12話

「――大宮楓さんですね?」


「……はい」


 それから暫くして、楓が泣き疲れて落ち着いた頃だった。

 白衣を着た女性医師がやってきた。


「私は医者の小林と言います。大宮さんは、自分のご病気について知りたいですか?」


「はい、知りたいです」


「では、取り乱さず聞いてくださいね」


「……頑張ります」


「大宮さんがかかったご病気の名前は、脳梗塞のうこうそくです」


「脳梗塞……」


「ええ、血管が何らかの原因で詰まってしまう病気ですね。本来若い人はなりにくいご病気です。ですが脱水などが重なると稀に起きてしまうんです」


 そこまで聞いて、楓は目を見開いた。

 あの日、自分が水筒を忘れるミスをして殆ど水分摂取などをしていなかったことを。そして、次の瞬間には深く悔やみ、また泣き叫びそうになった。


「不幸中の幸いと言ってはなんですが、大宮さんは搬送はんそうが早かったので重大な後遺症こういしょうだったり命の危険性が高くならない治療法を行えました。とはいえ、一時的に血流が通ってなかった血管は脆くなっていますので、もう少し、リハビリの時間以外は安静にしててくださいね。何事もなければ三日ぐらいかな。それぐらいで一般病床に行けますからね」


(不幸中の幸いなんて、気軽に言ってくれるっ。私にとっては脚が動かなければ、走れなければ死ぬことよりも不幸なのに……っ)


 そんな内心の憤りを抑え込んで、楓は頷いた。

 その様子を見て、小林医師は去って行く。


 そうして、憤りもやがて消え――残ったのは、『もうどうでもいい』、『死にたい』そういった空虚感や虚しさ、絶望だけだった。



―――――――――――

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