第4話 ダニ カスティリャーノ (1)
「インターネットにゴールを決めた映像がアップされてたよ。」
「そう?」
「コメントを読んでみなよ。面白いよ。」
マラガとのラ・リーガ第2節が終わった週末、お父さんは雲の上を浮かぶ翼のある妖精を捕まえたフック船長のように浮かれている。
お父さんの自慢話に気分が良くなると同時に、まだ思春期が終わっていないのか、なぜコメントまで見たのかと思ってしまう。悪い言葉もたくさんあるだろうに。
「果物も食べなさい。これ、隣の奥さんがくれたんだよ。」
「隣の奥さん?」
「お前がゴールを決めたのを見て、お祝いだってくれたんだよ。」
確かに赤い髪をしたショートカットの奥さんだった。未来のサッカースターに果物で好意を示すのも悪くない選択だ。
いや、違う。自慢してはいけない。マラガとの試合でゴールを決めたからと言って、すぐに一軍のレギュラーになれるわけではない。
カストロと同じ目線で競争するためにはまだ道のりは長い。
「今日は何をするの?」
「トレーニング。クラブからリカバリートレーニング用のマニュアルをもらいました。」
「そんなものもあるのか?」
「ゴールを決めたからくれたんです。」
来年にはグラン・カナリアに科学的なトレーニングセンターができると言って不満を漏らしていたフィジカルコーチのフアン・ナランホが、試合が終わって帰る飛行機の中でマニュアルを渡し、書かれたスケジュール通りに体を動かすよう念を押してきた。
「そうか…お父さんは家にいるから、時間があったら話そう。休むときは楽しく過ごさないとね。」
「はい。」
お父さんは個人トレーニングがあると言われて一歩引いた。
一軍に上がる前は日曜日に試合がないとテネリフェ島に遊びに行っていたけど、今は勢いに乗っているのでトレーニングに励みたい気持ちが強かった。
今年は大変でも、来年にはペペ監督の先発選手の選択肢でカストロと自分を同じ天秤にかけて悩ませたい。
その頃にはペドリもバルセロナに戻るだろうし、難しいならポジションを変えてペドリがプレーしていた場所を奪ってもいいだろう。
運動服を着て軽いジョギングのために家を出る。
原色で彩られた特有の建物様式は毎回見るたびに新鮮だ。ある家は全て赤いペンキで塗られていて、ある家はまるでレゴブロックを積み上げたように見える。
今通っている7 Palmasだけでも巨大なベージュ色のレゴブロックのように見える。
独特な形の住宅やアパートを通り、狭い路地を抜けると港に停泊しているヨットの群れが見えてくる。
もし島で溶岩が噴き出しても大きな被害なく避難できるんじゃないかと思うほどびっしりだ。こんな辺鄙なところまでヨットを乗りに来る観光客がこんなに多いのは驚きではないか?
生っ唐突な考えを終えて、カタリナ病院横の公園でリカバリートレーニングを始める。ジョギングを始める時間だった。
週末が終わり、平日が始まったが、学校とトレーニング場を行き来する日常には変化がない。
近所の人たちはたまにサインをお願いしてきたが、既にこの地域で唯一の東洋人住民としての地位は確固たるものであり、彼らの視線は特別なものではなかった。
授業が終わり、混雑する学生食堂を避けてトレーニング場に向かった。
行く途中、人通りの少ない場所を見つけて弁当を食べるつもりだった。スタジアム横のマキシピザ店からトレーニング場に向かう途中、一台の車が近づき、窓を下げた。ダニ・カステリャーノだ。
「日本の少年!乗れ!」
「…いいよ。すぐそこだし。」
「後ろに車が来るけど?乗るまで待ってるから。」
くそったれ。トレーニング場に入る前に昼ご飯を食べなきゃいけないのに。俺の苛立った顔が表に出たのか、ダニはニヤニヤしながらからかって、トレーニング場に入る道も通り過ぎてしまった。
「そんな怖い顔しないで、王子様。怖いよ。」
「からかうのはやめて、早くトレーニング場に行け。」
「ゆっくり、余裕を持って。今日は学校で何を学んだの、王子様?」
ダニが三十歳を過ぎていることを考慮すれば、一度くらいは我慢できる。
年を取っているから嫉妬しているのかもしれない。短いけれども長い乗車が終わり、トレーニング場の駐車場でダニが歩いて行くのを見送った。
「どうした?」
「ご飯を食べてない。」
「何のご飯?昼ご飯?」
俺はダニに向かってバッグの中の弁当を指で叩いて音で答えた。
