第2話 第一のホームレス(1)

空のノートに韓国語を書きながら、イアンの体が激しく揺れた。


「イアン、イアン。おいおい」


「...聞こえる、聞こえてるよ」


顔も覚えていない小学校の時の友達が体を揺さぶりながら呼ぶと、イアンは疲れた表情を浮かべた。


影のある机から頭を上げると、自分を取り囲む壁のような子供たちが見えた。


人種差別やいじめならまだマシだったろう。


銃を携えて生きるホームレスたちの間で生き残る秘訣を惜しみなく教えるつもりだったから。


しかし...


「いつ我が家に遊びに来るの?もう母にも許可を得てるんだよ!」


「何言ってるんだ!イアンは俺とフットボールチームに入るんだって。昨日のイアンの活躍、知らないのか?」


「春は野球が一番だろ?イアン!一緒に野球しようよ!」


24時間では足りないほど自分を欲する声に耳から血が流れそうだが、解決方法がない。


「殺人で魅力的な香水を作る映画が思い出されるな」


結末は人々に食い尽くされるものだったか。


とにかく、この変化がなぜ起こったのかわからない。少なくとも自分の人生で子供用フェロモンを持っていた記構はない。


「もともとの顔だったら近づけもしなかっただろうに」


ハロウィンの変装よりも恐ろしい顔のせいで、縁もゆかりもなかった子供たちがどれほど厄介な存在か、この数日で痛感した。


イアンは断固として言った。


「当分どこにも行かないよ」


「なんで?お前、昨日めちゃくちゃ上手かっただろ」


チャンスさえあれば何でも学ぼうとするイアンにとって、ただの小学生フットボールチームで目立つことは大したことではないが。


「子供たち相手に勝っても何になるんだ」


スポーツ選手になることが目標ではない。


もちろん運動をしないわけではない。


他の親と同じように子供のスポーツに命をかけるのもイアンの両親も同じだったし、健康な体は長い俳優生活に不可欠だった。


高校生になれば、生体兵器のようなフットボールを今のように楽しむ機会もあと数年でなくなる。


ただ今は、もっと重要なことがあるだけだ。


「昨日無理したせいか、膝と足首が痛むから少し休むんだ。両親にももう話してある」


「嘘だ!昨日は上手く避けてたじゃないか!」


ははは、この気の利いた子供たちよ。


思わず尻を蹴り上げたくなるが、訴訟が怖くて我慢した。


「とにかく、話はこれで終わり!みんな帰れ。先生が来たよ」

イアンの言う通り、教室に入ってきた先生に軽く手を叩いて注意を促した。


「子供たち、授業を始めるから席に座って」


子供たちがそれぞれの席に戻ると、イアンは大きく息を吐いた。

ポジティブに考えよう。子供たちにいじめられて親が心配するよりはずっとマシだった。


先生の授業の声を片耳で聞き流しながら、イアンは続けてノートに何かを書きながらウキウキした表情をしていた。


「これら多くの作品がまだ公開されていないってこと?」


ノートにびっしりと書かれたタイトルを見て一瞬胸が高鳴った。


自分の手を見ながら残念な気持ちを感じた。


東洋人の子役が参加できる作品はほんの一握りだった。


イアンは白人中心のアメリカ社会で東洋人役が少ないことに残念に思いつつ、自分の肌の色を恨んではいなかった。


「計画をしっかり立てれば、私の肌の色も十分に強みにできるはずだ。」


日本と利益になる中国市場、そして強力なコンテンツ大国として成長している韓国まで、市場規模が小さい。


白人俳優が介入しにくい隙に進出する可能性があるだけでも希望的だ。

言語ができても以前のように台無しになる顔のせいで絶望せざるを得なかった。


もちろんこれは未来のことである。小学生の体で海外に進出する方法もなければ、そのつもりもなかった。


人生を変えた日ももうすぐだ。


-イアン!心配しないでここにいてね。わかった?お母さんとお父さんがちゃんと解決するから。


両親の最後の言葉と耳をつんざく銃声、そして家を覆った熱い炎。

火傷よりも深く残った記憶を思い出すと、突然吐き気と冷や汗が襲ってきた。


