7話
楓は焦る余り、完全に頭から抜けていた。
往復時間で片道二分と考えていたが、帰りは遠回りして自販機によらなければいけない。
財布もしまってこなければならない。
しかも、五千メートルなら四百メートルトラックを十二.五周する。
つまり、スタートラインはメインスタンド前ではなく――反対側。
二百メートルラインがあるバックストレートだ。
今楓がいるメインスタンド下とは真逆。
自販機に寄る時間を考えると、五分ではやはり足りない。
「――しょうが無い! 財布だけ持っていってスパイク袋の中に入れとこう。タイムトライが終わった後なら行ける!」
記録を取る前に買うのは無理だ。
だが、記録を取った後に設けられる休憩時間なら余裕で買いに行ける。
財布の盗難にあう危険はあるが、隠しておけば良いと名案が閃いたように顔を明るくさせ、楓はグラウンドへと戻った。
「――何処行ってたの? まぁ、今は元気そうだから平気か。さっき凄い焦った顔してたぞ?」
「打開策が閃くって気持ち良いね」
スパイクを履きながら渚と雑談を交わす。
水分補給の解決の糸口が見えたから、気が楽だ。
相変わらず、熱に体内の水分もグイグイ持って行かれる。
だが、それもこれもタイムトライが終わった後に取るであろう水分を考えればドンとこい。
負けず嫌いな楓は、そう思っていた。
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