王子の教育

 『魔界の王子の教育』を引き受けてから数日後の事だ。


 ある日、私はセリオ様に“二人の女性”を捧げた。


 ちなみに、その日は魔王様は所用でお出かけになられており、魔王城を留守にしておられ、玉座の間にはセリオ様が詰めておられました。


 いずれ魔王となられる御方でありますし、そうした“シチュエーション”にも慣れておかれた方が良いと、私が気を利かせての“生贄”でした。



「きゃ……! ひ、ひぃ……!」



「お、おのれ、悪魔どもめ! 我々をどうするつもりだ!?」



 ちなみに、用意した女性はとある小国の姫君と、その護衛役の女騎士。


 どちらも中々に美形であり、そして、“お約束”としてはあつらえ向き。


 怯えるお姫様を必死で庇おうとする女騎士、うむ、実にそそられるシチュエーションではないか。


 我ながら感心する!


 教材・・としては、これ以上にない、と!



「ククク……、どうするかだと!? それはまあ、決まっているではないか!」



 私は悪魔らしく、人間視点でのおぞましい顔を作りながら、二人に歩み寄り、姫の顔に手を伸ばそうとする。


 無論、女騎士が割って入ろうとするが、それもまた織り込み済みだ。


 部屋の隅からゾロゾロと姿を現す小鬼ゴブリン豚人オーク


 そう、これは王子の教育ですので、ちゃんと“王道的手順”で行きますよ。



「我ら魔の眷属は、人々が放つ負の感情こそが最大の御馳走だ。国を潰され、囚われの身となり、そして、醜悪な怪物達に辱めを受ける! お前も、お前が守ろうとする姫君もな!」



「ク……、何と言う卑劣な! 我が国をめちゃくちゃにして、しかも姫様の身柄まで辱めようとは!」



 ちなみに、この二人の国は私が半壊させておきました。


 教材調達のために地上の人間の世界へと赴き、邪魔してきた騎士団を吹っ飛ばし、王宮に侵入して、二人を強掠してきたというわけです。


 いやはや、久々の前線勤務、老骨には少し疲れましたな。


 まあ、人口が精々1万人に届くかどうかの小国であるし、昔なら軽々と蹴散らせたのだが、改めて老いと言うものを感じてしまった。


 しかし、心は晴れやか。


 こうして向けられる、攫われた女からの精一杯強がっている視線と言うものは、いつ見ても甘美に感じてしまう。



「敗者の勝者へ向ける蔑み程、虚しいものはないな! さあ、者共、二人まとめて孕ませてやるが良い! 悍ましい姿の魔の眷属の混じった人間を作り出し、それを植民してお前らの国を埋め尽くしてやろうぞ!」



 私の掛け声と共に、一斉ににじり寄る周囲の怪物達。



「ま、待て!」



「何かね? 命乞いの類ならば、聞く耳もたんよ?」



「ひ、姫様には手を出すな! そいつらの相手は、わ、私がしてやるから!」



 精一杯の声を絞り出す女騎士。


 自分がどんな目に合うかを理解しながらも、姫への忠義を全うする姿勢は、見ていて感動すら覚える。


 素晴らしい! 実に素晴らしいですよ、これは!



(これこそ、私の求めていた“王道的展開”というものだ。姫を庇う女騎士、姫の目の前で凌辱される。そして、いつしか体力が尽き、気を失う。次に目を覚ました瞬間、今度は女騎士の目の前で姫が凌辱され、更なる絶望を味わう。そして、最後は二人並んで辱められる。……これ、これですよ、私の求めていた展開は!)



 姫だけ攫って来ようと思っていたが、思わぬ拾い物がこの女騎士。


 やはり、王道的展開こそ、教材に相応しい。


 セリオ様も無言でこちらを見つめているが、微動だにしないその風格、まさに魔王のそれ!


 これは目の前の教材を、さらに仕上げてみせねば。



(さて、ここからの展開、先程の王道パターンで行くのも良いが、問題は“竿役”をどうするかだな。このまま周囲の連中に任せてみるか? ……いや、いっそのこと、セリオ様直々に“寵”を与えてみるのも悪くはない。あの魔力をこのレベルの人間が浴びれば、発狂するのは必定! まずは軽めに当てて、女騎士を失神する程度で抑えつつ、姫の方を強めに当てて、快楽堕ちさせる)



 それもまたよく使われるシチュエーションであり、なかなか迷う選択だ。


 さてどうしたものかと少し考えていると、ここで玉座に座していたセリオ様が無言の内に立ち上がる。



(おお、自ら動かれますか! そちらのパターンを選択されましたか!)



 これは良い。


 やはり次なる魔王になられる御方は違う。


 初めてのシチュエーションであろうと思われるが、すでに何をするべきかを“血”が知っておられるようだ。


 そして、怯える二人の目の前に歩み寄り、それを見下ろすかのように立つ。


 “関心なさそうな視線”がまた、その冷酷さを際立たせる。


 さあ、思い切りやっちゃってください、セリオ様!



「ねえ、二人とも、聞きたい事があるんだけど」



「……なんだ?」



「君達さぁ、もしかして、無理やり連れて来られた?」



「……へ?」



「……へ?」



「……へ?」



「……ガゥ?」



 その場にいた私を含む全員が、質問の意味を測りかねて、目が点になった。


 ただ一人、王子だけが申し訳なさそうな顔をして……。

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