第13話 賞金首三本勝負! 前編
マイラの街、中央広場。
ここは国の式典など重要な行事が無いの日は、自由
朝早くから数多くの露店が立ち並び、店主たちが自慢の商品を店頭に広げ、買い物客の興味を引こうと威勢よく声を張り上げている。
その中に眼鏡と七三分けの男性と少女2人……1週間ほど前、星野裕真に助けられた行商人のアツシ一家もいた。
「ポーション、ポーションが安いよー! 医療の国『アルファルド』からの直送品! どれも高品質だよー」
本日アツシが取り扱うのは馴染みの業者から仕入れた高品質ポーション、それを市場価格より二割ほどの安値で販売していた。
専門は魔道具なのだが、それはほぼ完売、あとはポーションが捌けたら、この街での商売は終わりである。
可愛い娘たちの手伝いもあり、売れ行きは順調、予定より早く終わりそうだった。
「『全快ポーション』ある?」
そう聞いたのは黒髪黒目で背が高いハンター風の男、不健康とまではいかないが生白い肌をしている。
「すみません! そちらはうりきれです!」
舌足らずな口調で対応する次女のポロン。
小さい女の子が精一杯接客する様は年配のお客様に好評で、商品の売れ行きに大きく貢献したのだった。
「代わりに美白のポーションはいかが? お兄さんの綺麗な肌が 更に白くなるの!」
( アム!〉
アツシは長女の軽口を小声で窘めた。
身体的特徴をいじるのは良くない、相手の地雷を踏みかねない……と教えたのに、この子は……。
「いや~、これ以上白くなるとダイコンと間違われるし」
幸い、男は気分を害した様子はなく、ハハハと爽やかに笑い、去っていった。
何事もなくて良かったと安心するアツシだが、一息つく間もなく次の客が来た。
「よう、儲かってるかい?」
そう声をかけてきたのは鳥打帽とコート姿の男。無精髭を生やした顔は40代中頃ぐらいに見える。
「あ、エドさん! ええ、ボチボチってとこですかね。ポーション類がよく売れて―― ところでどうです? 何か分かりました?」
「残念だが、あんたの奥さんは見つからなかった。少なくとも この街にはいない。……すまんな、結構な額を貰っておいて」
「……そうですか」
エドと呼ばれた男は『クライムハンター』であった。
クライムハンターとは賞金をかけられた『人間』……犯罪者や逃亡奴隷などを狩ることを専門としているハンターである。
その仕事の性質上、人探しを得意としており、犯罪者以外にも失踪した人物の捜索も引き受ける。
アツシは彼に失踪した妻の捜索を依頼したのだが……結果は芳しくないようだ。
うなだれ、溜息をつくアツシ。落ち込む父の姿に娘たちも顔を曇らせた。
「だが『もうひとつの調べ物』……そちらはバッチリ裏を取ることが出来た」
「……本当ですか!? 間違いないので?」
一転、アツシの顔に生気が戻る。
「ああ、ほぼ間違いない。あんたが出した『条件』にぴったり当て嵌まった」
「そうですか…… やはり彼が……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【 おおとり亭 裕真の部屋 】
「かなりお金が掛かったけど! 回復魔法も手に入ったし、安心して『賞金首』を狩りに行けるな! か な り お 金 が 掛 か っ た け ど !!」
お金のことをしつこく強調する裕真。
それだけ神殿でぼったくられた件が尾を引いているのだ。
女子2人もほぼ同じ気持ちなので、特に突っ込まない。
「あっ……ちょっと待って。やっぱり『全快のポーション』は手に入れたいと思うの。ユーマが魔法を使えない状況もありえるし」
「お? 確かにそういう危険もあるか……。じゃあやっぱり入荷するまで待つ?」
「いえ、次の入荷は早くても一ヶ月後でしょ? そんなに待てないわ。だから、ギルドで『調達依頼』を出そうと思うの」
「調達依頼?」
「魔物を倒すだけがハンターの仕事じゃないわ。薬草とか卵とか鉱石とかキノコとか……そういうアイテムを調達するのもハンターの仕事なの」
なるほど、そういえば有名なモンスター狩りのゲームでも、採集系の依頼があった。リアルでもそこは同じなのかと一人で納得した。
「普通は職人さんや錬金術師さんが依頼するのですが、同じハンターが利用することも多いです。狩りに必要なアイテム目的で」
「へぇ、今の俺たちみたいにか」
「そうよ。さて、いくらで依頼しよう? 『1本、5,000マナで、5本まで買い取ります』……もうちょっと安くしても良いかな? 1本3,000ぐらいで」
通常なら『全快ポーション』の相場は1本1,000マナである。
