第2話 国王の最後
二人の魔王が世界に現れる直前、オネスト王国は絶頂期を迎えていた。
複数の王国を吸収し、世界で初めて世界統一を成し遂げた。
王国国民は有史以来の経済成長と物質的豊かさを享受していた。
それは、吸収した王国の人間を家畜同然の奴隷とみなし、過酷な労働をさせると同時に、彼らの財産を奪って、王国国民に分配することで成り立っていた。
王国は国王の下、貴族と議員が団結して政務にあたっていた。
国王は午前中に大臣を招集し、王国の子供達の栄養状況を改善するよう伝えた後で、自分が所有している山に狩猟をしに来ていた。
もっとも、獲物はうさぎなどではなく、吸収した王国の奴隷の子どもたちだ。
奴隷の子どもたちを撃ち殺しながら、王国の子供達が健やかに育つことを願っていた。
国王は、奴隷の男の子を馬で蹴り飛ばした。
男の子は、大声で泣きながら、ちぎれかけた血まみれの顎を抑えていた。
国王は狩猟用の銃を取り出すと、男の眉間を撃ち抜いた。
男の子は苦悶の表情のまま、息を引き取った。
国王は、男の子の苦しみを和らげた自分の慈悲深さに満足し、次の獲物を探した。
すると、逃げ惑う子どもたちの中で、こちらをじっと見つめる少女がいた。
「次はあれにするか」
国王は、馬にムチを当てると少女に向かって突進していった。
剣を抜き、少女の首を飛ばそうとする。
「さぁ、逃げろ。私を楽しませてくれ」
少女は立ち止まったままだった。
国王はがっかりした。
ごくごくたまにこういう事がある。
目の前の状況を理解できず、なすがままになってしまう子どもがたまにいる。
思わず舌打ちをしてしまう。
抵抗したり、泣き叫んだりしてもらったほうが、弄びがいがあるのに残念だ。
国王は少女の脇を馬で駆け抜け、少女の首を切り落とした。
つまらない。
だがこういう気が利かない奴もいる。
次だ次。
そうおもって、正面を向くと、馬の首が消えていた。
「へ?」
自分でも驚くくらい情けない言葉が出るのと同時に馬の体が崩れ落ち、国王は地面に叩きつける。
なぜだ? 間違って馬の首を切り落としたか?
私の剣使いはそこまで上達したのか?
国王は仰向けになり、空を見上げる。
まぁ、大丈夫だ。すぐに、従者と医師が駆けつけるだろう。
それまで、下手に動かないほうが
先ほど首をはねたはずの少女が現れた。
手には、石を持っている。
一気に血の気が引く。
「おい。誰かこいつを片付けろ」
その言葉を発したのと、石が、国王の鼻を砕くのが同時だった。
国王は、初めて感じる強い痛みに対して呆然とした。
しかし、オネスト王国の主として帝王学を教え込まれていた彼は、取り乱すことはしなかった。
「おい。私にそんなことしていいとおもっ」
二発目の石が飛び、前歯が砕ける。
「おい……」
三発目の石は、右目を。
「きさ」
四発目の石は、左目を。
五発目の石が、喉に当たり国王は声を出すどころか、呼吸をするのさえ困難になった。
ふと見ると、少女の周りには、奴隷の子どもたちが怯えながら様子を見ていた。
少女は周囲を見渡すと、彼らの手のひらにガラス片のように鋭い石を生み出した。
少女がお手本を示した。
その石を、国王の太ももに突き刺した。
国王はくぐもった声を出す。
子どもたちが、怯えながら少しずつ少女のもとに近づいていく。
不気味なくらいの静寂。
「大丈夫。ここにはあなたたちしかいない。他には誰も見ていない。王国の奴らが来ることはないわ。あなた達がやりたいことをやって」
少女はそう言い残すと、ゆっくりとその場を去った。
しばらくして国王の断末魔が聞こえた。
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