第2話 代償
朝日が昇り始めた頃、悟は自分の置かれた状況を整理していた。
(まずは生き延びるための情報収集をしないと)
木の枝にしがみつきながら、悟は【超音波】を試してみる。音波が森に広がり、周囲の状況が立体的に把握できた。小さな獲物―― 虫やネズミの気配も感じ取れる。この能力があれば、食料の確保はできそうだ。
【エラー検知】も発動してみる。すると、近くを飛ぶ鷹の存在を警告してきた。上空の捕食者にも注意が必要らしい。
(このスキルは、プログラムのバグを見つける時の直感が形になったものか)
空腹を感じ始めた悟は、獲物を探すことにした。【超音波】で近くの昆虫を見つける。羽ばたきながら枝から飛び立ち、ゆっくりと獲物に近づく。
「よし...」
しかし、突然の動きに獲物は逃げてしまった。何度か試すも、うまく捕まえられない。
(虫一匹すら捕まえられないのか...)
そんな時、【超音波】が新たな反応を捉えた。地上で何かが動いている。好奇心に駆られた悟は、その反応を確かめるため、低空で飛んでいった。
茂みの向こうで、小さなネズミが木の実を食べていた。コウモリの体格なら、十分に狙える大きさだ。
(これなら...!)
悟は獲物に向かって飛びかかった。しかし、その動きは遅すぎた。ネズミは瞬時に茂みの中へ逃げ込んでしまう。
「キィッ...」
悔しさと共に、自分の未熟さを痛感した。だが諦めるわけにはいかない。悟は再び【超音波】を使い、ネズミの動きを追跡する。茂みの中でも、その存在がはっきりと分かった。
(もう一度...!)
しかし、その時だった。
【警告:危険な生命反応を感知】
【エラー検知】が突然の警告を発した。だが悟は、獲物を追うことに夢中になっていた。
(今なら掴まえられる...!)
茂みに突っ込もうとした瞬間、【エラー検知】が更なる警告を発する。
【緊急警告:即座の回避行動が必要】
「キィッ!?」
警告の意味を理解した時には遅かった。茂みの向こうから巨大な影が現れる。灰色の毛皮を持つ狼だ。しかも1匹ではない。
【超音波】が詳細な情報を送ってくる。3匹の狼。おそらく朝の狩りの最中だったのだろう。そして悟は、彼らの狩場に不用意に入り込んでしまった。
リーダー格の狼が低く唸り、残りの2匹に指示を出す。彼らは素早く左右に分かれ、悟の退路を塞ぎ始めた。
「キィ...」
恐怖で声が震える。情報を軽視した代償は大きかった。【エラー検知】の警告を無視したせいで、最悪の状況に陥ってしまった。
(逃げなきゃ...!)
パニックになった悟は、とっさに上空への脱出を試みる。しかしその動きは、狼たちの想定内だった。
リーダー格の狼が跳躍する。その瞬間、【エラー検知】が悲鳴のような警告を発した。
【警告:致命的な攻撃】
「キィーッ!」
鋭い痛みが走る。狼の牙が、悟の羽に食い込んだ。
【HP:6/10】
スキル任せの安易な行動。警告の軽視。その代償は、痛みという形で突きつけられた。
血を流しながら悟は必死で考える。このままでは死ぬ。でも、まだ希望はある。まだHPは残っている。そしてなにより、二つのスキルがある。
(落ち着け...スキルを...ちゃんと使わないと)
狼たちが次の攻撃の構えを取る中、悟は【超音波】と【エラー検知】を必死に働かせていた。今度こそ、スキルの警告を無視するようなことはしない。
『コウモリからの転生譚』〜最弱モンスターから始める異世界生活〜 @loki-trick
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