第14話 賞金首三本勝負! 後編
【ROUND 2 クレイジーホーン】
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DEAD OR ALIVE
神獣属 【 クレイジーホーン 】
討伐レベル25
賞金 200,000 マナ
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マイラの街北西の『狂乱の森』に生息。
体長15メートル、体高10メートルの巨大鹿。神獣ケリュニティスの眷属。
草食だが獰猛で、ナワバリに入った者は誰であっても殺しにくる。
その雄叫びは魔力を持ち、聞く者の正気を奪う。ある者は泣き叫び、ある者は味方に襲い掛かる。
こうして無防備になった侵入者に悠々とトドメを刺すのだ。
……以上が指名手配書に記されたクレイジーホーンの解説である。
ラビィくん討伐後、裕真たちは街に戻らず、そのまま『狂乱の森』へと向かった。
なぜならデュベルさんに先取りされたくないから。タイム・イズ・マネーである。
普通に歩けば1週間はかかる距離だったが、《カモシカの靴》のおかげで2日ぐらいで辿り着いた。裕真1人なら1時間も掛からなかったのだが、さすがに1人は心細い。
森には樹齢千年を超えていそうな見上げんばかりの巨木が生い茂っている。木の表面は苔むし、地面には落ち葉が降り積もり、それらを枝葉の間から差し込む柔らかな木漏れ日が照らしていた。
なんというか神秘的というか、風光明媚な光景であり、ここが『狂乱の森』などという剣呑な呼び方をされているのが信じられない。
もちろんそう呼ばれるのには理由がある。この森をナワバリにしている怪物、クレイジーホーンのせいだ。
この怪物は10年以上前に、森の外……おそらく『アウトランド』でも特に危険な『
そして元から住んでいた動物たちを追い出し、森の恵みを独占しているのだ。
「独占か……欲張りな鹿だな」
「そうよ、だから世のため人のため森の動物のため、サクッとやっちゃいましょう」
「あ、ユーマさん、もう伝えたとは思いますが『神獣属』にも闇属性は通用しませんので注意して」
『神獣属』とは神々によって特別な役割を与えられた獣で、本来は神聖な存在だったのだが、『涙の晩餐会』以降、他の魔物と大差ない怪物になり果てている。
「ああ、覚えてるって。新兵器の出番だな」
そう言うと裕真は、バッグから一本の杖を取り出した。雪の結晶の装飾が施された白い杖である。
戦闘準備は万全、いつでも来い、などと身構えると、遠方からドスッドスッドスッと重量感のある足音が響いてきた。
足音がどんどん近づいてくる。「ナワバリに入った者は誰であろうと殺しに来る」という手配書の記述通りだ。
やがて巨木の合間から巨大な鹿の姿が見えてきた。裕真の体より大きな蹄が大地を踏みしめる度に降り積もった落ち葉が波のように翻る。
その蹄で数多の命を奪ってきた狂気の角鹿、今回のターゲット『クレイジーホーン』のご登場だ!
巨大鹿はさっそく得意技の“雄叫び”をあげた!
本来、その“雄叫び”は悪霊など邪悪なものを払うためのものだった。しかしそれが他の生物にも通用することに気づいてしまい、神獣としての使命を忘れ、己が欲を満たすためだけに使用している。
普通の相手ならこの時点で決着が付いた。しかし裕真たちは
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《ドルフィンヘルム》 頭部防具
品質 :
耐久 : 350
イルカの精霊を宿す兜。
混乱、幻覚、恐慌、魅了、洗脳など、あらゆる精神攻撃から装備者をガードする。
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この防具は“雄叫び”のみならず精神攻撃全般を防ぐ優れモノなのだが、その形状がイルカの頭部を模したオモチャのようになっており、装備するのが恥ずかしいという理由で売れ残っていた。
ユーマたちも同じ性能でもっとマシなデザインの防具があればそっちにしたのだが……無かったものはしょうがない。
それはさておき、反撃に移る。例の白い杖を巨獣に突きつけ、叫んだ。
「精神攻撃さえ防げば、お前なんぞデカイ的でしかない! MP100! 《アイススパイク》!!」
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《アイススパイクの杖》
品質 :
耐久 : 800
《アイススパイク》とは
獲物の肉を熱で傷めたくないハンターに人気。
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裕真の腕より太い
だが魔獣は猫のように靭やかな動きで木々の間に潜り込み、全弾回避してしまった! 全長15mもの巨体で!
「なっ!? うっそだろ!?」
巨獣の予想外な動きに驚愕しつつも、再び
逃げ回りながらもクレイジーホーンは“雄叫び”を上げ続ける。
ピキッと何かにヒビが入る音がした。
ドルフィンヘルムがダメージを受けているのだ!