十分な金額と言えたが……
「報酬ケチると、入手が遅くなりますよ?」
「くっ……そうよね……」
テーブルに突っ伏して呻くイリス。
今現在、Aランクハンターの『デュベル』という強力なライバルがいて、時間が経てば経つほど獲物を先取りされてしまう状況だ。
彼は立派な人物だとは思うし尊敬もしているが、それはそれ。商売敵であることに変わりはない。
彼に狩られる前に、多少高額でもポーションを調達し、素早く狩りに出る必要がある。
いわば先行投資、タイム・イズ・マネーである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【 ハンターギルド 】
というわけで、調達依頼を出すためにキルドへ赴いた一行であるが……
「あっ! いらっしゃーい!! 丁度良い時に来たわね♪」
ギルドの受付嬢ランランさんが、輝かんばかりの笑顔で出迎えてくれた。
「はい、これどうぞ☆」
どんっ!と高価そうな箱をカウンターの上に乗せる。
その中身は『全快ポーション』 1ダースセットだった。
「……え? くれるんですか?」
「そうよ、『ナッツイーター』討伐の特別報酬♪ 被害拡大を防いでくれたのが上層部に評価されたの! 遠慮なく受け取って♪」
おお……と小さく感嘆の声を上げる一同。
「さすがギルドね……街全体で品切れ中なのに、こんなに沢山……」
「それにしても、タイミングばっちりですね……心を読まれた気分です」
「まぁ、ポーション不足はギルドも分かってるし、喜んでもらえるかなって☆ あ、念の為に言っとくけど、ギルドが買い占めたわけじゃないよ? 不足する前からの備蓄だから」
備蓄と聞いて「えっ」と小さく声を漏らす裕真。
「いいんすか? 備蓄っていざという時のための物でしょ?」
「いいのよ、備蓄はまだあるし。それにあなたたち、これから大物を狩るつもりでしょ? 賞金首が減れば被害者も減るし、倉庫にしまっておくより有意義かなって」
有意義と言われ、裕真は胸が熱くなるのを感じた。
自分の仕事が評価され、今後の働きにも期待されているのだ。
賞金が目当ての討伐だったが、それが人助けになり、多くの人々から感謝されているという事実に俄然やる気が増す。
「そういうことでしたら、遠慮なく!」
裕真たちは薬の瓶を三等分し、それぞれ自分のバッグに収納した。
これで回復アイテムの問題は解決。自分が魔法を使えない状況でも……
「……あれ? ここで貰えるなら、急いで神官になる必要は無かったんじゃ――」
授業料10万マナ♪
高欲な天使の声が脳内でリプレイされる。
神官資格の購入を急がず、先にギルドへ寄っていれば……
「あ~、いやいや! どっちみち回復魔法は必要になるわ! 無駄な投資じゃないはずよ!? ね?」
「お……おう……」
未来への投資だと思い、この件は忘れることにした。
忘れることにした。
このあと一行は商店街で必要な魔道具を買い漁り、いよいよ賞金首討伐に出発するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【 ROUND1 ラビィくん 】
+ + + + + + + + + +
DEAD OR ALIVE
悪霊属 【 ラビィくん 】
討伐Lv35
賞金 250,000 マナ
+ + + + + + + + + +
ウサギの着ぐるみの姿をした悪霊。
マイラ北西の『串刺し草原』にて、夜間のみ出没。
なぜ現れたのかは不明。狩られたウサギ達の怨念……という説もあるが、その程度で悪霊化するならもっと多くの魔物が化けて出るはずだ。
主な攻撃方法は“呪詛”による呪殺。
“呪詛”が効かない相手には手に持った鈍器や刃物で攻撃する。
また、霊体なので物理攻撃は効かない。
……以上が指名手配書に記された『ラビィくん』の概要である。
生息地の『串刺し草原』が、マイラの街から比較的に近いので最初のターゲットに選んだわけだが、裕真は早くも後悔した。
何故なら出没時刻が深夜……真っ暗な草原が想像以上に不気味だったからである。
あたり一面が裕真の臍上まである草叢で覆われており、闇夜に覆われたそれは夜の海のようで、飲み込まれてしまいそうな不安と恐怖を感じた。
帰りたい気持ちでいっぱいだったが、男として女子2人に情けない姿を見せたくない。幸いなのは、照明を灯してもなお薄暗いおかげで、青ざめ涙目になっている顔を見られずに済むことだ、
ちなみに物騒な地名の由来は、ここが一角兎『アルミラージ』の群生地で、不用意に近づいた人間を容赦なく串刺しにするからである。