さあ、もう俺を一人にしてくれるか、という意思表示だ。ダニは理解できない変な顔をして、首を振りながらトレーニング場に歩いて行った。
駐車場横の芝生の場所を探す。
二軍でトレーニングしていた時もよく食べた木のそばの隠れた場所に座り、半分開けた弁当を無理やり口に押し込む。
不便ではなかったが、誰かに見られたらいい印象は与えないだろうから、できるだけ早く食べてトレーニング場に入ろうと思った。
ダニ・カステリャーノ。この名前をよく覚えておく。くそったれ。
弁当のビビンバを半分食べたところで、トレーニング場から見慣れた体格のフィジカルコーチとダニが駐車場に出てきて、周りを見回している。
逃げる間もなく目が合ったフアン・ナランホは広い肩と輝く頭で俺に向かって手招きした。
食べかけのご飯を急いで片付けてトレーニング場の建物に入る。
ダニ、この野郎は自分で呼び寄せておいて、何が気に入らないのか顔をしかめている。悪質なやつだ。おちゃらけてはいたが、人は悪くないと思っていたが、やっぱり人は見た目だけではわからない。
フアンのオフィスに入る前にダニはどこかに消え、私はコーチの処分を待って椅子に座る。
しかし、駐車場でご飯を食べたのがそんなに大きな間違いなのか?スペインでは一人でご飯を食べるのがタブーなのか?不当な気持ちが湧いてきた。
「ヒュウガ。まったく、駐車場で何でご飯を食べたんだ?」
「コーチ、それは……。」
「君はプロの選手だ。ラス・パルマスの1軍の選手なんだぞ。」
「ただ、お腹が空いてたんです。」
スペイン語をもう少し上手に話せればよかったのに。後悔が遅れてやってきた。私は混雑する学校の食堂でご飯を食べるのが嫌なだけだった。
混雑するって単語、スペイン語で何だったっけ。どう説明すればいいんだろう。
「つまり、人が多いのが嫌なんです。一人でいるのが好きなんです。」
「……。」
「一人でご飯を食べたかっただけで、他に何も考えていませんでした。」
「ヒュウガ、何か問題があれば正直に言ってくれ。」
コーチは真剣な表情で妙なことを言う。拙い会話力で誤解が生じたようだったが、問題は私がその誤解が何なのか理解できていないことだ。
「会話にミスがあるんです。理解が難しいです。」
「そうか、ゆっくり話そう。1軍に上がってから何か大変なことがあるのか?」
「いいえ、そんなことはありません。今はいい感じです。ゴールも決めて、試合にも出て、最高です。」
「試合に出ること以外で、トレーニング場ではどうだ?選手たちとは誰と仲がいい?」
ますます暗くなるコーチの表情がもどかしい。
突然、会話の主題が変になったように感じた。1軍に上がったばかりで、こんな質問をされるなんて。2軍でも1年間、仲の良い人は誰もいなかったのに。
ためらいながら答えられない私に、コーチはすべて理解しているという表情で話しかけてくる。なんてことだ。
「チームで誰かにいじめられているのか?誰でもいい、ペペコーチにも秘密にする。」
これが一体何の冗談だ?ダニ、このクレイジーな奴は一体何を言ったんだ?
「違います、そんなことはありません。」
「……そうか。」
「本当に違います。」
私は不当だし、呆れて半ば懇願するように言った。突然、自分が駐車場にしゃがみこんで半分食べたビビンバを食べている姿が、コーチから見たら哀れに見えたかもしれないと思った。
「私はただご飯を食べただけです!」
「そうか、落ち着いて。このことは誰にも言わないよ。でも、代わりに約束してくれ。」
「どんな約束ですか?」
「これからトレーニング前に昼ご飯は一緒に食べよう。OK?そうしないと君の両親に連絡するしかなくなる。君は未成年で、私はクラブのチーフコーチの一人として責任があるんだ。約束するか?」
「……分かりました。」
ダニ、絶対に許さない。必ず仕返ししてやる。
フアンコーチは小さくため息をつき、まず彼のオフィスでご飯を食べようと言った。デスクからエナジーバーを取り出し、私に渡しながら、私はバッグから弁当を取り出す。
フアンコーチの顔色はとても良くない。ご飯をコチュジャンで混ぜる前から見ていればこんな顔にはならなかっただろうが、今は私も何と言い訳していいかわからない。
そうだ、ちょっと犬の餌みたいに見えた。
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