第2話 銀髪美女とルームシェア

 目の前にいる銀髪美女はアナスタシア・セリョーザと名乗った。アナスタシアさんは僕たちを見て、にこにこと微笑んでいる。

 僕はその美しい笑みに思わず見惚れてしまう。

 そう、アナスタシアさんは息をするのも忘れてしまうほどの美貌の持ち主だったのだ。

 まず特筆すべきはその背の高さだろう。たぶんだけど僕よりは十センチは高いと思われる。すなわち身長は百八十センチメートルはあるということだ。その手足はすらりと長い。肌は雪のように白い。

 目鼻立ちはノルディア人特有のくっきりはっきりしたもので、まつ毛がばさばさに長い。瞳の色は透き通るような青空色をしている。

 手足も腰もほっそりとしているのにその胸の膨らみは驚くほど豊かなものだった。半袖のニットとスリムのデニムという装いが彼女のスタイルの良さをひきだたせている。

 ああっあの大きな膨らみを包むエプロンになりたいものだと僕は妄想した。


「あなたがルームシェアするアナスタシアさんね。私は大和優美やまとゆみ、よろしくね」

 僕がおかしな妄想をしていると優美がアナスタシアさんと握手をしていた。


「ぼ、僕は大和翔太やまとしょうたといいます」

 銀髪巨乳美女を目の前にして、気持ち悪いぐらいにどもってしまった。

 それにしても、優美はルームシェアって言った。そんな話は聞いてないぞ。

 僕が優美にジト目を向けると妹はぺろりと舌を出した。

「あはっ、忘れてた」

 いやいや、忘れてたじゃないよ。


 優美が語るには移住希望者の数に倉知島の住宅事情が追いついていないとのことだ。そこで住宅がそろうまで何組かはルームシェアをしてもらうということになったという。

「移住推進課の人がそう言ってたのをいい忘れてました」

 優美がすまなさそうに謝る。


 知らなかったから驚いたけど、ということはこの銀髪巨乳美女とルームシェアすなわち同居できるということか。これはもしかしたら僕の好きなラブコメのライトノベルみたいにラッキースケベ的展開もあるのでは。

 僕が妄想で鼻の下を伸ばしていたら優美に頬をつねられた。

「翔太お兄ちゃん、アナスタシアさんが美人だからって変なことしちゃあだめだからね。国際問題になりかねないんだから」

 と妹に注意されてしまった。


「翔太さん、優美さん、よろしくね。そうそう、ボルカをつくったのよ。皆で食べましょう」

 アナスタシアさんは僕たちを交互に見て、そう言った。

 ボルカというのはノルディア帝国の伝統料理で一言でいうなら、よく煮込まれたシチューだ。具材は家庭や地域によりさまざまでアルコール度数の高いボルカ酒に肉を漬け込んで作るのが特徴的な料理であった。

 さっきから部屋に漂う良い匂いの正体はそのボルカシチューのようだ。


 僕たちはアナスタシアさんの手料理をいただくことになった。大阪からの長旅でお腹はペコペコだ。

「アナスタシアさん、私手伝うわ」

 荷物を置き、優美はキッチンにはいる。

 僕たちが住むことになった部屋のキッチンはカウンタースタイルになっている。リビングの広さは十五畳で八畳の部屋があと二つある。

 ということは僕は優美と同じ部屋で寝なければいけないのか。さすがにアナスタシアさんと同じ部屋というわけにはいかない。だとするとプライバシーがあまりないな。

 銀髪巨乳美女とルームシェアするのだから、これぐらいは我慢しないといけないな。


 僕も手を洗い、食事の用意を手伝う。

 アナスタシアさんが作ったのはボルガシチューとエビのサラダ、ガーリックトーストであった。

 ボルガシチューは感動的なほど美味しかった。

 倉知島は海産物が特産品である。新鮮な魚介類が都会では考えられないほどの低価格で手に入る。

 その新鮮なエビを使ったサラダも絶品であった。


「アナスタシアさん、とても美味しいよ」

 優美も絶賛している。

 僕たち兄妹きょうだいは食に無頓着だ。お腹が膨れたらそれでいいというような生活を送っていた。なのでアナスタシアさんの手料理は骨身にしみるほど美味しかった。


「喜んでもらえてよかったわ。ワタシ、料理がすきなのよね。料理当番はワタシにまかせてね」

 アナスタシアさんは右腕を曲げて力こぶをつくってみせる。細いのにきっちりと筋肉の形が見える。

 アナスタシアさんって何かスポーツでもやってたのかな。


 僕と優美はボルカシチューをぺろりとたいらげ、その日はぐっすりと休んだ。

 明日は生活必需品や日用品、洋服に食料品を買い込むために三人でショッピングモール「レギオン」に行くことなった。


 それにしてもアナスタシアっていう名前、どこかで聞いたことがあるんだよな。でも思い出せないな。まあ、深く考えても思い出せないと思うので、僕は眠ることにした。すでに妹の優美は布団にくるまり、ぐーぐーと寝息をたてていた。

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