第5話 銀髪美女は元帝国の皇女

 ワタシの名はアナスタシア・セリョーザ・ノルディア。無駄で無意味な外征をして滅んだノルディア帝国の第五皇女。


 帝国が崩壊したあと、ワタシは東の隣国である日本皇国に移り住んだ。その時、ノルディアの名は捨てましたね。かつてのノルディア領で現在は日本皇国の実効支配を受けている倉知島くらしりとうで生活をすることにしました。ここには元ノルディアの市民でそのまま日本皇国に帰化した人々が多くいます。ワタシのような元ノルディア人にとってはある意味住みやすいところですね。

 そんな倉知島で一年ほど過ごしたのですが、ワタシを迎えに来たという人々が現れました。

 彼らのことは覚えています。

 男性の方はイワノフ、女性の方はナターシャといい、もとノルディア帝国宮廷警護官です。彼らは現在ノヴァヤスラビア国の大使館に勤めています。

 ノヴァヤスラビアはノルディア帝国発祥の地で、戦争を逃れた皇族、貴族が多く住んでいます。

「皇女殿下、お迎えに参りました」 

 ナターシャはそう言いました。


 ワタシはあることを決意するため、彼らと共に行くことにしました。

「翔太、しばらくの間お別れですね」

 ワタシが翔太にそう言うと彼はとても悲しそうな顔をしました。

 ワタシも翔太と別れるのは身が引き裂かれるほどつらい。

 だって翔太はワタシの初恋の人だからですね。


 十三年前、ワタシが十歳のときに文化交流という名目で三ヶ月ほど大阪ですごしましたね。

 隣国である日本皇国の文化を学ぶためです。

 それはノルディアの穏健派の計らいでした。宮廷内しか知らない皇族に少しでも外の世界を学ばせようという考えに基づいていましたね。その時、護衛として一緒に来たのがイワノフとナターシャですね。

 ワタシは大阪の公立小学校に短期留学生という形で通いました。ワタシがノルディア帝国の皇族と知る者はごくわずかでしたね。

 その小学校でワタシは翔太君に出会いましたね。

 彼は当時片言の日本語しか話せないワタシに話しかけてきました。どうやらアナスタシアという名が彼の好きなアニメのヒロインと同じだというのです。翔太君はワタシにそのアニメの話をしてくれました。

 それがきっかけでワタシは翔太君と話すようになり、アニメを好きになりました。

 それからも翔太君はワタシにアニメやコミック、ゲームの話をしてくれましたね。

 思えば、ワタシを同年代の女の子として扱ってくれた初めての人が翔太君でしたね。

 祖国でのワタシは皇女でそこには身分の上下しかありません。対等な同い年の友達はいませんでした。

 このとき、翔太君は大人になったら結婚すると約束してくれました。それは子供のたわいない言葉だったかも知れませんが、ワタシはとても嬉しかったですね。


 三ヶ月の留学はあっという間に過ぎましたね。帰り際に大量に日本のコミックやライトノベルを買って帰りました。帝国に帰ってからもナターシャに命じてそれらを買い漁りましたね。

 ワタシは原書で日本のコミックやライトノベルが読めるぐらいに日本語が得意になりましたね。


 ですが、ワタシの祖国ノルディア帝国は穏健派が外征派に権力闘争で敗れ、外征派の急先鋒ボルコフ首相が政権を握りました。そしてかつての帝国の構成国であるエリシア公国に侵略しました。そこで最新の人型戦術兵器第七世代アーティファクトを有する自由主義連合に敗北し、あまつさえ逆侵攻を許し、帝国は崩壊しました。

 その混乱の中、ナターシャとイワノフはワタシをザハリンに逃がしてくれました。宮廷の自室に集めたコレクションがそのままだったのがとても残念ですね。そしてワタシは身分を隠して、日本皇国にやってきました。

 ルームシェアの相手の名が大和翔太と書かれていて、ワタシは運命を感じましたね。


 翔太、ほんの少しのお別れですね。ワタシは自分の過去に決着をつけてきますね。

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