#5
「墓荒らしだッ」
どこかの霊が、夜にそう叫んだ。俺は声がした方を振り向く。
見るからに怪しい風体のおっさんが、夜の霊園に忍び込んで、供え物を物色している。ぽつりぽつりと存在する霊達は、皆その表情を憤怒に歪めていた。
『おおう、来おったのう』
ホトケが俺の近くに現れ、墓荒らしのおっさんを注視する。
「止めろよ。管理者だろ?」
『阿呆抜かせ。わしは霊の管理者で、霊園の管理人ではない。現世で起こるいざこざについて、わしがどうこうする権利も義務もないのじゃ』
「供え物パクられたら困るのは俺らなんだけどな」
正当な管理人による供え物の撤去については問題ない。
が、そうでない者による供え物の窃盗については、俺達霊にも影響がある。
なんと、元の供え物を盗られたら『転換』した供え物が消えてしまうのだ。
時間経過で腐らず保存可能な『転換』した供え物の、唯一にして最大の弱点である。即ち、墓荒らしとは我々幽霊の天敵に他ならない。
『じゃから教えたじゃろ。交換条件で祟らせてやると』
チャレンジ外の供え物ならともかく、チャレンジ中にもし盗られたら、はっきり言ってチャレンジ失敗の可能性が爆上がりする。その上で俺達霊は干渉手段がない。
なら黙って指を咥えて盗られる様を見なくちゃならないのかって話だが、一応ホトケは救済措置を用意していた。
それが、『祟りシステム』である。システム好きな管理者だ。
「持ってる供え物と交換で、人間を祟る……か。ハイリスクローリターンだ」
『供え物を盗られたらガチリスクノーリターンじゃろ?』
「ガチリスク……」
祟りとは、霊が持つ現世の人間への唯一の干渉手段だ。
ホトケが承認したら、一度だけ使うことが可能になる。
その効果は様々で、対象を転ばせる、背筋を凍らせる、謎の声を響かせるなど即効的なものから、じわじわ体調を悪くさせる、悪夢を見させる、枕元に立つなど遅効性のものまでやたら種類が多い。
まあ、ホトケへ渡した供え物によって効果が変わるので、どれでも使えるわけじゃないのだが。
『おっ、あやつの墓にしたようじゃの。チャレンジ中じゃから焦っとる焦っとる』
「お前のこと呼んでるぞ。早く行ってやれよ」
『そうしてやるかのう』
墓荒らしに俺は選ばれなかった。
まあ、既に俺の供え物はほとんど撤去されており、残っているのは枯れかけた花ぐらいだから、そもそも選ばれる可能性は低かったのだが。
ホトケは墓荒らしに選ばれた霊から、カップ酒を受け取っている。
その後、ホトケはむむむとその霊へパワーのようなものを送り、無事祟りが発動する。
数秒後、墓荒らしは青褪めた顔で逃走した。
まあ、誰だって選ぶ効果は一つ……謎の声を響かせる、だ。
むしろそれ以外を選ぶ意味は薄い。
全くもって、供え物は俺達だけのものなんだから、人間は手出しすべきじゃないな。
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