「イアン?イアン!大丈夫?」


いつの間にか近づいていた先生が体を揺さぶると、イアンは我に返った。


「え、ええ?大丈夫です。すみません、ちょっとぼんやりしてました。」


「大丈夫とは、何よりです。何か体調が悪いのなら、必ず教えてくださいね。」


心配していた先生が去った後、イアンは強く決意した。


「大丈夫。全て変えることができる。」


家族はもちろん、自分の夢も決して手放すつもりはなかった。どんな手段を使っても。


考えをまとめたイアンはペンで一人の名前を書いた。


-ベン・ロバーツ


ハリウッドを代表する中年俳優であり、自分に憧れを抱かせた最初のホームレス。


間もなく訪れるチャンスを有効に活用することから始めるのだった。


***


下校時間の午後3時になり、スクールバスに乗り込んだ。


安全ベルトのないスクールバスの中で自由奔放に動き回りながら話す子供たちが次々と消えていった後、イアンは席から立ち上がった。


ゆっくり走っていたスクールバスはある店の前に停まった。


汚れたガラス窓の向こうに並ぶ赤いレザーの椅子が見える店の扉が開いて、懐かしい顔が現れた。


「イアン、学校はどうだった?」


「はい!」


油のにおいがする母、クロエと軽く抱き合ったイアンは顔を上げた。

Pryce's Dinerという看板が見えた。


パンケーキ、ベーコンエッグ、ハンバーガー、フライなど、調理が早くて安い食事を扱う他のダイナーと変わらない場所。


何も特別ではないこの場所を見ると、喜びが満ち溢れた。


「イアン、どうしたの?入らないの?」


「入りますよ。」


店内に入ると、肉と油の濃厚な香りが鼻を突いた。


しかし、濃厚な食べ物の香りとは異なり、店内の客はコーヒー一杯と新聞を見る老人だけだった。


一見しても繁盛している店ではなかった。


「24時間営業なんて考えられないことからもわかるように。」


アルバイトが必要なさそうな快適さを見ると、苦々しい味がした。そんな状況でも両親は一度も表に出さなかった。


店を見回していたイアンの体が急に持ち上がった。


「おや!うちの息子、来たのか?」


優しい笑顔を浮かべた父、ディランの顔には喜びが満ちていた。

早朝に出勤し、夜に帰るディランのスケジュールでは、平日に顔を見るのはさらに困難だった。


「だから運動もサボって、わざわざ店に来た理由は何かな?」


「ただ、久しぶりに店を見て回りたかっただけです。夜は今のようにゆっくりではありませんから。」


忙しい時間には厨房を見るのが難しいので、計画を立てるためには調べる必要があった。


ちょっと厨房を見ながら、危ない物を片付けるディランは冗談っぽく手を振った。


「じゃあ、ゆっくり見ていきなさい、お客さん。」


厨房に入ると、まず感じたのは清潔さだった。


油がたっぷり入ったフライヤーやハンバーガーパティを焼くグリルなど、周囲が簡単に汚れがちな場所まで丹念に管理されているのがわかった。


「厨房の掃除はお母さんがしてるの?」


「え?どうしてわかったの?」


イアンは小さな隙間を指で指し示した。


「太いお父さんの指では掃除ができないでしょうし、正直お父さんが細かい性格ではないこともありますから。」


「ハハハ、クロイが気を使ってくれてるんだ。」


「ふぅ、イアンより手がかかるのに何を嬉しそうに笑ってるの?」


ディランが慣れたようにクロイの小言を笑い飛ばす間に、イアンは厨房を見回して頷いた。


「フライヤーとグリル、そしてオーブンを使ってるな。」


確かにこれら三つがあれば、ほとんどの料理はできるだろう。


冷蔵庫の中には、肉のパティ、ソーセージ、ベーコン、チーズなどの基本的な材料がしっかりと整理されているのを確認し、チリンと鐘の音がした。


「見学はもう終わりかい?客が来たから、そろそろ出ようか。」


メニューを見て注文をしている客を横目に、イアンは空いている席に座った。


「やっぱり他のことよりも、親の店を支えることが最優先だ。少なくとも自分がちゃんとお金を稼ぐまでは耐えなければ。」


もう少し年をとれば別だが、小学生の年齢では親に頼るしかない。

店を盛り上げる最も簡単な方法は新しいメニューを追加することだった。


イアンはすぐにノートを取り出し、必要な条件を書き記した。


-第一に、安くて、すぐに準備できるダイナーに合った食べ物であること。


-第二に、追加設備が必要ないこと。


-第三に、よく売れる食べ物であること。


条件が三つもあるため、なかなか良いメニューが思いつかなかった。


「他の国ではどんなものを売っているんだろう。」


世界中どこにでもあるようなダイナーのような食堂を参考にするために考えを巡らせた。


「まずイギリスは...」


そこはパスしたい。


メキシコのタコスやブリトーは既に大きなフランチャイズレストランがあるからアウト。


日本食はLAに多すぎるし、ダイナーとは合わない。基本が炒め物の中華料理も同様だ。


「韓国ならキンパか... ご飯を炊かないといけないから大変かな? ちょっと待って、韓国?」


韓国を思い浮かべると何かひらめきそうな気がした。小さなヒントがあれば思いつくかもしれない。


「あー... え?」


イライラして頭を持ち上げると、メニューに書かれたホットドッグが目に入った。ソーセージを包んだパンを見てすぐに思い出が浮かんだ。


「コーンドッグ!」


韓国式コーンドッグ。


韓国ではホットドッグと呼ばれるものをなぜすぐに思い出せなかったのか、ばかみたいだと感じたほどだ。アメリカ国内で年々店舗数が増えているほどの人気だった。


「アメリカのコーンドッグはトウモロコシのデンプンを使うが、韓国式は米粉を使ってずっとサクサクしている。」


外側にはポテトを付けたものが一番人気で、パン粉の代わりに砕いたラーメンを使ったりもする。砂糖やいろいろなソースをたっぷりかけて食べるスタイルだった。


アメリカ人に馴染みのある材料だから新奇ではなく、メインメニューとして特別かつ手頃な価格で提供できる食品だ。


ダイナーにこれほど完璧な食品はなかった。


思い出したレシピを書き込んでいるイアンにクロイが近づいた。


「コーンドッグ? なぜコーンドッグが食べたいの?」

よかった。


店で売るつもりなら、両親を説得しなければならないから、一度作ってみる必要があった。


イアンは無邪気な子供を演じながら大きく頷いた。


「食べたいんです!韓国式コーンドッグを!」


「え...?韓国式?」


「はい!ユナが教えてくれたんですよ。韓国式とアメリカ式は全然違うって。」


「そ、そうなんだ。」


韓国人ベビーシッターが教えてくれた韓国語の名前を出すと、クロイは戸惑いを隠せなかった。


作りたくても何も知らない。どうすればいいか悩む彼女に、イアンは答えを提示した。


「前に作り方も教えてもらったんです!一緒に作ってみませんか?」


クロイの横で顔をのぞかせていたのはディランだった。


「面白そうだけど、パパが一度作ってみようかな? ええと、米粉とモッツァレラチーズがあれば十分だね。ポテトはフライドポテトを切って入れてもいいし。」


「イーストも必要ですよ。」


材料を見ながらディランは大きな手でイアンの頭を撫でた。


「一日だけ待てるかな?代わりに明日材料を買うときにこれも一緒に買って作ってあげるよ。」


「いつでも大丈夫です!」


ディランの許可を得て、イアンは拳を握りしめた。


よし。ちゃんと作れば、メニューに載せるように説得する自信があった。


韓国式コーンドッグをメニューに載せることはまずは良いが。


「次は宣伝か。」


Korean corn dogとメニューに載せても、アメリカ国内では非常に珍しい食べ物なので売れない可能性が高かった。


イアンは深い微笑を浮かべた。


「ベン・ロバーツ」


ハリウッドを代表する俳優を無料モデルとして利用する方法を思いついた。

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