やはりこれにも『耐久力』の限界があり、このまま“雄叫び”を受け続ければ壊れてしまう!
焦りを見せる裕真。それに対しイリスは心を乱すことなく、冷静に戦局を見つめる。
「落ち着いて! ナッツイーターと同じようにすれば良いのよ!!」
そう言うと彼女は巨鹿の足元に向かって矢を放った。ナッツイーター戦で見せた《影縫い》である。
驚異的な回避力を持つ巨鹿も自分の影まで庇うのは無理だった。地に伸びる影が射抜かれ動きを止められてしまう。
その瞬間を見逃さずアニーが《エノキ乱舞》を打ち込み、拘束をより強固なものとした。
とはいえこれでも全長15mの巨体を止められるのは、ほんの数秒程度。
だがその程度の時間でも、裕真が狙いを定めるには十分だった!
「今度こそ! MP300! 《アイススパイク》!!」
飛来する数百本の
巨獣は断末魔の叫びを上げ、ゆっくりと崩れ落ちる……
クレイジーホーン撃破!!
「こんなデカブツが、あんなに素早く動くなんて……やっぱり賞金首は侮れないな」
はぁ……と溜息をつく裕真。
強敵を倒し一安心するも、今後もこのような怪物を相手にするのかと思うと気が重くなる。
「特訓が必要かなー、確実に当てられるように」
「うーん……鍛えるのは良い事ですけど、人間の反応速度には限界がありますし」
アニーは顎に手を当てぼやいた。
ナッツイーターのように文字通り「目にも止まらぬ早さ」で動く魔物もいる。人間が多少鍛えた程度では魔物の能力に追いつかない。
「そこも魔道具の力に頼ってはいかがでしょう」
「例えばどんな?」
「攻撃魔法には敵を自動追尾してくれる物もあります。……マイラでは売ってませんでしたが」
「売ってないか〜」
「あと、装備者の反応速度を上げる魔道具、《ハヤブサの腕輪》というのがあります。……それも売ってませんでしたが」
「それもか〜」
ホーリーロッド、自動追尾魔法、ハヤブサの腕輪……。
欲しいのに売ってないものばかり。せっかくの『
「ふふふ、そうね、賞金を受け取ったら『ミッドランド』に行きましょう! 『トリスター』まで行けば大抵の魔道具が揃うわ」
「トリスター? マイラよりでかい街なの?」
「もちろん。子犬とゾウぐらいは違うわ」
「ふひひ……いいですねトリスター! 街の名所をご案内しますよ♪」
アニーが嬉々として案内役を買って出た。
彼女はつい最近までトリスターに留学していたのだ。よほど良い街だったらしく、事あるごとにトリスターの話題を出す。裕真も俄然興味が湧いてきた。
「よーし、残りの討伐も頑張って、トリスターに行くぞー!!」
「「おー!!」」
新たな目標も定まって、気合いの声を上げる一同。
大都市トリスターで楽しいショッピング! 買えなかった魔道具や、まだ見ぬ便利な魔道具が自分たちを待っている!
「きゅいいいいいっ♪」
突如ドルフィンヘルムが奇声をあげた。
これは故障でも異常事態ではなく、こういう仕様である。
裕真たちの盛り上がりにイルカの精霊が反応したのだ。
「ひゃっ!」「ひぇっ」「喋った!?」
しかしこの仕様を知らなかった3人はめっちゃびびった。
そりゃ売れ残るわ……と納得しながら。
☆ 獲得素材 買取価格 ☆
『クレイジーホーンの魔石』
10,000マナ
『狂乱の鹿角』
30,000マナ
『特大鹿の毛皮』
3,000マナ (痛みが激しいため価格ダウン)
『特大鹿の骨』
5,000マナ
『狂乱の睾丸』
15,000マナ
『特上鹿肉 1トン』
10,000マナ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【 ROUND3 ヘルハウンド・チーフ 】
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DEAD OR ALIVE
魔獣属【 ヘルハウンド・チーフ 】
討伐レベル30
賞金 300,000 マナ
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マイラの街南西、ヘルハウンドの群生地『黒コゲ盆地』に生息。
『ヘルハウンド・チーフ』はその群れを率いるリーダーである。