しかしその攻撃はそれなりの防具、もしくは防御魔法さえあれば簡単に対処可能であり、それらの手段を用意できる中堅ハンターにとって良い稼ぎ場になっていた。
だが『ラビィくん』の登場で状況が一変してしまう。
出没が夜だけとはいえ、出会えばほぼ確実に呪殺される、なんなら目撃例が無かっただけで、夜以外にも出没する可能性だってある。
そんな危険がある中で、あえて狩りを続けようとする者はなく、そのおかげでアルミラージが繁殖し放題になり、草原の外、近隣の村落まで被害を及ぼすようになってしまったのだった。
「ラビィくんを退治すれば、またハンターが狩りに来れるようになる?」
「もちろんよ、みんな喜ぶわ」
「そうか、喜ぶか~」
魔法の明かりを灯しながら、少し頬を緩ませる裕真。
この狩りは自分が得するだけじゃなく、人助けにもなる。そう考えることで込み上げる恐怖心を抑えた。
「ところで『ラビィくん』って誰が名付けたのさ? 人を呪い殺す悪霊にしては可愛すぎない?」
「今から千年前の『魔法帝国』時代に、そういうマスコットキャラがいたんですよ。なんでその姿をしているのか不明ですが」
「へぇ……」 「へぇ……」
イリスもそこまでは知らなかったようで一緒に感心する。アニーは本職の魔術師だけあって博識だった。
「なぜ現れたかも不明だし、分からないことだらけだな……」
正体不明の悪霊の言いようがない不気味さ、それに夜の冷気も加わって鳥肌が立ってしまう。
「でもまぁ、ただひとつ確かなことがあるわ! そいつの首に25万もの賞金が懸けられてるってことよ! さぁ、レッツハンティング!!」
「お……おう! おっしゃ! やったるぞ!!」
闇夜に心まで飲まれぬよう、気合を入れる一同。
そんな熱気を感じ取ったのか、1体の影が近づいてきた。
草の海をかき分けながら迫るそれは、月明かりに照らされることで辛うじて形状を認識できた。
右手に錆びた包丁を持ち、所々に赤黒いシミがこびり付いたウサギの着ぐるみ……
賞金首の『ラビィくん』である!!
戦 闘 開 始 !
「悪霊系には『光』か『炎』の魔法よ!」
「オーケー! MP100! 《ファイアボール》!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ファイアボールの杖』 攻撃魔道具
品質 :
耐久 : 800
《ファイアボール》は爆発する火球を射出する魔法で、射程と攻撃範囲が広く、使い勝手が良い。
ただし延焼等の二次被害に注意。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
きゃあああぁぁぁぁ……
爆炎に飲まれ、悲鳴を上げながら消滅するラビィくん。
その声はまるで幼い子供のようなのが一層不気味で、背筋が凍り付く。
「やったわね! 討伐完了よ!!」
「え? これで終わり?」
杖を構えたままの姿勢で唖然とする裕真。
せっかく気合を入れたのに、あっさり片付きすぎて身の置き場がない。
「そりゃそうです。それだけあなたの魔力が飛び抜けているということですよ。普通ならあのレベルの悪霊を一発で倒せませんって」
「そ……そうなんだ」
「ただ楽勝だと思ったら大間違いよ? 《ホーリーアンク》を見てみて」
イリスに言われるまま胸に吊るしていたアンクを手にとって見る。
すると、所々に黒い焦げが付着しているのに気付いた。
まだ買ったばかりの曇り一つない新品だったのに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ホーリーアンク》 装飾品
品質 :
耐久 : 400
神聖な力で呪詛などの闇属性攻撃を防ぐ。
前回、神殿にて購入。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えっ、なんで!? 攻撃なんて受けてないのに……」
「受けたんですよ。これが呪詛攻撃の恐ろしさです。目に見えない呪力をノーモーションで放ちますから、回避するのはほぼ不可能なわけです」
「ホーリーアンクが無きゃ即死だったわね」
即死と聞いてまたしても鳥肌がたった。ハンター達が敬遠する理由も分かる。
「逆に言うと悪霊系は事前対策さえしっかりしてれば楽に勝てるんです。今回みたいに。それを怠ると一方的に殺され――」
と、講釈を垂れている途中で周囲の異変に気付いた。周囲が非常に焦げ臭い。
振り向くと、ラビィくんを撃破した地点から周囲の草叢に火が移り、大火事になっている!
