魔界王子の教育係は今日も悩ましい
夢神 蒼茫
王子の実力
どうも下賤なる人間諸君。
我ら高貴なる魔族の足元にも及ばぬ低俗な知性と能力しか持たぬ者よ、お前達には私の愚痴に付き合うという栄誉をくれてやろう。
私の名はディアコン、魔界の王である魔王様の執事を勤めている。
一昔前は『魔界四天王』の一角を担い、魔王様を支える片腕として、人間諸君には恐れられたものだ。
とはいえ、寄る年並には勝てず、四天王の地位を返上し、今は魔王城を管理運営する執事となり、城内の人事とその差配が仕事となっている。
そして、最近の事なのだが、一つ重要な仕事が加わった。
それは、『王子の養育係』というものだ。
魔王様の御子息セリオ様は御年16歳。
今までは座学中心の養育方針でしたが、魔王様がそろそろ実戦形式の戦闘訓練も
その戦闘面での主任訓練官を、この私に任せたい、と。
「教育方針や内容はディアコン、お前に一任する。必ずやセリオを次なる魔王に相応しい存在に鍛え上げてくれ」
はっきり言おう、私は感動した。
すでにかつての悪名轟かせた活躍は過去のもの。
老兵は死なず、ただ去るのみ。
そう思って最前線を退き、今は側仕えとして魔王城にて職務に勤しんでいたが、まだこの老兵にそのような価値を見出していただけるとは、魔王様への温情は言葉に表す事が出来ないほどだ。
かくして、私は早速セリオ様の“現在”の実力を測りつつ、どう能力を伸ばしていくべきかを判断するため、私やその他家臣達との組手を行った。
するとどうであろうか?
まさに魔界の王子、次代の魔王に相応しい実力をすでに備えていた。
指を軽く突き刺しただけで大岩を
翼を生やして空を飛べば、ツバメかと思うほどに速くて軽やか。
魔力の制御も申し分なく、1kmは先に突き刺した槍の穂先に、百発百中で召喚した雷を落としてしまう程に完璧。
挙げ句、全力の魔力を収束させて打ち出す一撃は、山を真っ二つにする威力。
はっきり言おう。
齢16歳という若さでこれほどまでの力を身に付けているとは、正直考えてはいなかった。
魔王様が訓練の依頼を出してきたのであるから、いささか実力不足なのかと思っていたが、そんな事はない。
十分だ、十分すぎるほどの実力を身に付けておられる。
もしかしたらば、すでに全盛期の私を超えているかもしれない。
そう思えるほどに、この若き魔族の貴公子は、魔界の星となるために生まれてきた。
次の世代こそ、世界征服を阻む勇者達を退け、我ら魔族の天下になる。
……そう考えていた時期が、私にもあった。
セリオ様はお強い。小国程度であれば、お一人でも倒してしまわれるほどでありましょう。
しかし、重大な欠点があったのを、私は少し後で思い知るハメになる。
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