この獣は獲物をよく焼いてから食べるのを好む。集団で取り囲み、炎の息吹で黒焦げにするのだ。
……以上が指名手配書に以下略。
黒コゲ盆地はその名の通り、ヘルハウンドの炎で真っ黒に焦がされた焼け野原である。
ヘルハウンドとは本来『地獄』に生息する生物で、口から吐く炎で罪人を炙り苦しめる役目を与えられていたのだが、古代の魔術師によって地上に召喚され、そのまま居着き繁殖してしまったのだ。
その姿は仔馬ほどの大きさの真っ黒な猟犬であり、習性も犬に近く、群れを作り集団で行動する。
群れの脅威度はそれを率いるリーダーによって変わる。優秀なリーダーに率いられたヘルハウンドは、ドラゴンに匹敵する脅威となる。
「逆に言えば、そのリーダーさえ倒してしまえば脅威度がぐんっと下がるわけよ」
「だから賞金を掛けられたのか」
ここは黒コゲ盆地から1kmほど離れた森の中。
裕真たちは最後のターゲットを狩るための作戦会議を始めていた。
「そうよ、つまりそれだけ賢いってことで厄介な相手よ。更に厄介なことに、他のヘルハウンドと見分けがつかないの」
「見分け付かないなら、群れごと纏めて吹き飛ばせば良いんじゃないか?」
「それじゃダメ。その中にチーフが混ざってない可能性があるし、あなたが凄い魔術師だと知られたら、二度とあなたの前に現れなくなる」
ふーむと腕を組み、渋面を作る裕真。
初見で確実に倒さないと警戒されて現れなくなる……という点はトロル・キングと同じだが、今回の相手は自分そっくりの影武者を無数に引き連れているようなもので、まずその中から本物を見つけ出さなければいけないと……。
「難しい話だな……何か作戦は?」
「ええ、もちろん用意してあるわ! 題して『生焼け肉に大当たり作戦』よ!」
「な…なまやけ?」
珍妙な作戦名に怪訝な顔をする裕真。それは何かと尋ねるより早く、イリスはバッグからいくつかのアイテムを取り出し、地面に並べた。
まず『火蜥蜴の薬』。
これは飲むとサラマンダーの加護を受ける薬。30分ほど熱攻撃を防ぎ、炎の中でも呼吸できる
次に『耐火オイル』。
これは塗布したものを炎から守る。
そして『よく燃えるよう油を浸み込ませた服』と『着替えの服』。
裕真はこれらを見てようやく、彼女が立てている作戦の見当がついた。
その後、作戦の説明を受けた一同はさっそく油臭い服に着替え、燃えては困る装備……攻撃用の杖とガードバングルとマジックバッグなどに耐火オイルを塗り、最後に火蜥蜴の薬を服用して、準備完了。
「うおおおおっ!」「やったるぞ! こらー! !」
気合いの雄叫びを上げながら黒コゲ盆地に突っ込む!
すると即座に数十体のヘルハウンドが駆け寄って来て、あっという間に裕真たちを包囲した。統制が取れた見事な動きである。
そして獲物を逃がさず、なおかつ効率よく攻撃できる距離を保ちつつ、一斉に炎のブレスを吐きかけた!
たちまち全身が炎に包まれる3人。身体は無事だが、油を浸み込ませた服が豪快に燃え上がる。
「きゃあああーー」「ヤーラーレーター」
派手に転げ回りながら悲鳴を上げ、やられたフリをする女子たち。
ちょっとわざとらしかったかな? バレやしないかな? と若干不安になる。
演技の練習もしておけば良かった。
「ぎゃああああっ!!」 .
一方、裕真は百点満点な迫真の悲鳴をあげていた。なおこれは演技ではなく本気の悲鳴である。
もちろん薬のおかげで熱さも息苦しさも感じないのだが、視界全てが炎で覆われているという事実に本能的な恐怖を感じてしまったのだ。
ほどほどに叫んだらゴロリと寝ころび死んだフリをする。
燃えて炭と化した服のおかげで遠目には焼死体に見えるだろう。それに加えてヘルハウンドの視力はあまり良くない。
しばらくすると、1匹のヘルハウンドが近づいてきた。
その目的はもちろん捕食。
焼きたての獲物の、一番美味しい所を齧る権利を持つ個体……
こいつが群れのリーダー、『ヘルハウンド・チーフ』だ!!
裕真は立ち上がり、懐に抱えていた杖を構えた!
獲物の生存を知り、距離を取ろうと反転するヘルハウンド。
だがもう遅い!
「MP100! 《アイススパイク》!!」
無数の
その光景を見た他のヘルハウンドは、我先にと逃げ出した!!