このままでは草原全体が焼け野原になってしまう!!
「ユーマさん! 火が燃え広がってますよ! 早く消火! 消火!!」
「あわわ……《ショックボルト》!!」
放たれた衝撃波が炎をかき消した。
テレビで見た『油田火災を爆風で消すやつ』を真似てみたのだが、うまくいったようだ。一安心し、額の汗を拭う。
「そうだよな、炎の魔法使ったら普通火事になるよな……ゲームじゃないんだから」
「そうですね、炎魔法は使うところを選ばないと大惨事になるのがネックです」
「うーん……《ホーリーライトの杖》があれば良かったんだけど、売ってなかったのよねぇ」
イリスが言う《ホーリーライトの杖》とは、“聖なる光”を放ち、悪魔やアンデッドなど闇属性の魔物を“浄化”する魔道具である。それ以外の対象には無害で、もちろん火災の心配も無い。
対アンデッド兵器として非常に優秀なのだが、それゆえ人気も高く、入荷してもすぐ売れてしまうのだそうな。
「取り寄せには数ヶ月かかるっていうし……こっちの世界でも〇mazonがあればなぁ」
この世界に来て常々思う。ネットでポチッた商品が翌日に届く、そんな地球の文明こそチートじゃないかと。
「……あ! そういえばラビィくん、跡形も無く消えたけど、賞金は!?」
賞金首を倒した証として、身体の一部を持ち帰ることが必要なのを思い出した。
こんな恐ろしい場所まで来て、タダ働きになってしまうのか?
「心配いらないわ、これを見て」
そう言うイリスの手には、半透明で淡いルビー色をした握りこぶしほどの石が握られていた。
「ラビィくんの『魔石』よ。さっき拾っておいたわ。魔石は燃えないし頑丈なので、かなりの威力で攻撃しても後に残るの」
「幽霊でも残るの?」
「そりゃそうです。そもそも幽霊が現世で暴れられるのは『魔石』のおかげですもの」
物知りのアニーが簡単に、この世界における『幽霊』について説明してくれた。
通常、死者の魂はあの世……冥王が治める『冥界』に行くものだが、強い『魔力』があれば冥界に引き込まれず現世に留まれるのだそうな。
なので悪霊たちは体内に大量の魔力を溜め込んでいる。倒したときにドロップする『魔石』は、それが結晶化したもの……というわけだ。
裕真はその話を聞いて納得すると共に、若干鼻白んでしまった。
幽霊というものは“科学で解明できない謎の存在”という部分も怖さのポイントだと思うのだが、この世界ではその謎がほぼ解明されてしまっている。
なんというか、神秘とかミステリーとかそういうものがなく、害獣程度の認識なのが残念に感じる。
いや、別に怖いものが好きというわけではないのだが……
などと言葉にしづらいモヤモヤを感じていると、足元に何かが落ちているのに気付いた。
明らかに自然物ではない人工的な物……ラビィくんそっくりのぬいぐるみである。
なぜこんなところにこんな物が? 気になって手を伸ばして……
「……あっ! それは拾わない方が良いわ!」
イリスに肩を掴まれ止められた。
「なんで?」
「
「えっ……怖っ! 触ったらヤバい?」
「ヤバい。ホーリーアンクがあるから、すぐにどうにかなるわけじゃないけど」
「まじで……。でもなんで残ったんだ? けっこうな火力で焼いたのに」
「さぁね。ただお姉ちゃんが言うには、『悪霊にもこの世に何かを残したいという気持ちがあって、それが呪物を生み出すのよ』って。……本当かは分からないけどね」
「何かを残したい……ねぇ」
この悪霊『ラビィくん』は、なぜ現れ、何がしたかったのだろう? 何かを伝えたかったのだろうか?
その秘密を知るのはもう少し後になる。
……なお、この時の『
それに気付いた裕真は腰を抜かすほどビビり、この世界の悪霊を舐めていたことを深く反省するのだった。
☆ 獲得素材 買取価格 ☆
『ラビィくんの魔石』
30,000マナ
『ラビィくんのぬいぐるみ』
買取不可 (呪われている為)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます