最北のショッピングモールで銀髪美女と恋に落ちる。彼女は亡国の王女でした。

白鷺雨月

第1話 銀髪美女の名はアナスタシア

※この物語は実在の国家、団体、民族、宗教など一切関係ありません。


 この世界とよく似た並行異世界での物語。

 

 二十一聖紀せいき最後の帝国が崩壊した。

 その帝国の名はノルディア帝国といった。アークティア大陸の東側のほとんどを領土とすとる大国であった。ノルディア帝国はかつて帝国の構成国であった西の隣国エリシア公国に侵略した。だが、エリシア公国が加盟する自由主義連合の反撃にあい、逆侵攻を許してしまう。連合国の最新兵器第七世代アーティファクトの前になす術もなく、ノルディア帝国の首都セヴェルグラードは開戦半年後に陥落、占拠されてしまう。

 かつて栄華をほこったノルディア帝国はここに滅び、構成国であった七つの国はそれぞれ独立する。


 これが聖歴二千二十三年におこったできごとである。それから二年が過ぎだ。

 事実は小説よりも奇なりだと僕はカーナビの画面をちら見しながら思う。

 この混乱の中、僕が住む国である日本皇国は火事場泥棒的にノルディア帝国に奪われていた北東五島を取り戻した。時の首相桂木修司は国防隊を北東五島に派遣し、実行支配に成功する。北東五島のノルディア帝国側の守備隊は西部戦線にかりだされていたため、ほぼ無人だった。

 その後、独立した構成国のうちの一つで日本皇国と海をへだてて北西側に接するザハリン自由共和国と平和条約を結ぶ。ザハリン自由共和国も独立したばかりで経済状態はひどく、その北東五島を売り払い、日本皇国から援助金と技術協力をとりつけた。


「まあ、これがこの二年でおこった世界の出来事だな」

 僕は助手席にすわる妹の優美にそう説明した。

 優美はうつらうつらと頭を揺らしていた。

 せっかく僕が今の世界情勢を説明してあげたのに、この態度はちょっとひどくないか。

「ごめんごめん、翔太お兄ちゃん。だって大阪から飛行機をのりついでやっとついたんだよ。もう眠くて眠くて……」

 ふぁあーあと大あくびし優美は背をのばす。

 疲れているのは僕も同じなんだけどね。



 僕の名前は大和翔太やまとしょうたという。二か月前に大学を卒業したばかりの二十二歳だ。となりで目をこすっているのは妹の優美で二つ下の二十歳である。

 僕たちは政府が募集した北東五島への移住者だ。五島のうちもっとも大きな面積をほこる倉知くらしり島に移り住むためにこの地にやってきた。

 なんたって移住者には特典として政府から補助金がでて、なおかつ税制の免除がうけられるというのだ。しかも仕事も斡旋してくれるという。Fランク大学をでたはいいが、どこにも就職できなかった僕にはそれはチャンスであったのだ。

 この倉知島をはじめとした北東五島はいわば経済特区なのである。消費税だって十年は免除されるっていうはなしだ。


「ほらついたぞ」

 僕はまた助手席で居眠りをする優美の肩をゆらす。こいつ飛行機でも寝てたのに、よく寝れるな。

「ふぁ、ついたのね」

 僕たちは政府から貸し出された軽自動車を降りる。

 時刻はもう午後六時になろうとしていた。

 目のまえには国が臨時でつくった住居がある。臨時とはいえ、僕たちが大阪で住んでいたアパートよりも立派なものだった。

 六月とはいえ、北の夜は冷える。長袖のТシャツ一枚では冷える。

「うー寒いわ」

 優美が両腕で自分自身を抱く。優美は半そでのワンピースだったので見てるこっちにも寒さが伝わる。

「明日、ショッピングモールに買い出しにいかないとな」

 僕は優美に提案する。

「たしかレギオンができたんだっけ。私、あそこで働くのきまってるんだよね」

 優美は歯をふるわせていた。


 とりあえず、荷物を部屋にいれようということで僕たちは車からスーツケースを下す。のこりの荷物は二、三日後には届く予定だ。

 僕たちに貸与された部屋は二階の一番奥だ。スーツケースをひきずり、エレベーターで二階に向かう。ちなみにこのアパートは五階建てで、僕たちが住む予定の部屋は二LDKということであった。

 部屋の前についた僕は鍵でドアを開ける。


 あれっおかしいぞ。電気がついている。それになんかいい匂いがする。

 妹の優美が鼻をひくひくさせている。

 どういうことだ。この部屋は僕たちが住む予定で、住人は誰も住んでいないはずだ。それなのに人の気配がする。

 部屋を間違えたのかと思って鍵をみる。部屋番号の二〇八のキーホルダーがついている。そしてこの部屋は二〇八号に間違いない。


 たたたっと誰かが部屋の奥から現れる。

 僕はその人を見た瞬間、心をうばわれた。銀髪のとんでんもない美女がエプロンをつけて、僕たちの前にあらわれたのだ。

「ワタシはアナスタシア・セリョーザよ。ノルディアからの移住者なの。よろしくね」

 天使のような微笑みでアナスタシアは僕たちを出迎えた。   

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