、私がいない間にチームが適度に崩れてほしいと願ったこともある。


自分勝手だと非難されても仕方ないが、コーチたちが私が勝利をもたらした瞬間を覚えていてほしいという欲があるのも事実だった。


リハビリトレーニングが終わり、軽い運動を始めても良いという医師の通知を受けて病院を出る。


家に帰ると夕食を準備している父の隣に、キッチンの壁にスクラップされたサッカー記事が貼ってある。


「さわやかなスタート」


「カナリアの新しい王子」


「昇格への偉大な一歩」


怪我に関する記事もあったはずだが、父は私が華々しかった三試合の姿だけを集めて壁を飾っていた。


心のどこかで不安を感じる。


「キャベツを先に食べて。ソースはここにある。」


「はい。ありがとうございます。」


強い海風がベランダのドアを叩き、衛星テレビから聞こえる日本のアナウンサーの声をかき乱す。


カナリア諸島に来てから、現地の言葉を学ばなければならないと言って毎回地域ニュースチャンネルだけを見ていた父だったが、病院に入院している間に衛星テレビを新しく取り付けた。


「足はどう?」


「痛みは全くないので、明日からウォーキングを続けるように言われました。」


「じゃあ思ったより早く復帰できるかもね。」


「これから1か月もかからないかもしれないと言っていましたが、様子を見ないとわかりません。」


「キャベツをソースにつけて食べてみて。バリさんが教えてくれたモホソース。外食のときに何度か食べたことあるでしょ?一度比べてみて。」


テレビの音をかき消して、トントンと窓を叩く音がだんだん大きくなる。


久しぶりに雨が降ってきた。


「久しぶりの雨だね。」


「そうですね。」


父は窓を開けようとしたが、海風に吹き込まれた雨粒に打たれ、窓の掛け金を閉めた。


正直少しおかしかった。


照れくさそうに笑いながら父は再び食卓に戻り、食事を続けた。


「ここは島だからか、風がとても強いね。」


「はい、日本とは違いますね。」


「いや、日本も島は風が強いよ。」


洗い物が終わり、明日学校に持っていく準備物を確認する。


部屋に入って黄色い蛍光灯の明かりの中で課題とノートをまとめた。


何か忘れ物はないかと、孤立した部屋の中で机に座っていると、雨粒が落ちる音が一定のリズムで窓の隙間から入ってくる。


突然涙が目に浮かんだ。


ゆっくりと静かに押し寄せる、タックルをした選手への怒りと、自分への哀れみの間にあるどこかの感情だった。


一人になった瞬間にようやく、悔しさと不安な気持ちが内面の深いところから顔を覗かせる。


広大な海でエンジンが壊れた、作りかけのボートのような気分だ。


雨音が泣き声を隠してくれたので助かった。


今までうまくやってきたのに。


リハビリがうまく進んでいるか毎日電話で確認するコーチと、病院でサインを求めるラス・パルマスのファンたちまで。


期待されるのが怖いという事実を受け入れなければならない。


***


10月25日。グラン・カナリア大学病院のリハビリセンター。


「もう一度左にぐっと引っ張るね。どう?」


「大丈夫。」


「痛みの程度を数字で表してみて。1が一番弱くて、10が一番強い。」


「痛みは全くない。」


「いいね。手術部位も筋肉と皮膚がしっかりと埋まっている。むしろ手術前よりも良くなっているだろう。」


再び訪れた病院で、医師はチームドクターのボラーノスに伝えておいたと言い、公式にチームトレーニングへの復帰を宣言した。


2ヶ月と3週間ぶりに、私は再び芝生のグラウンドに戻ることができるようになった。


ラス・パルマスは過去3週間で2勝1敗の成績を収めた。2試合連続で勝利したのは良かったが、1位争いをしていたカディスに2-0で敗れて2位に落ちた状態だ。


2軍で良いパフォーマンスを見せて再びプロの舞台に姿を現すことを、まずは私の第一の目標とした。チームが良い成績を収めている分、1軍に昇格する道はより険しくなるだろう。明日から再びスタートだ。


「ディオス・ミオ……。」


「何か食べたのか?」


「そんなことない。」


2軍のセンターバックであるポルテ・ヘススが真剣な表情で何を食べたのかと聞いてくる。ひどい奴だ。薬でもやってきたとでも思っているのか。もちろん少しは不思議だった。


怪我から復帰したばかりなのに、サッカーがとても上手くいっていた。前後半40分の練習試合で15分も経たないうちに、すでに3ゴールを決めた。左足首は医師の言う通り全く痛みがなく、以前よりもスムーズに動いた。


単に足首が治っただけではない。ディフェンダーとの競り合いで体のバランスを保つのが一段と楽になり、ボールタッチから短距離での瞬間速度まで、全てが上手くいった。身体測定で筋肉量は微減していたが、むしろ体は羽のように軽かった。不安感はどこにもなく、フィールドが大きく見える。


1軍でプレーした経験と比べると、2軍の練習試合は簡単すぎて物足りなかった。ビブスを着ていない相手チームのディフェンスラインは、まともに位置を取れず右往左往していた。


斜めに飛んでくる空中ボールを左足でトラップし、足元に落とす。特別な練習をしたわけでもないのに、左足を右足のように使うことができた。もしかしたら右足よりも少し良いかもしれない。


左足が自由になると、試合中に選択できるオプションも多様化する。以前の私の姿を覚えている選手たちは、少ない時で一度、多くて三度のタッチで私についてこれず、私を見失った。


トニ・セグラが私の動きを警戒しながら慎重にディフェンスしようと努力していたが、肩を使った上半身のフェイントに体のバランスを崩してスペースを空けてしまった。


前にはセンターバックが2人並んでいたが、プレッシャーは浅く感じた。ためらわずに左ゴールポストを狙ってシュートを放つ。ゴールキーパーのドミンゲス・アレヤンドロは遅れて体を飛ばしたが、すでに遅かった。


タイミングを狂わせる左足のシュートに適切に反応できず、ゴールを許してしまった。いつの間にか4ゴール目だった。

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