#7
『悪いな、狭間。全員の予定揃う日が中々なくてよ』
大学生と思しき連中が数人、俺の墓に手を合わせている。
俺は真正面からその姿を見ているのだが、彼らが気付くことはない。
家族以外で、俺の墓参りに来てくれる数少ない人物――高校の友人達だ。
ああ、今はもう全員大学生か。
『ほんと、月日が経つのは早いわ』
『あんま湿っぽいこと言うと嫌がりそうだし、何か良いこと報告しようぜ』
『あ、俺この前童貞捨てたわ』
『マジで!? ここで言うなよ!』
やいやい騒いでいる。俺が居なくなったとしても、こいつらにそう大きな影響はない。それがたまらなく嬉しい。ちゃんと毎年、確実に前へと進んでくれているから。
全員進路先の大学が異なるらしく、今は集まることすら稀のようだ。
だから、俺の墓参りという切っ掛けで、再び顔を突き合わせるのは、ある意味喜ばしいことだ――と、報告してくれた。
不謹慎だろ、と自分達でツッコミもしていたが。
「不謹慎なもんか。マジで嬉しいよ」
もっと自分の都合のことを言うなら、こいつらも供え物を持ってきてくれるので、それが非常にありがたい。
『ちょっと墓が汚れてんなー。みんなで掃除しようぜ!』
『いいね』
『俺バケツとか借りてくるわ!』
そうして、友人達は俺の墓を綺麗にしてくれた。
汚れを拭いたり、雑草を抜いたり、献花をしてくれたりと、至れり尽くせりである。
幽霊は汚れることがない――わけではない。
何となく、自分の墓が汚れていくと、自分自身も汚れていく感覚がするのだ。
なので墓を綺麗にしてもらうと、さながら一風呂浴びたような気分になる。
生きている人間の自己満足ではなく、墓の手入れというのは霊側にそんなメリットがあると、こいつらに教えられるなら教えてやりたい。
『また来るよ。とはいえ、毎年来れるかは怪しいけどさ』
『就活とか始まると、多分忙しくなるしなぁ』
『何も考えず生きてた高校の頃が懐かしいわ』
『まあ大学入っても基本何も考えてねえけどさ』
笑い合いながら、友人達は去っていく。
別に、毎年来てくれなくてもいい。たまに来てくれたら、それだけで嬉しい。
俺は、俺のことをさっさと忘れて欲しいが……わがままなもので、忘れないでいて欲しいという気持ちもある。
身勝手なのは、人間も幽霊も変わらないのだろう、きっと。
『ええもんはもらったかの? さっさと換えといた方がええぞ』
「すぐに物色するのもどうかと思うけどな」
ホトケが散歩気分でやって来たので、俺はとりあえず新たな供え物を『転換』する。
基本的には俺が好きそうなものが多かったが、一つだけ異様なものがあった。
四角いパッケージに包まれた謎の薄い物体……コンドームである。
「おい!! 何供えてんだ!!」
『罰当たりな連中じゃのう……』
「クソッ……。なあホトケ、これやるからあいつら祟らせてくれ」
『そんなもんいらんからダメじゃ』
ネタでもこういうことをされると霊はキレる。
霊になって分かった新たな発見だった。
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