「よっしゃ! 仕留めた!! ……仕留めたかな? こいつがチーフで合ってる?」
「魔石を見れば分かるわ。普通のヘルハウンドより一回り大きいはずよ」
「そう? では、さっそく解体……てっ! 先に服を着て! 見えちゃってるって!」
裕真の指摘通り彼女らの服はほとんど灰になっており、ごくわずかの燃えカスが肌に張り付いているだけの、ほぼ丸裸に近い状態になっていた。
イリスは均整の取れた引き締まった肢体と皮鎧の上からでも存在を主張していた豊かな胸が、アニーは小ぶりな乳房と肋骨が浮き出るほどスレンダーな身体が露わになっていた。
しかし2人は裕真に肌を晒しても恥ずかしがる素振りを見せなかった。
いや、実際のところイリスは恥ずかしいとは思っているが、それを表に出さないだけである。
彼女は負けん気が強い性格なので、自分の弱みを見せるのがイヤ……「普通の女の子のように恥ずかしがっていると知られる方が恥ずかしい」のだ。
一方アニーは「自分の貧相な身体なんて興味ないでしょ」という達観である。
「いいですよ、少しくらい見ても。お互い様ですし」
「お互い様?」
そう、丸裸になったのは裕真も同じだった。
特に運動をしていたというわけでもなく、15歳という若さだけで引き締まっている肉体を女子2人に晒しているのだ。
裕真は慌てて股間を隠した。裕真の裕真が大変なことになろうとしているからだ。
パーティメンバーの裸を見てアレがアレしたなど、今後一緒に冒険していく上で非常に気まずい。
「おや〜? どうしました〜、ユーマく〜ん」
「ユーマさんのユーマさんがおっきしちゃいましたか〜?」
悪ガキ2人が悪ふざけモードに入り、ゲッゲッゲッと下衆な笑いを浮かべ裕真を取り囲んだ。
「ちょっ! みないで! ! ……きゃっ! 触らないで!! きゃー! 誰か男の人呼んで!」
その後、気が済むまで戯れた後、倒したヘルハウンドを確認。
それは間違いなく標的の『ヘルハウンド・チーフ』だった。
☆ 獲得素材 買取価格 ☆
『ヘルハウンド・チーフの魔石』
20,000マナ
『ヘルハウンドの牙(上質)』
2,000マナ
『ヘルハウンドの爪(上質)』
2,000マナ
『ヘルハウンド・チーフの睾丸』
5,000マナ
『地獄の燃料袋』
3,000マナ
その他、地獄犬肉 100㎏
1,000マナ .
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【 マイラの街 おおとり亭 】
「かんぱーいっ!!」
「おつかれさまぁっ」
賞金首三連戦を終えた裕真たち、いつものように祝杯を挙げる。
今回は奮発して、『おおとり亭の特別メニュー』を注文した。
それは今の自分達のように、懐が暖かくなってちょっと贅沢したくなった人のために用意されたメニューである。
この街には元から高級な料理を提供するお店もあるが、そういう場所は貴族や富豪といった上流階級が主な客で、庶民には敷居が高い。
なお特別メニューは事前予約が必要なのだが、三連戦に出発する前にしっかり済ませておいた。
裕真が選んだのはオリオン牛……穀物を食べさせて育てた牛のステーキと、『
マイラの街では小麦が主食で、米はあまり一般的ではない。あってもインディカ米のように粘りが少なく、リゾットなどにすれば旨いが、そのまま炊いて食べるには向かない品種だった。
しかし統星の米は日本の米とほぼ変わらぬ見た目と香りで、丼に山盛りにされたそれはツヤツヤと輝いて、まるで宝石のよう。
まずは白米だけを口にする。
炊きたての米特有の香ばしい香りが口いっぱいに広がった。
そして次にステーキを一口大に切り分け頬張る。甘い脂が舌の上で蕩けた……牧草で育てた牛ではこうはいかない。
今度は肉と白米を一緒に頬張る。肉汁の旨味と米の甘さが混然一体となり裕真の口内が幸せでいっぱいになる。
まさに至福。日本にいた時でもこんなご馳走は滅多に食べられなかった。
「いやー、いいのかなー、こんな贅沢して」
「ふふふ、気にすることはないのよ。賞金と素材の売り上げが、合わせて88万マナになったし!」
イリスが注文したのは北の『新帝国』から輸入されたエンパイアポークの生ハムと皇室御用達のワイン。 やはり超高級品である。
なお正確な獲得金額は886,000マナである。
その打ち分けは――
【ラビィくん】
賞金250,000+素材30,000=280,000
【クレイジーホーン】
賞金200,000+素材73,000=273,000
【ヘルハウンド・チーフ】
賞金300,000+素材33,000=333,000
「これにナッツイーターの儲けを合わせて、1,277,000マナね!」
【ナッツイーター】
賞金300,000+素材91,000=391,000
「そこから支出を差っ引いて――」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【 支 出 】
神官の資格 100,000
ヒーリングの杖 30,000
ファイアボールの杖(上質) 25,000
アイススパイクの杖(上質) 30,000
ホーリ-アンク×3 6,000
ドルフィンヘルム×3 9,000
火蜥蜴のポーション×3 15,000
耐火オイル×3 3,000
服、食料などの雑費 1,000
合計 219,000マナ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「残りは1,013,000マナ(約1億130万円)!! いや~ こんな大金、見たことないですよ♪」
高級ビールをあおりながら、喜色満面のアニー。
彼女が注文したのはビッグマッシュルームのステーキとマツタケの姿焼き。スレンダーな体形なのは、キノコ中心のヘルシーな食生活だからなのだろうか?
