5話

「ごめんなさい。それならお友達で十分だと思うし、私は陸上を愛しているんです」


「あ……。そう、ですよね。ありがとう、ございました。――あの、また普通に話しかけても、いいですか?」


「それは勿論。友達としてよろしくね!」


 笑顔でそう言って、楓は男子生徒を残したままに元来た道を戻る。

 渚を待たせているし――また話しかけていいですかと言って、気軽に話しかけてくれて実際に友達になれた人なんていない。

 みんな、あわよくばと下心を持って近づいてくる。

 人からすると嫌味に感じるかもしれないが――。


(なんで、してもくれないのに『普通に話しかけていいか』とか『これまで通り接していいか』とか聞いてくるの?)


 そう感じていた。

 小学生の頃に仲が良かった男友達に告白され断ってから、楓は幾度となくこういった言葉に騙され、裏切られ続けてきた。


 こちらから話しかければ他の女子から『中途半端に気を持たせるとか最悪』、『思わせぶり』等と悪口も言われてきた。


 好意を伝えられれば伝えられる程、人からの好意は離れていき、悪意すら抱かれる。

 その繰り返しの結果そして楓は恋愛に嫌悪感すら持ち、苦手意識を抱くようになっていた。


「――お待たせ!」


「お帰り。どうだったか……は聞かなくても、しかめっ面から分かるなぁ」


 一人で帰ってきた楓の顔を見れば分かる。

 渚と楓は、再び下校路を歩み始めた。


「なぁ、楓は彼氏が欲しいとか思った事って無いのか?」


「渚まで今日はどうしたの?」


「何となく。世界陸上のアンダーまで制したのに、楓が何を求めているのか分からなくなったのかも」


「そうだなぁ……。私は、負けるのが嫌いで走るのが好きってなだけだからなぁ。……まぁ、彼氏はいらないかな」


「何でだ? 私もだけど、デートとかしてみたくないのか?」


「え、渚は彼氏が欲しいの!?」


「今はウチの恋話をしてるんじゃないだろ!? いいから、楓はどうなんだ?」


 照れて頬を赤くした渚に微笑みながら、楓は考えて――。


「別にいいかなぁ。恋愛感情とか、ドキドキするって分からないから。私にとって一番ドキドキするのは、陸上だから。スタート前とさ、競技後半の胸の鼓動はヤバいよね、癖になる!」


 快活な笑みを浮かべ興奮して言いきる楓は、西日に照らされて――神秘的なまでに美しかった。


「……やっぱ、敵わないのかな」


「え、なんか言った?」


「何でも無い。楓はスゲぇなって言ったんだよ」


 何処か儚げな笑みを浮かべながら、渚は親友の腰に軽く鞄をぶつけた。

 その後も人の迷惑にならないよう、負けず嫌いな二人は鞄をぶつけ合いながら下校していった――。



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。

楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!


読者選考やランキングに影響&作者のモチベーションの一つになりますので、どうぞよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る