「まー、金が入ったのは良いんだけど、売ってない物が多いのが困りものだなぁ」
「ええ、そうねー、ホーリーライトとか、ハヤブサの腕輪とか……『キング・マイコニド』用の耐性装備も見つからなかったし……」
「結局、そいつはデュベルさんに狩られてしまいましたね……」
裕真たちが遠征していた間、デュベルも同様に狩りに出向いていた。
その標的は『トロル・キング』以上の強敵……マイラの街で最高額の賞金が懸けられた『キング・マイコニド』である。
単純な腕力だけでもトロル・キング以上で、更に人体に寄生するキノコ胞子を撒き散らすという厄介な奴で、長年プロキオン公国を悩ませていた。
彼はその怪物を倒したことで賞金だけでなく、この国において不動の名声を手にしたのだった。
もっとも裕真は、それを惜しいと思わなかった。
「ぶっちゃけキモくて戦いたくなかったから、それはそれで良いんだけど」
寄生するキノコという時点で、もう戦うどころか近づくのも嫌だ。怪奇映画の『マタンゴ』のようになるのは御免である。
「良くないわよ! 賞金70万よ!! 70万!!」
パンバンッと苛立たしくテーブルを叩くイリス。今回倒した3体分に匹敵する賞金。惜しくないわけがない。
寄生攻撃耐性の防具さえあれば……やはり一刻も早くトリスターに向かう必要があると認識した。
しかし裕真は、そんな彼女の気持ちを知るや知らずや――
「あ、そういえば……これでシノブさんにポーション代100万マナ支払えるじゃん!」
「「はいっ!?」」
口を揃えて驚く女子たち。一気に酔いが冷める。
「ちょ……ちょっと待って。すぐ支払う必要はないんじゃないかな? その人も“支払いは何時でも良い”って言ってたし」
「そうですよ! トリスターに行くって計画はどうするんです!?」
「いや、だからこそすぐ払うんだよ。この街を出たら、次はいつ会えるか分からないじゃん。……それに逃げたって思われるのもイヤだし」
「そんなの期日を決めなかった向こうが悪い! !」
「いやいやいや! 仮にも命の恩人に対して!」
「資金調達はどうするんです!? もう目ぼしい賞金首はいなくなったのに!」
「そこは地道に稼いで――」
「お久しぶりです、ユーマさん!」
「……お?」
白熱する議論の最中、聞き覚えのある声がしたので振り向くと、そこには眼鏡をかけた七三分けの男性……行商人のアツシさんがいた。
「誰です?」
「あっ……あの時の行商人さん!」
当然初対面のアニーは知らない。イリスは数秒ほど間を置いてから思い出した。
「お久しぶりです!! すいません、あれから顔を出さないで……」
一方、裕真はしっかり覚えていた。それだけ初対面のインパクトが強かったのだ。
……覚えてはいたが、それから結局会いに行かないままだった。この街で露店を開いていると聞いていたのに。
必ず会いに行くと約束したわけではないが、なんとなく後ろめたい気持ちになる。
「この街に来てから、目が回るように忙しくて――」
「ええ、もちろん分かってますよ。世界を救わなきゃいけないんですからね」
「……は? 今、なんと?」
一瞬、我が耳を疑った。アツシさんには邪神討伐の話などしていないはずだが……。
「ユーマさん……不躾ですがこちらを御覧頂けますか?」
そう言うとアツシさんは懐に手を入れ、黒い板のようなものを取り出した。
それはよく見ると裕真も良く知っているもの……スマートフォンだ!
「それはスマホ!! なんでアツシさんが持ってるんです!?」
「やはり、スマホを御存知でしたか……。ユーマさん、貴方はボクと
ミリオンクエスト ~100万MPで異世界攻略~ 糠酵太 @NukaCota
★で称える
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